目
「お呼びでしょうか、教授」
一人の女性が建物の外で待っていた。話すたびに咥えている飴の棒が動く、
「おう、アレじゃ。分かるじゃろう」
「はぁ...あなたがアレで表現するものは現状50個ほど存在していますが、分かりましたアレですね」
「そう、アレじゃ」
「始めまして鷹野と申します」
手慣れているようで、教授を軽くあしらって鷹野が列に加わる。そしてしばらく歩くが、会話は生じずに険悪な空気が流れる。耐えかねた町長が口を開く。
「鷹野さんはいつ戻られたんですか?」
「今朝です」
鷹野はきっぱりと言い切り、また黙ったままの時間が流れる。そしてしばらく経って目的地に着く。
「着きました、こちらが目的地です」
町長が手で示す、立派な造りをしている旅館だ。
「わざわざこのような場をありがとうございます」
「いえいえ、いいんですよ。それに今日は”祭り”がありますので、そちらの方も楽しんで頂けると嬉しいです」
町長は去っていった。
旅館の部屋に霧島と教授が入る。
「なぜ彼らは消える必要があったのか...神隠し?何の為にそんなことを」
ぶつぶつと呟く。教授はピーナッツを食べながらそれを聞いていた。
「なんであれ答えが分からないときはな。まず問題の対象を考え直すんじゃ」
「もしかしたら、全く違うものを考えてるかもしれんぞゥ」
教授は悪戯っぽく笑い部屋を出る。問題の対象を考え直す...?何故彼らが消えたかではなく、別の事...そして謎の数式のメモ...。見てみる、そしてそれぞれ解を求める手順を書く。犯行が古い順に途中式を書く量が増える。そして解の値も1とみなしていいほどの数だが、1から少し離れている。犯行が新しくなるほど誤差は小さくなり最後は0になった。
「最後は完全な1...これはまさか...」
「うーん...」
爛川も自室で考えていた。今回の事件、何もかもが自然すぎる。攫われた家にも特にこれといった痕跡はない、本当に家から人を切り取ったものを見せつけられているようだ。それに攫われているように見えない、まるで先程の鷹野のようにちょっとジュース買いに行ってくるのような感じで人が消えている。それに動機が分からない、仮に犯人が教授だとして...全く思いつかない。他の人間にも同じことが言える。
「う~ん。霧島君の所に行こうかな」
爛川は霧島とお互いに話し合い、ある結論に達した。
「何の御用ですか?捜査官殿」
町長が霧島に言う。その隣にはこちらを睨みつけながらピーナッツを食べている、町長の隣に居るのが嫌なのだろう。実際町長も不機嫌そうな顔をしている。
「まず結論から言いましょう、この事件に犯人は存在しない」
「全員が最初からグルになっていたんです。もっと早く気付くべきでした」
「一体何を」
「影魔法 影縛り」
後ろから爛川が魔法を唱えて現れる。教授と町長は暫く身体を動かそうとするが動かないことに気づき動くのを止める。
「全ての被害者の家から何の痕跡も見つかりませんでした。最初は巧妙に隠し続けているのだと思っていました。でも違った」
「恐らく何らかの巨大な目的のために被害者も協力していたのでしょう」
霧島は語る。
「証拠は...あるのですか?」
「ええ、これから提示します」
霧島は瓶を取り出す。中には蠅が一匹入っていた。蠅は瓶の中で規則的に動いている。
「これです」
「蠅か...どうかしたのかね」
「ほぅ...」
「この蠅は、魔法生物です」
「それで爛川さんの協力のもといろいろとこの生き物を調べました」
「あなたが使用した魔法だということが分かりました。許可されていない魔法です、詳しい話を聞かせて...」
「やれ」
井川が冷たい声で言い放つ。その瞬間蝿がガラス瓶を突き破り、爛川に突進する。
「影魔法 転移」
爛川は影に隠れて蠅を躱す。
「おおっと、それ以上は...」
教授が井川を両手で捕まえる。
「いつ気付いた?新藤はともかく、お前たちが真実にたどり着く余地は無かったはず」
「ワシが二人に仕込んだんじゃ」
「そうか...」
教授、新藤の言葉を聞き終わった井川は眼を閉じる。窓から一匹虫が入ってくる。
「蛍光」
その瞬間強烈な閃光が発生する。霧島と爛川は手で光を遮る。強烈な光の中走る音が聞こえる、井川のものだろう。光が消える。
「プラン通りですね」
鈍い打撃音、そこを見ると鷹野がバットと井川を持って立っていた。井川はぐったりとしている、頭からは血が滴り落ちている。死んでいるのだろうか、
「俺を捕まえても何の解決にもならんぞ、馬鹿ども」
井川が負け惜しみのようなものを漏らす。
「そうか」
霧島は静かに返す。井川は顔を楽しそうに歪める。
「ははは、は」
井川の声が止まる。見ると顔のあらゆる穴から虫を出していた。それを皮切り虫の翅の音があらゆる場所から聞こえるようになる。窓の外を見ると虫があらゆる場所から湧き出ていた。全て魔法生物の虫だろうか。霧島は井川の方を見る、虫は出尽くしたようで井川は倒れている。虫たちが出た穴からは血が出ており、これは恐らく井川のものではないだろう。
「始まったか」
「はい、マザーの反応を検知しました」
「さて、お二人さん。こっからはこちらの予定に付き合ってもらうぞ」
新藤が振り返って二人に笑う。




