武闘派の一族
「セシル寝ちゃったみたいだよ?」
僕が言うと、アランお兄様とウジューヌお兄様がセシルの顔を見ようと椅子の後ろにきた。パルナベは背を浮かして見えやすくしたけど、セシルはしっかりと首筋に顔を埋めてて見えない。でも寝息が規則正しくなってるし、さっきの様子から寝るのは時間の問題だったと思うんだよね。
「寝息からして寝てそうだな。」
ウジューヌお兄様がセシルの頭を撫でながらちょこっとだけ顔をずらすと、やっぱりセシルの目は閉じてた。
「寝てるね。」
アランお兄様もそう言いながら、セシルの頭を撫でた。
「では、私はセシル姫をコンスタンスにお預けいたします。奥様にもお伝えいたしますので、姫様、王子様方はどうぞこの後もお楽しみください。」
そう言って、パルナベはさっさと行ってしまった。
「逃げたな。」
ウジューヌ兄様のつぶやきに、他の兄王子達が苦笑いしている。
「姉姫達も、あまりからかわないでください。」
アランお兄様がそう言うと、姉姫達がむすっとしながら答えた。
「だってー、こっちだって意地っていうものがあるのよ?」
「ねー。嫌いって言うわけでもないし」
「そう言うことは、はっきり言わないわよねー」
「言えないだろう。」
誰かが冷静なツッコミが入ったけど、姉姫達は気にしてないみたいだ。他の姫達は、早々に飽きてボードゲームで遊んでた。マリアンヌの楽しげな笑い声が聞こえて振り返れば、圧勝したらしい。
僕たちは木劍で遊んだり、時々姫達も混じって遊んでいるうちに、外で騒がしい音が聞こえた。
「エドガーお兄様」
「招かれざる客が来たみたいだね。」
大人達の方を見れば、みんな手に武器を持ってワクワクしてる様子に僕は血は争えないだなーって思った。僕たちマルディ家は武闘派だ。戦いとあれば飛び出していく一族。
「僕たちの出番はないなー」
そう残念そうに言ったのは、従兄弟のロジェだ。
「それにしても、親族が集まってる中突撃して来るなんて、すごいわね。」
クロエ姉姫が扇子を振り回しながら言うと、ちょうど、遠くの方でどーんと音がなり煙が上がった。
「ここに来る前に、騎士達が片付けるだろ」
「つまらないの。」
そう言ったのはマリアンヌだ。いつのまにかこちら側に戻って来ていた。
「ねぇ、アランお兄様!手合わせしましょう!もういいでしょ?私ちゃんと順番まったわ!」
マリアンヌがアランお兄様に飛びついて来た。いつもはそんなことしないのに、どうしたんだろう。いつのまに、アランお兄様と手合わせする約束してたのかな?アランお兄様は困った顔をしてるし。
「・・・マリアンヌ」
お兄様がマリアンヌを引き剥がそうとしている所に、アンヌ姉姫がアランお兄様とマリアンヌの間に割り込みながら言って来た。
「まぁまぁ、マリアンヌ姫。私たちと遊びましょうよ。アラン王子は、他の王子達とまだ手合わせ終わってませんでしょ?」
「ちょっと!」
「はいはい、行きましょう〜」
嫌がるマリアンヌを、アンヌ姉姫が肩をしっかりとつかんで連れて行ってしまった。
「・・・あっちはアンヌ姫にお願いするか。さて、誰かと手合わせしなきゃならなくなっちゃったな。誰か相手してくれる?」
そうアランお兄様が言うと、他の兄王子がチェスがしたいって言って、道具を取りに行っちゃった。ちょっと手持ち無沙汰で、暇だから隣にいたエドガーお兄様の腕を掴んで気になったことをこっそり聞いてみることにした。
「ねぇ、マリアンヌ何かあったの?アンヌ姫にお願いするとかアランお兄様が言ってたけど」
「んー・・・憶測になるから言えないけど。何かしたんじゃないかな。さっきセシルを探してる時変だったろ?」
「変だったの?」
「まーちょっとだけね」
そうこそこそ話してるあいだにチェスボードが来た。僕たちは外の騒音を聴きながら、兄王子達がやるチェスに夢中になってすっかり、さっきのことを忘れてしまった。
*
パルナベはゆっくりと屋敷内に入りながら、肩の上でぐっすりと眠る小さな姫をみた。普段はあまり触れ合いのないマルディ家の末の姫。4人も兄王子がいるため、甘えん坊だ。しかも使用人達にも甘える姿は、可愛いの一言に尽きる。
その存在が今、自分の腕の中にいるのがなんとも不思議だと思いながら、外の騒音に顔を上げた。
「まさか、ここまで来ますか」
姫様が神様の庭の子だということは、先代公爵への襲撃事件から、使用人達には伝えられている。その後から度々、姫様とイネスを狙った攻撃を仕掛けて来るようになったのだから隠し通せるものではないと判断されたのだろうが、セシル姫と関わりのある使用人達の中では気づいている者もいた。
「お一人でお部屋に寝かせるわけにはいかなくなりましたね・・・」
小さくため息をつきながら、パルナベは腰に隠し入れていた剣を片手で抜き、振り返った。
ガンっという音とともに、その短剣は長剣を受け止めている。目の前には帽子を目深に被った庭師の格好をした男だ。髪の色からしてディマンシュ族だ。
「お静かにお願いしますよ」
パルナベはそう呟くと同時に男の腹を蹴り飛ばした。男は廊下にあった壺にぶつかり派手な音とともに崩れた。
「んぅ・・・」
騒がしい音にセシル姫がもぞもぞと動いてしまった。
「大丈夫ですよ。おやすみになられてください。」
首元で動かれるのが少しくすぐったいが、優しく背中をなでればまた規則正しい寝息に戻った。あまり振動を与えずに動くのもなかなか難しいですね。食器を持ちながらの戦闘とはやはり違います。
「さてと、そろそろ来ますかね」
走る音が廊下の先から響いて来ている。見れば、貴族の男性が長剣を持って走って来ていた。
「楽しそうなことをしているね!」
嬉々として言う様子に、パルナベは静かに短剣で指し示して教えた。
「ロベール様でしたか。あちらの方が遊びたいようです。」
伯爵のロベール様が来られた。まぁ、彼は領内の騎士団に所属しているし、外の騒音が聞こえた時点で、戦闘に参加しようとしていたのでしょう。うまい具合に途中で会えたのは幸運でした。
「ほほう!君は姫君をご両親の元に連れて行きたまえ!あれは私が相手する」
「かしこまりました。」
見れば、逃げ出そうとする男を、ロベール様は早速、投げナイフで威嚇いたしました。当てようと思えば当てられる距離でしたのに、肩を傷つけるだけとは。
「あまり遊び過ぎないようにしてください。廊下の物が壊れます。」
「えー・・・だめかな?」
「この屋敷は、ウルス侯爵のものですよ?」
「あぁ、そうだった」
楽しげに長剣を振り回しながら相手の道を塞いだロベール様は面倒そうな顔をされました。まぁ、すでに花瓶を壊してしまいましたが。ウルス侯爵は綺麗好きで、物を壊されるのを嫌いますが、この場合は仕方ないでしょう。
そう言えば、セシル姫も投げナイフがお上手ですし、一度ロベール様にご教授していただくのも良いかもしれませんね。
そんなことを考えながら、旦那様達がいらっしゃる庭に向かえば、皆様手に武器を持ってそわそわしているご様子。
「あら、パルナベ。どうしたの?」
シュゼット夫人が気づかれて、こちらに向かってきました。
「セシル姫がおやすみになられたのですが、室内に入りましたところ襲われましたので。こちらに来させていただきました。」
そう言うと、奥様は一瞬心配そうな顔をでセシル姫を見られましたが、ぐっすり眠られてますと言うと安心された顔をされて、姫様の頭を撫でられました。
後ろでは。
「なんと」
「では、中に!」
「ここは、私の新しい武器で!」
「いやいや、ここは私が新しく作った技の見せ所」
そう言いながら、いそいそと室内に向かわれる親族の方々。そんな多人数で向かわれても、やることがないでしょうに、それにそろそろ終わる頃でしょう。
「ロベール様がご対応されております。」
そう言うと、残念そうな声が響いた。
「セシルったら、こんなに騒がしいのぐっすり眠ってるわ」
「本当だ。」
旦那様も奥様もぐっすり眠られているセシル様を飽きることなく見られている。しばらくすると、ロベール様が戻られ、外も終わったと言う報告を受ければ、私はセシル様を子供部屋へと運んだ。
そこにはすでに先客がいた。
「アシル様」
「あ、パルナベだ。もしかして、腕の中の子は、セシル姫?」
武闘派の一族で異端と言われているアシル様がいた。彼は、男爵家の3男で、今年8歳になられるが武術は苦手な代わり、頭脳派だ。
「はい、そうです。アシル様はお茶会に参加されなくてよろしいので?」
「嫌だよ。僕はこの本が読みたいし。」
分厚い書物を見せた。
「姫の子守をしてればいいんでしょ?」
「お願いできますか?」
「うん、平気」
そういって、ベットの淵に腰掛けられた。セシル姫をその横に寝かせれば。可愛らしく口をもごもごされている。
「・・・へーパルナベもそんな顔できるんだ」
「はい?」
「なんでもない」
視線は書物に向けられてしまいました。
「では、セシル姫をお願いいたしますね。」
「はーい。夕食になったら呼びに来て。」
「かしこまりました」




