お兄様達からみた妹
王都にある、大きな建物の一つ、王立学園の教室の窓辺でアランは一人、窓辺に頬杖をつきながら憂鬱にため息をついていた。そよ風が舞い、カーテンが窓の端で舞う姿は正しく絵画のように美しい。その姿を向かい側の女子棟から見ていた年頃の少女達が見つめ、その口からは黄色い悲鳴があがっている。王子の中の王子と言われる、マルディ家の長子アランは、お姫様達に大人気である。王子の周りには他の王子達が囲い、楽しげに会話をしている。
「ほら、可愛い姫達がまたアランを見てるぞ」
緑色の髪の毛をした少年オーギュストは、楽しげに双眼鏡で向かい側の校舎を眺めながら言った。
「本当だな、モテる男はつらいねー」
そう言いながら、窓辺に腰掛けてアランの視線の邪魔をしたのは、紫色の髪の毛に桃色の瞳をしたエリクだ。
「で、君にそんな顔をさせる女性は誰だい?」
アランの背中に乗りながら、ギヨームがからかえば。アランはまた一つため息をついて言った。
「はぁ、ギョーム重い。僕はただ、早く領地に帰りたいだけだ」
3人はその言葉に顔を見合わせた。
「領地?どうした、アラン」
エリクに顔を覗き込まれ、アランは窓辺からやっと離れ、席に戻った。
「まさか、領地に彼女ができたのか?」
ギョームが思わず大きな声で叫べば教室にいた他の人たちの視線がこちらに向いた。
「違う!妹がいるんだよ!」
急いで訂正したアランだが、そう言った後にまた小さくため息をついて、気を紛らすようにカバンから教科書を取り出した。
「妹?あ〜そういえば、生まれたって聞いたな。」
オーギュストはちらりと前にアランが言っていたのを思い出した。あの時は、生まれたばかりなため母親だけ王都に来れないとかいう話だった。
「へー何、可愛いの??」
好奇心でエリクが聞けば、アランが真顔で答えた。
「当たり前だろう、俺の妹だぞ、可愛い」
「まーまーアランは面倒見がいいからな。お前の弟、若干ブラコンだし。」
オーギュストは、アランの弟、ウジューヌを思い出しながら言った。
「あーウジューヌ君ね。彼は可愛いかったね。今年も来ているだろ?また寮にくるのかな?」
ギョームは前にあった出来事を思い出しながら言った。ウジューヌが兄に会いに、寮に潜入して大騒動になった事があるのだ。アランに叱られた後は足にひっついて離れなかったりとなかなか騒がしい出来事だ。
「ウジューヌは今年も来ているよ、さすがにもう寮には来ないと思う・・・もう一人、弟のエドガーも来てるしね。ウジューヌより落ち着いてるから」
「ふーん。でも弟が生まれた時には、そんなため息をついてなかったじゃないか。」
「だって妹だぞ、ものすごく可愛い。弟も可愛いけど、妹は別の可愛さがある。何より、弟みたいに殴ってこないし。たどたどしい言葉で俺の後をくっついて来るし、弟に意地悪されると、すぐ俺のところに来るし。何より俺に懐いているし、絵本を読んであげるとものすごく喜んでくれるし、勝負仕掛けてこないし。俺の勉強の邪魔もしないし、横で顔だけ机の上に乗せて可愛い顔でずーっと見てるんだぞ、あの円らな瞳で!可愛いだろ!」
胸を押さえて机に突っ伏しながら言う様子に、周りの友人達は若干引き気味だ。
「・・・重症だな」
「シスコンになったか」
「だな」
「女の子だからか」
「いつもは、弟の面倒から解放されて学院が楽しいとか言ってたのになー」
「セシルは別!最初に使った魔法でトラウマになったせいで、誰も魔法を教えられなかったんだけど、俺と絵本を読みながらだと魔法使ってくれるんだよ。あの舌ったらずなしゃべりで、”あらんにぃしゃまとよむー”って絵本抱えて来るんだよ。可愛い、本当に可愛い、まじ可愛い、抱っこするとさ、まだミルクの匂いがするし」
そう言いながら顔おを覆って悶える様子のアランに周りは完全に引いた。今まで王子様全とした彼がそんな姿を晒すなんて今まで無かったのだ。
「だめだ、こりゃ」
オーギュストが言うと、周りもうなづいて同意した。すると、ちょうどその時、教室の扉が開いた。入って来たのは、青い髪の毛にオレンジ色の瞳の少年だった。周りの様子に気づき、一人わからずアラン達のところに来て聞いてきた。
「どうしたんだい?」
「やぁ、アルベール、おはよう。今、アランが妹にメロメロな話を聞いてたところだ」
「おはよう、オーギュスト。妹?」
「そう、妹」
*
「妹?」
その頃同じタイミングで、青い髪の金色の瞳の少年が可愛らしい声で同じ言葉を発していた。
「うん、セシルっていうんだ。でも、アラン兄様ばっかり懐いてる」
ウジューヌがむすっとしながら答えた。ここは、王宮の中庭の一部。ウジューヌ達はお揃いの白い服を着て遊んでいた。足元にはボールが転がって、少年たちの足元をコロコロと回っている。
「王太子様、ウジューヌは嫉妬してるだけですよ。アラン兄様みたいに優しく遊んであげれば良いのに、ジョゼフみたいな遊びかたするんだ。だから妹のセシルに逃げられるんだよ」
そう訂正を入れたのはエドガーだ。
「へーそうなんだ。ウジューヌらしいね」
王太子と呼ばれた少年楽しげに答えた。
「そんなんじゃ、妹さんがかわいそうだよ。ウジューヌ」
そう言ったのは、緑色の髪の毛に茶の瞳のラザールだった。
「ちがうし、すぐ泣くセシルが悪い」
「そりゃーまだ2歳なんだし、しょうがないよ」
エドガーが言えば、またウジューヌがむすっとした。
「あはは、ウジューヌ2歳の子に大人気ないぞ。お兄ちゃんなのに」
ボールを受け取りながら言ったのは青い髪の毛に茶色の瞳のマルセル。
「うるさい」
「それで、セシルはどんな顔なんだ、お前達に似てるのか?」
興味を示した王太子にエドガーが答えました。
「んーお母様に似てる気がします、目がくりっとしてるし、髪の毛はお母様見たく赤いだけど、陽の光に当たると、オレンジ色になって綺麗なんですよ!」
「へー、絵姿はないのか?見てみたい」
ボールを止めて言った王太子に、マルセルが答えた。
「王太子、まだ描けないですよ。3歳にならないと、絵姿は作っちゃダメなんですよ」
この国の風習で、子供の絵姿は3歳になるまで描いてはいてはいけないことになっていた、それまでに描くとその子供は神様のお庭に戻ってしまうと言われたりしている。
「そうだった。忘れてた」
「でもさ、全然剣に興味持たないんだぜ、魔法もだけど」
そうウジューヌが言えば、エドガーが言い返した。
「それはしょうがないよ。しょっぱなで怪我したり怖い思いしちゃったんだもん。しばらくはトラウマになっちゃったから無理だってお母様やお父様が言ってただろ?」
「とらうま?」
「そう、魔法使った時に興奮して、おっきな炎になってセシルの顔にかかっちゃったんです。自分の魔法だから怪我はしなかったけど、相当怖かったみたいで、しばらくは夜泣きがひどかったです」
「それは確かに怖いだろうな。僕も水の魔法を出しすぎた時は、驚いたし」
「何よりセシルは体が弱いです。興奮しすぎるとすぐ顔が真っ赤になって熱が出ちゃうんだよ。ひどい時は湿疹まで出るから、気をつけないといけないんだ。その点アランお兄様が一番上手。僕もうっかりして・・・興奮させちゃったことあったけど、まだ僕だとセシルを一人で抱っこして運べないし」
「ふん、俺ならできるぜ!」
「あれは抱っこって言えないよ。ウジューヌ兄様!担いだでしょ?それもおやつ食べた後にしたからセシルが吐いたじゃないか」
「それは・・・」
「あははは、ウジューヌって家でもそんなんだね」
「変わらないでしょ」




