甘えん坊なお姫様と
「イネス!」
両手を広げて抱っこのポーズをしてくる可愛いお姫様は、私が仕えるマルディ家の末っ子、セシル様。セシル様も私と同じ、神様の庭の記憶の持ちなのは驚きました。どうやら同じ世界の記憶を持ってるようです。と言っても私の記憶はうっすらと、知らない知識がある程度ですけど。時々セシル様が口にして、兄王子達に質問していますが、一部わかったりわからなかったりと曖昧な程度です。
セシル様は末っ子らしく、とっても甘えん坊で、また、くりっとしたエメラルドグリーンの瞳で見つめられるとついつい、甘やかしてしまいます。抱っこっと両手を挙げられると、ついつい抱っこしてしまいますし。首にしがみつく感じが可愛いです。
それにしても、こないだは本当に危なかったです。昔、神様の庭の子だとわかった時にも命を狙われたり攫われかけたりしましたが、大きくなって攫われたのは久しぶりですし、こんなに長くは初めてです、しかも標的が私では無く、セシル様とは!攫われた先が隣人の世界という、未知の場所だったので、もうダメかと思いました。
セシル様が腕の中でどんどん弱られていくのを見ているしかない歯がゆさ。ぎりぎり、ドミニク様が助けに来てくださって、セシル様も少し元気になった時はホッとしました。
それにしても、私のセシル様はとっても可愛いせいか、隣人の世界の王子もメロメロにしてしまったようです。言葉は全くわからなかったですが、可愛いと言っているだろうなってことは察せられました。それに敏感に反応したのは、セシル様に懸想されていらっしゃるルッツ様、威嚇しながらも結局一緒に遊んでいらしたけど。それにしても隣人の世界の王子はやりますね、ちゃっかりセシル様にプレゼントまでお渡しになるなんて!ルッツ様とは真逆のタイプですね。
セシル様は気丈にも隣人の世界では余り騒がず駄々をこねることなくお過ごしでしたが、元の世界に戻りましたらウジューヌ王子抱きしめられて泣かれた姿を見て、やはり相当我慢されて居たことに気づきました。
元の世界に戻ったら、緊張が解けたせいかそのまま倒れ込んでしまったのは不覚です。しかもエメ様の手をわずわらせてしまったみたいです。
お仕事に復帰した頃にはご家族が戻られて、セシル様も誰かしらとご一緒してる状態でした。体はいくぶんよくはなってるとはいえ、前のプクプクほっぺには程遠いです。
火のマナが足りない状態が続いたせいで、セシル様の体力が落ちてしまい、少し歩いても転けることがことが増えてしまい、ついつい手を出してしまいます。少しずつ体力回復をさせたほうが良いとは思っているのですが、アラン王子は何も言わずにすぐに抱っこしてしまいますし、他の王子様も抱っこされます。
最近では兄王子の従者達も密かにせがまれるのを待ってる様子です。でもわかります、セシル様はまだ赤ちゃんの香りをさせてますし、何よりもふわふわしてるんです。男の子はやっぱり小さくても筋肉質というか、ずっしりなんですよね。
抱っこすると、癒されるんですよ。ご機嫌だと鼻歌を歌われて可愛いですし。頬をぺたっとくっつてくれる感触が!あの誘惑に周りの人が勝てないんです!それがいけないんですよね!奥様なんて、セシル様に頬ずりしたいがために、屋敷内にいらっしゃる時は化粧しませんし!
「イネス!ママ!ママがいい!」
あ〜残念です。奥様が現れてしまいました。セシル様が腕を伸ばして抱っこのポーズを奥様にしてます。
「ふふふ、セシルいらっしゃい」
「ママ!」
もうちょっと抱っこしてたかったんです。奥様にセシル様をおわたしするとニコニコ笑顔で嬉しそうに鼻歌が始まりました。そうそう、鼻歌を必ずするのは奥様と旦那様なんですよね。ちょっと羨ましいです。
*
「あ、セシルだ」
階段から降りてる途中、お母様に抱っこされてる僕の妹、セシルがいた。僕の声に気づいたセシルがこっちを見て手を振ってきた。
「ジョゼフお兄さま!やっほー」
「ははは、やっほーってなに?お母様どこに行かれるんですか?」
「ダンスホールよ。ジョゼフも一緒にどう?」
「行きます」
僕の妹はとっても可愛いし、そのうえ甘えん上手だ。前までは僕が一番お母様に抱っこしてもらえてたのに、いつのまにか減って、僕が抱っこする側になってた。最初はお兄様やお母様、侍女たちが可愛いっていって、みんなが構うのがつまらなかったけど、一緒にお留守番してからは結構仲がいいと思う、僕に甘えて来るの可愛し。それでもアランお兄様の取り合いになるけどね。
一回攫われた時はびっくりした、僕たちも狙われる可能性があるとかでお城に謹慎されて何もできなかったのが歯がゆかったんだ、お父様は騎士達に指示を飛ばしたり、ルッツ様から連絡がきて対処してたりしてたみたいだけど。
戻ってきたセシルは、やつれてて抱っこした時の細さにびっくりした。しがみつく手の強さも弱わよしくって、僕、絶対セシルをさらった人たち許せない。だから僕たちは強くなるんだ。そうお兄様と約束したんだ。
「とうちゃくーママなにする?」
セシルの声で顔をあげれば、ダンスホールについてた。お母様はセシルを下ろすと、セシルが両手を広げて抱っこをせがんでる。
「ママ〜」
「抱っこしてたらできないのよ。一緒にダンスをしましょう。」
「ダンス?」
「ジョゼフ、お姫様をリードできる?」
「はい!」
セシルの両手を取ると、唇を尖らせて不満顔してる。可愛いからおでこにキスしてあげると、キョトンとしてから。
「ジョゼフお兄様とダンス?」
「うん。一緒にやろう」
「やる!」
お兄様達が知ったら悔しがるだろうな〜って思うと僕はニンマリするのが止められない。お母様が音楽をかけ始めた。最初は簡単な行進曲。テコテコ歩くセシルは可愛い、時々リズムがずれたり左右間違えたりするのも。
お父様がいつのまにかホールにきてお母様にダンスのお誘いをしてるのが見えて、セシルに見せてあげると目をキラキラして両親を見つめてる。
「美しいお姫様、私と一緒に踊っていただけませんか?」
「喜んで、素敵な王子様」
優雅にゆっくりと淑女の礼をするお母様にセシルは小さく興奮した時の声を出した。そのまま二人は手を取り合ってダンスホールの中心に。
「ジョゼフお兄様!ママとパパ素敵なの!」
「そうだね」
「セシルもママみたいなお姫様になる!」
「頑張ってお勉強すればなれるよ」
「なる!セシルなる!」
両手をブンブン振って目線は両親に向けられるセシルは可愛い。でもちょっと疲れたのか僕にしがみついてくる。
「・・・抱っこする?」
「する」
そこは、”して”じゃないかな?って思いつつ僕はセシルを抱っこした。お父様達は楽しそうに踊ってる、僕たちの両親は仲が良いいらしい、いつもあんな感じだから僕は他の家との違いがわからないけど。
くるくるまわるたびにお母様のドレスが舞って華やかだ。セシルは嬉しそうに見てるし。頬にキスしてあげると、嬉しそうに声をあげて僕の頬に返してくれる。
「あ、ここにいた!」
エドガーお兄様の声がして振り向けば、扉を開けて中に入ってくるところだった。その後ろにはウジューヌお兄様だ。ウジューヌお兄様が両親を見てむすっとした顔をで言った。
「本当だ。お父様、剣術見てくれるって言ったのに!お母様と踊ってる」
その声にお父様が踊りながら答えた。
「あはは、すまんすまん、音楽が聞こえてね、ついつい誘われてしまったんだよ。それにこんなに素敵な女性がいたら踊らないとね」
そう言いながらまたお母様に視線が戻って行くのを僕たちは大きなため息で答えた。
「ジョゼフ、お父様達いつから踊ってるんだ?」
「ウジューヌ兄様、さっき一曲終わったところ、セシルの踊りをお母様が見てたんだけど、それにお父様が入ってきたんだ」
僕の答えにウジューヌ兄様が頭を掻きながら言った。
「あー・・・今日は無理かなー」
その言葉にエドガーお兄様が残念そうに叫んだ。
「えー!」
「見ろよ、あれはもうお母様と一緒にいたい時の顔だぜ。真面目に剣術みてくれないって」
僕たちがコソコソ話してる間に、セシルは見てるのに飽きたのか、僕の腕から降りはじめた。
「降りる!」
「はいはい」
テコテコ歩いて行くセシルは両親の近くに来るとぴょんぴょん飛び跳ねて両手をあげた。
「パパと踊る!!パパ!!セシルも!」
「ん?」
踊りながらお父様がセシルを見ながら、しばらく考えてるとお母様が笑った。
「あなた、小さなお姫様が誘っているのよ。女性からの誘いを受けない男性は失礼だわ」
「そうだね。僕たちの可愛いお姫様のお誘いだからね。君とはまた」
そう言って二人は綺麗にお辞儀して終わると、お父様がセシルを抱き上げて腕に乗せた。
「お姫様、私と踊っていただけますか?」
「あい!喜んで!えへへへ」
やっぱり僕の妹は可愛い。
*
先ほどまで数人しかいなかったホールに、今では王子様達の従者や奥様の侍女、旦那様の従者と人が増えてきています。ご家族で代わる代わるダンスを楽しまれている姿は、とっても暖かく優しい雰囲気です。
セシル様は旦那様にエスコートされてくるくる回って楽しそうですし奥様はウジューヌ王子と一緒にダンスを踊られています。
エドガー王子は、奥様の侍女、エリーナさんをお誘いになり踊り始めました、なかなかやりますね。ジョゼフ王子は、曲を選び始めてます、次は何を流すつもりなんでしょう。
「あ、みんなここにいたのか。」
最後に入ってこられたのはアラン王子、最近授業の量も増えてきてセシル様との時間が少なくなっているのがご不満の様子です。旦那様と踊られているセシル様を見つけると、小さく、父様ずるいっと呟いてるのが聞こえてしまいました。
その声に、エメさんが小さく笑ってしまいました。それに気づいたアラン王子はちらっと睨んでから、私の方をみて、なぜかしばし考えてます。
「?」
「・・・イネス、僕と一緒に踊っていただけますか?」
ニッコリと微笑みながら言う姿はまさに貴公子です。ちょっと顔を赤らめてしまったのはしょうがないと思うんですよね。エメさんが驚いてこちらを見てますが、どうしてでしょう。
アラン王子は、手を差し出したまま小首を傾げられてしまいました。いけない、あまりにもびっくりしすぎて返事をしてません。
「えぇ!よ、よろこんで」
手をそえて、みなさんが踊るホールの中央に向かうと綺麗にお辞儀して踊ります。まだ若干アラン王子の方が身長が低いですが、きっとあっという間に身長が伸びてしまうのだろうな〜っと思うと、感慨深いです。セシル様もあっという間に成長してしまうのでしょうか。
「あ!イネス!」
セシル様の声に振り向けば、旦那様にしがみついて手を振っていました。最初は手だけはダンスの形を取っていましたが、今ではダンスというよりも、旦那様と一緒にくるくる回っているだけです。
「セシル様」
「イネス!上手!」
「ありがとうございます」
ご機嫌な様子でしたが、そろそろお昼寝の時間です。セシル様の頭がフラフラしています。
「セシル、ねんねしようか。」
そう旦那様が言うと、セシル様はしがみついて顔を横に振りました。
「いやーパパと踊るのー」
「んー可愛いな〜」
「ふふふ、貴方そのままゆっくり揺らしてあげれば寝ちゃうわよ」
奥様がそう言うと、旦那様は音楽に合わせてゆっくりとステップを踏み始めました。手は背中に添えられて優しく叩いてます。あれは効果的ですね。
「残念、イネスとのダンスは終わりだね」
セシル様の様子を見ながらアラン王子が楽しそうに言いました。ゆっくりとお辞儀をして、離れれば旦那様が片手で手招きをされました。
「イネス、セシルが寝てしまったから、このままお部屋に連れて行くよ。」
「畏まりました」
旦那様についていきながら、肩の上で心地好さそうに眠るセシル様は夢の中でまだダンスを踊っているようです。
「だんしゅー・・・ぱぱとー」




