過ぎて
「ご…ゴオオ…」
日元はもはや人ではない声を上げる。そして再び春と夏目に対峙する。対する春と夏目は満身創痍といった様子。
「ここまでやってまだ動くか…」
夏目が呆れたように言葉を漏らす。穴が深くないとはいえ、頭に穴が空いた人間に話しかけられるのはなかなかホラーである。こちらの強化魔法は時間切れで解除されているが、向こうは解除されていない。かなりまずい状況だ。まず歯が立たないだろう。日元がゆっくりとこちらに歩いてくる、夏目はじりじりと後ずさるが、やがて壁際に到着してしまう。
「まず1人…」
だが、さすがに力を使い果たしたようで、日元は床に倒れる。腕に力を込め、起き上がろうとするがすぐに腕が倒れてしまう。息も途切れ途切れになっている。
「凛…すまない」
ポケットの中から思い出の写真を取り出す。自分の血で真っ赤に染まっていて、地獄のようだ。
「俺はもう…正義を貫けない…ごめんな…ごめん…罪人の俺を許してくれ」
日元はゆっくりと目を閉じる。最後まで立てようとしていた腕も完全に倒れふす。春と夏目はため息をつく。
「ビジランテ…自警団か…」
夏目が日元の亡骸を見て呟く。日元は最後まで自分の正義を貫き続けていた。もし、何かが違ったらこういう奴も仲間になってたんだろうな…そんなことを考えながら夏目は春を抱き起こす。途中でダミーと入れ替わっていたが、ダメージがかなり蓄積している。2人は会議室から出ていく。そういえば統が来なかった、何をしていたんだろうか。
「かなり危なかったな…」
遠くから戦いを見ていたレイブンは人ごとのように呟く、そして闇の中魔法を詠唱する。レイブンは夜の闇の中に消えていった。
「やあ、お帰り」
「お帰りじゃないですよ、死にかけたんすよ」
「ごめんごめん。すぐに治療するから横になって」
革命軍の根城で、夏目は医療担当の斎波という男と話していた。夏目は春を寝かせる、かなり魔力を浪費しているらしくぐったりとしていて全く動かない。斎波が魔法を詠唱し、自分の背中から触手を生やす。
「さあ、どこを怪我したか教えてくれるかい?」
「これでしばらく安静にしていれば治るよ」
「どのくらいだ」
「そうだねぇ…だいたい1ヶ月くらいかなぁ…」
「怪我の様子はどうかな?夏目君」
話しているところに元帥の宙某が入ってくる。左目の真っ白な眼帯がトレードマークの男である。
「あと仕事はしっかり行ってくれたか?」
「もちろん、ビジランテは排除した」
だが、夏目の顔は晴れない。
「どうした?何か心配ごとか?」
「…確かにあいつは警察が俺たちに頼み込むほどの凶悪犯だった。でも排除しなきゃいけなかったのかな…あいつは法が裁けない悪だけを裁き続けてきた。あいつに救われたやつもいたはずだ...」
夏目が不安そうに言っていると、宙某が手を優しく肩に置いた。
「言いたいことは分かる...でも、俺達はそれを認める訳にはいけない。認めてしまうと今の英霊隊を認めてしまうことになるんだ」
「だが、そんなことを考えているうちは大丈夫。君は立派だよ、そういえばまた来客の予定があるんだ。僕はこれで」
宙某が去る。そして時間差で女性が入ってくる。女性はスナック菓子を持ってきている。
「災難だったな、二人とも」
そして隣に座り、スナック菓子を貪る。
「明美師匠...」
明美はちらりと春の方を向いたが、すぐ視線を夏目の方に戻す。
「容態は斎波から聞いた、死んでなくてよかった」
「まずは怪我を治しなさい、また働いてもらうわよ」




