帰還
「装備に問題はあった?」
霧島はモニター越しに話しかけられていた。向こう側には白い壁と喋る男が見える。霧島はこの人間を知っている、自身の全身の装備を開発した河倉という人物だ。
「いえ問題なく稼働していました。ただ、まだ反動が強いです」
「そうか~、そろそろ迎えが来るだろうから待ってて」
そう言って通信が切れる。霧島はいつものように錠剤を水で喉の奥に流し込む。錠剤の量はかなり多い、普通に生きていればこの量の薬を飲むことはまず無いだろう。河倉博士曰く魔道具の使用の為に体の調子を錠剤を用いて調整するらしい。よくわからないが魔法の流れが変わるらしい。霧島は横になる、薬を飲んだ後は眠くなるのだ。ゆっくりと瞼が落ちる、微睡みの中向こう側に爛川が見えた気がした。
「なんで寝てるのコイツ」
爛川は不機嫌そうに吐き捨てる。
「そうか。分かった」
「二人が任務を完遂したようだ」
「そうか...それはよかった」
文の報告を夏目は上体を起こした状態で聞く。まだ体の調子は戻っていない、春も同様だ。早く治さないと。
「君の回復にはまだ少しかかる。少し休んでいろ。しかし若いというのは羨ましい、一か月はかかると思っていたがまさかこれほど早く回復するとは」
文が扇子を扇ぎながら話す。手には何か書類のようなものが握られている。
「また、任務ですか」
「ん?これは違うこれはただの書類だ、上に提出する。ね」
「そうですか」
この人の上、かなり位の高い人なんだろう。蓮千亭はトップの鈴仙卿とその補佐を務める灰道副室長、そしてもう一人、柊副室長とその下に文のような元帥が数人いる組織になっている。豪華な装飾、恐らく提出先は鈴仙卿だろう。
「あともう一つ、君の師匠が君のこと呼んでたよ」
「明美さんが!?」
「春にも声を掛けていたから早く行った方がいいんじゃないか」
そう言って文は去る。夏目は松葉杖で立ち上がり歩き出した。
「来たか、昔からお前は大げさなんだよ」
夏目の師匠、望月明美がなんとかドアを開けて松葉杖でよちよちと部屋に入ってきた夏目に言う。すでに春は椅子に座っていた。身体強化魔法は身体に大きな負担を与える。自分の魔法は完成していると思いたいが、日元のような身体魔法の使い手と闘うとどうしても経験の差や実力の差が顕著に表れてしまう。二人で共闘できたから勝てたといってよい、もしあいつのような存在と一人で闘うと思うとぞっとする。
「でも生きててよかったよ二人とも」
明美が二人に笑って話すが、夏目と春は嫌な予感しかしていなかった。この人が笑って話すということは大抵ろくでもないことである。そう考えていると後ろのドアがノックされる、もう嫌な予感が当たった。
「入って...おい」
明美の発言を無視してこの部屋に入るという命知らずな行動を行える人間はそうそういない、元帥クラスのとてつもなく階級の高い人間か命知らずだけだ。この人間は恐らく
「あー?箪笥の中から現れなかっただけありがたいと思え」
「もし現れてみろ、お前が私の部屋の床の次に踏む場所をラボの床から地獄の土に変えてやる」
後者だろう。入ってきた男は頭を掻きながらこっちにゆっくり歩いてくる。
「へいへい悪かったって。それよりとっとと本題に入ろうぜ、お互いあんまり暇じゃないんだ」
この男は確か河倉、革命軍の技術部の副所長の男だ。
「君たちに行かせようと思ってた任務でね、中々興味深いことが分かったんだ」
「君たちも名前は聞いたことがあるだろうがアルゴが活発に動き出したことが分かった」
アルゴ、昔活発に活動していた反社会的な組織だ。しかしながら大半の幹部と構成員の逮捕を受けて組織は壊滅、もう本にしか名前が載っていない。そんな組織が今更何をしようというのか。
「だから人手が足りなくなりそうなんでね、もう君たちを前線に戻そうと思うんだ」
「私は前線に戻すあんたらのお守を任された」
明美が口を添える。その後ろから先ほどとは変わって邪悪な笑みを浮かべた河倉が現れる。
「君たちの傷なんだが、実は少々試したいことがあってね?」
「院からの伝言です、計画を第二段階に移せと」
真っ暗な空間で少女が椅子に座っている男に話しかける。男は机の上の蠟燭を眺める、蠟燭の火は揺らめき
「分かった」
「もう一つ、メンバーを収集せよ。飢えた犬にそろそろ餌をやるころだ、とのことです」
「了解した、お前はもう還っていいぞ」
その言葉を聞いた瞬間、少女の体が崩れていく。落下する土の中に一粒の涙が混ざる。男はその崩れる様をずっと見据えていた。やがて土が山になる。
「アルゴはただ人に望みしものを与える。死を恐れる者から死を遠ざけ、未来という光を恐れる者に安寧なる闇を与え、知を求める者には適正な知識を与える。我らは人に与えるのみ」
男はその山に言葉を優しく浴びせる。土の山は何の反応も返さない。男、新藤は立ち上がる。
「さて、動くとするか」
新藤は歩き出した。




