自然な不自然
「新藤教授?いらっしゃいますか?」
ボロ屋の扉を町長が叩く。だが扉を叩く音のみが返ってくるだけで肝心の人の声は一切帰ってこない。
「あー、うるっさいわい。人が気持ちよく寝てるところによォ」
扉ではなく、窓が開く。そこから白髪の男が出てくる。男は頭を不機嫌そうに掻いている。
「教授、いらっしゃったんですね」
「当たり前じゃ、ここ以外に居る訳がなかろう。そこの見慣れない二人はだれじゃ?」
「こちら、蓮千亭から来て下さった捜査官です」
「霧島です」「爛川と申しますわ」
「蓮千亭...となると柊の奴は元気か?」
霧島の頭に柊副局長がよぎる。灰道とは対をなす考え方をしており、少し前も犯罪組織の鎮静化に一役買っていた。
「元気過ぎてこちらが困ってますよ」
霧島が返す。新藤は高らかに笑う。
「おう、そうかそうか。ま、二人とも入りな。おっと井川、あんたは仕事がまだ残ってるだろ」
「ええ、言われなくても退散しますよ」
井川は不機嫌そうに帰っていく。
「そうかそうか、あいつも今や副局長か。俺の中では未だに生意気なガキなんだがな」
「新藤さんは副局長と知り合いなんですか?」
霧島は出されたお茶を飲みながら尋ねる。爛川は部屋中にある虫の標本に萎縮してしまい、おとなしくしている。
「おう、昔はあいつの先生だったんだ」
新藤が笑って返す。
「まァ、昔話はこの辺にしといて。本題に入るか」
先ほどのはつらつな老人の印象は消え失せ、威圧的な態度が二人を襲う。新藤はまっすぐに霧島と爛川を見据える。
「ここ最近、教授が何をしていたか教えてほしいのですが」
「家に籠って研究してただけだが、困った。これを保障する人間が居ない」
「はい、実は僕たちは教授を疑っているんです」
「ほほゥ、こんなジジイに人を消すなんて所業ができると?」
霧島が新藤の左手を掴む、爛川は無言で鞄に手を伸ばす。
「こんなスピードでハエを掴む人が何もできないはずはありません」
新藤の手の中には蠅が握りしめられていた。新藤が手を開くと、蠅はまた飛行を始める。
「この島は温暖な気候でね、虫が多くてかなわん」
「そろそろ帰るといい、研究の邪魔だ」
「どうでしたか?何か分かりましたか?」
町長が尋ねてくる。
「いえ、特に何も。何故あなたは教授を犯人だと?」
「恥ずかしながら、現場に落ちていた数式を書けるのは新藤教授しかいないと思ってまして...この島の住民は頭が良いとは...言い難いんです」
「なるほど...」
食事を終え、霧島は町長が用意してくれた部屋で考えていた。爛川は向こうを向いて寝ている。
「何故、あの人たちは消えたんだ...」
考えれば考えるほど分からない。あの教授が消したのだろうか、それしか考えられない。でもどうやって。その目的は、霧島は頭を巡らせる。町長の息子の部屋も見た、だが何も変わったところは無かった。被害者に共通項もない、それに全員人に恨まれるようなこともしていない。何の前触れもなく突然人が消える、そうとしか表現できない。
「いったい何が...」
考えていると扉がノックされる、爛川は目覚める。霧島は扉を開ける。向こう側には町長が居た。
「今日はお疲れでしょう、お二人の宿を用意しました」
町長が笑顔で言う、
「おゥおゥ、そいつァ面白い話してるじゃねぇか」
後ろから突然教授が現れる。町長の顔が一気に不機嫌になる。
「新藤教授...生憎ですが...もう用意していまして」
「じゃあ、ワシも泊まる!」
新藤が無邪気に返す。
「ええじゃろゥ。死にかけのジジイの頼みじゃ。それにこいつらも寂しかろう」
「えっ同室ですか?」
町長はさらに不機嫌そうに返す。そんなに嫌いなのだろうか。
「おゥ、当然じゃ。こっちの女の子にはワシの助手を付けるぞ」
助手?そんな人は一切見なかったが。
「お二方はいいんですか」
二人は了承した。元々教授は監視するつもりだったので都合が良かった。
「ではご案内します」
町長の誘導の元、三人は歩き出した。




