天
「しかし、意味の分からない任務だ日本語が日本語喋ってくれねぇ」
三鉢が船の上で愚痴を漏らす。眼前には今回の任務の目標が見える、船が逆さになって周囲の岩に突き刺さっている。これを解決しろとのことだ、
「こんなことをする意味が分からない。相手は漁船だぞ?密航者でもヤバいもの詰んだ船でもない」
「突き刺さった船に共通点はない、日時も曖昧。強いて言うならここに通った船」
爛川が三鉢に助言する。
「多分、夜までかかるだろうな」
「それに鏡崎・新沢チームはアルゴの”落とし子”と交戦したらしい。警戒を怠るなよ」
「アルゴが動いたそうよ。やり方は20年前と同じ」
暗い会議室のなかで、蓮千亭副局長押尾が話す。
「そうか...しかしどうやって...」
「20年前俺たちは確かにリーダーを除く全工作員を倒した」
「リーダーも24時間監視状態に置いている。なのにどうやって...」
柊がコーヒーのコップを見据えたまま話す。コーヒーは闇を写すだけでなにも答えてはくれない。
「副長殿!」
ドアが勢いよく開けられ、中に一人の女性が入ってくる。
「バカ野郎、ノックしやがれ!次はお前の心臓を蹴破るぞ!」
本屋が女性に怒鳴る。女性は咄嗟に謝る。
「落ち着け、本屋副長。ドアを蹴破る程の要件だ、何の用だ」
柊が優しく話しかける、
「アルゴ首領、天津宝仙が消えました」
「何!?どうやって?あそこから逃げ出すのは不可能だ!」
「それが...突然...まるで切り取ったかのように消え去ったそうです。魔力の痕跡も特に見つかりませんでした」
「しかし何も起きんな...」
「何も起きないのはいいことよ。ま、漁師の人たちにとってだけど」
三鉢が毒づく。最初は高かった日はもう沈もうとしている。海の真ん中で変わらない景色を見せられ、二人は飽き飽きしていた。
「漁村に残った二人が羨ましいよ、まったく」
霧島とサブロウは漁村に残って調査を進めている。今思うとそちらに行った方が良かった。
「しかしあっついわね...奥から飲み物取ってくる。何が良い?」
「そうだな...硬水があるだろう。それを頼むよ」
爛川は船室に飲み物を取りに行く。扉を開け、乱雑した船室が目に入る。幸か不幸か二人は部屋を汚くするタイプだ。
「コップどこ置いたのよ」
「ん?机の上にないか?」
「ごめん、机の下にあった」
爛川が机の下のコップに手を伸ばす。
カラカラカラ...
手が触れる寸前、コップが回転する。コップは爛川の脇をすり抜けて転がっていく。そして扉に当たって止まる。
「来たわよ...あいつが!」
爛川が振り返った時、船の先端は上昇を始めていた。物理法則に従い、あらゆるものが滑り落ちていく。
「おおっ!?クソどこかに掴まれ!」
「ブー」
船がひっくり返っている同時刻、漁村に残ったサブロウが唸っていた。
「ど、どうした?何か感じるのか?」
聞いた所によると、サブロウは魔力の流れにかなり敏感らしい。サブロウがのそのそ歩いていく。霧島は後ろを歩いていく。しばらく歩いてサブロウは止まる。
「ん...?ここなのか?」
サブロウは頷き、建物を見上げる。そこは何の変哲もないただの家だった。二階建てで、二階だけに電気がついている。2階のみカーテンは閉められ、中の様子を見ることはできない。
「クソ...俺の魔法はこういうことには対処できないんだよ!」
船を掴んだ三鉢が愚痴を吐く。通信機もジャミングのようなものがかかっていて使用できない。このままでは溺死してしまう。
「私も少し厳しいわね」
影の中に逃げればいいが、この海の真ん中でそんなことをすると出てこられなくなる。
「一部の舟は海底まで行かずに止まったらしいからそれに賭けるしかないな...」
「よし...待て!」
霧島は直前で行くのを止めて傍に隠れる。一人の女性が買い物袋を持って中に入っていった。しばらくして家が騒がしくなる。霧島は素早く家の敷地内に入り、耳を澄ませる。中からは喧嘩のような声が聞える、
「サブロ...」
声を掛けるや否や、サブロウは窓を突き破り家の中に入る。
中には女性と男性が二人居て、驚いた表情でこちらを見る。
「落ち着いて下さい、私は怪しい者ではありません」
霧島がなだめる。
「いきなり人の家の窓を壊して...何なんだお前ら!」
「ちょっと、よしちゃん!そんな言い方止めて」
「その名で呼ぶんじゃねぇ!」
目の前の親子が喧嘩を始める。




