A Girl Who Hates The Insects
「以上が、今回の作戦の報告です」
「ご苦労」
宙某が上司、蓮千亭副局長灰道に報告を終える。灰道は机に頬杖をついて報告を聞いている。
「一時離脱した2名に関しても、補填の人員はもう考えてあります」
「分かった、それでは任務が入り次第連絡する」
「了解」
宙某は扉から外に出る。
「そういう訳でな、君達が夏目君達の代理をしてもらうことになった」
「了解ですわ!」「あっ...了解です...」
アジトに戻り、宙某は二人の二人の男女に告げる。女性、爛川は大きな声で、男性、霧島は小さな声で返事をした。
「今回行ってもらう場所はここだ」
そう言い、地図を指さす。それは本島からとても離れ、周りを海に囲まれた離島であった。見たことも聞いたこともない島だ。
「ここの住民からの通報でな、牛や豚が時折いなくなるらしい」
「それだけならまだいいんだが、時折人も消えるらしい。それで俺らに依頼が来たってわけだ」
「えっと...橘木島?」
爛川はもらったレポートに眼を通す。橘木島、農耕が盛んでそこで生産される農作物は世界的にかなり高評価を得ているとか。それを見た爛川は頭にあることがよぎる。
「えっ...虫とかっているの?」
「いっぱいいるみたいですよ。この島、たまに新種の虫とか見つかるらしいですし」
霧島が冷静に返す。
「嫌!絶対行かない!」
聴き終わるや否や、爛川は青ざめた顔で絶叫する。
「こんなの、斬華とかに行かせりゃいいじゃない!いっつも暇してるんだから!」
「生憎、今仕事中だ」
「じゃあ他の奴...」
「爛川さん諦めましょう...決まったことなんですから」
「なんであんたはそんなに冷静でいられるのよ!虫よ虫!」
「そんなに気にすることじゃないでしょ、さっさと解決して帰ればいいんですから。それに今は冬ですよ」
「霧島の言う通りだ、さっさと行ってさっさと帰ってこい。見たところ虫は夜行性のようだ。今から行けば朝に着くぞ」
「そういう問題じゃ...ちょっと!下ろしなさい!」
喚く爛川を霧島は抱えて外に止まっている車に乗せた。
船に揺られること数時間
「うううううう」
爛川は丸くなって弱弱しい声を出していた。
「元気出して下さいよ、爛川さん。もう着きますよ」
「うるさいわね!あっち行ってなさい!心の準備...」
船が止まる、霧島は自分の荷物をまとめている。爛川はがたがた震えていた。よりにもよって私がなんでこんなところに...清潔と上品に脊髄が生えて動き回っているような私がこのような虫がはびこる不浄の地へ...できるならこのままうずくまっていたい。うずくまっていると黒い何かが目の前を横切る、考えるまでもないこれは虫だ。身体が粟立つのが分かる。
「ヒィィィィィィ!助けて!」
思わず霧島に抱き着く。
「はいはい、行きますよ」
霧島はコアラのように抱き着く爛川を抱えて外に出る。
「こんな辺境の地に来ていただきありがとうございます!何もない所ではありますが、どうぞくつろいでいってください」
町長の井川が頭を下げる。霧島は茶を飲む、爛川は死んだ顔をして同じように茶を飲んでいた。
「事件の内容を詳しく聞きたいのですが」
霧島は冷静に返す。
「はい、分かりました」
「まず、一人目の水辺は主に養鶏の仕事をしておりました」
「朝、町の集会に来ず。家を見に行きました、養鶏場には誰も居ませんでした」
「次は、漁師の渋川です。こちらは次の日の朝行方知れずになっておりました」
「最後は私の息子です。先日...友人の家を訪ねると言ってから行方不明に...」
「分かりました、最善を尽くしましょう」
「それと...それぞれの被害者の家にこれが残されていて...」
井川が封筒を手渡す。中には紙切れが入っている。紙切れには数式が描かれている、素早く解を出せるものと出せないものが混在している。
「答えはどれも1になりますね...」
「ここが一人目の被害者、水辺の家です」
爛川と霧島は中に入る。家に争った形跡もなく、家の周りが壊されたような様子もない。この人物が所有していた養鶏場も町が管轄するようになったらしく、鶏にも変わった様子は見られない。
「この被害者の家で発見された数式のメモは...」
霧島はメモを見る。とても難解な数式だ。大学、それもかなり上のレベルの学校で扱われるような式だろう。
「特に異常はない...ん?」
「どうしました?」
霧島が見に行く。爛川は靴箱の前に立っていた。ここや家の中も埃っぽいだけで特に異常は無かったはずだが...
爛川が棚を開ける。中には靴がたくさん入っている。主にはサンダルが多かった、暑い気候故だろう。
「この人は養鶏を仕事としてる人、なんで長靴が無いのかしら」
「ここじゃないところで脱いだとか?」
「そうかしらね...」
二人は渋川の家に来ていた。こちらの家も埃っぽいが、中は清潔そのものである。二人は渋川の家をいろいろと見て回ったが特に怪しいものは見当たらない。この家の数式もとても難解なものだ、だが水辺の方よりは少しマシといった程度だ。
「瓶が開いたままになっていますね...」
「多分飲んでるときに攫われたんでしょうね」
瓶が開けたまま、こんなことぐらいしかおかしいところは無い。電気のスイッチも付けっぱなしだった。二人はため息をつき、家の外に出る。町長が家の外で待っていた。
「何か見つかりましたか?」
「いえ、特には...」
「そうですか、ならお二人をある男に会せようと思います」
「ある男...?」
霧島はそこで気付く、町長の顔行きが暗くなっている。
「男の名は、新藤椿。山の方に住んでいる元大学教授で」
「私はその男が犯人だと思っています」
町長が静かに告げた。




