隣人の世界
「お祖父様!!!セシルが!セシルが!!」
船を追うとするウジューヌを川から無理やり引きずり出し、ずぶ濡れになりながらがドラハが止めました。
「落ち着け!ウジューヌ!」
「でも、セシルが!!」
「大丈夫じゃ、イネスがそばにいる、それにルッツ様もな。それよりも、追いかけた者の報告を聞くんじゃ」
がっしりと、暴走しそうなウジューヌを抱きしめながら、ドラハは周りを警戒しながらも屋敷に入れました。
荒れた屋敷内で、濡れた服を脱ぎながらイライラしているウジューヌを見守りながらドラハは執事から報告を受けました。
「旦那様、奥様がお戻りになりました。どうやらいきなり、敵は引いたようです。」
「なるほど」
その報告にドラハは奥歯を噛み締めました。
「貴方、何があったの!」
駆け込むように武装したドミニクが戻って来ました。
「セシルが攫われた。それと抜け出して来た王太子も一緒にな、我が屋敷を壊して。」
ドラハが指差した方向にすぐさまお祖母様は走って確認しに行きました。見れば、サロン室の床がぽっかりと空いています。
そのあと直ぐに、セシル達を追いかけていた騎士達が屋敷に戻ってきました、そこにセシルがいない様子にドラハは無言で立ち上がりました。
「申し訳ございません!!誘拐犯は仕留めたのですが、その瞬間領内から出てしまい、その瞬間に・・・・セシル様達だけ界渡りが・・・どうやら元々仕込まれていたようです」
「何ですって?!」
ドミニクが思わず叫ぶと、ドラハは無言で机を叩き壊しました。その音でドミニクも冷静になりました。
「隣人の世界に飛ばされたと言う事?・・・まさか、最近王都でおかしな噂が出ていたけれど」
「どう言うことですか、お祖母様」
ウジューヌは不安そうに聞くと、ドラハが答えました。
「貧民街で子供が消えるとか言う話が去年出ていたんだ。・・・違法に界渡りできる術が作られていたとはな・・・王都に伝令を飛ばせ。それと、ドミニク」
「言われなくても行くわよ。どんな事をしても、セシルを助け出すわよ。それに王太子もね」
ドラハは急いで、各所に伝令を飛ばしました。
王都にもその知らせは入り、すぐさまマルディ家の家族は王宮に呼ばれました。その内容に母親であるシュゼットは顔を真っ青にさせて用意された部屋に飛び込みました。
「どう言うことですか?セシルが攫われたって!」
すでに部屋にいた夫であるレオンに問い詰めました。そのあとに息子達も部屋に入って来ました、急いでくるようにと言われただけなため、母親が叫んだ内容しか知りません。
「わからん、父上の屋敷が襲われ、イネスと共に攫われたらしい、しかも王太子様も一緒に攫われた。」
その言葉にシュゼットは悲鳴のように叫びました。
「何ですって!」
アランも思わず叫んでしまいました。
「どうして!!セシルはお爺様達の所で安全に過ごしてたんじゃないんですか!!?しかも王太子まで、何故いるんです!?」
「また抜け出したらしい。アベル様の屋敷に行く途中でな。そのために我々は王宮に集められたんだ。」
「みんな集まってるようだね。」
ノックもなしに部屋に入って来て声をかけたのは、王様でした。
「また、伝令がきた。どうやら隣人の世界に攫われたらしい、直ぐにドミニク殿が向こうに行かれるそうだ。捉えた者達は、純精主義者だったそうだ。ついでに、王都で協会が襲撃を受け、神の庭の子の記憶を封印した子供達の情報で貴族の子だけの情報が一部持ち出された。すぐさま、持ち出された貴族の子供達の家には兵を向かわせた。もちろん漏れた情報の中でセシル姫も、我が息子も入っている」
その言葉にレオンは叫びました。
「まさか・・・!」
王様は沈痛な面持ちで続きを説明し続けました。
「他の貴族の家も襲われたが、兵の到着が間に合い、直ぐに襲撃はやんだらしい。が、ドラハの屋敷は執拗に攻撃されている、一度鎮圧させたなか、少し気が緩んだ隙に姫と王子が攫われた。もしかしたら本命だったのかもしれん」
「そんな・・・」
シュゼットは力が抜けるように気を失ってしまいました。
「シュゼット!!」
レオンがすかさず抱きとめましたが、シュゼットの顔は真っ青です。
「「お母様!」」
息子達は急いでソファを動かして母親を寝かせられるようにしました。
「お父様、僕たちで助けに行くことはできないの?」
ジョゼフが聞けば、レオンは首を横に振りました。
「隣人の世界に行くには、境界線を渡らねばならん、契約者以外が渡るのは危険だ。境界線で迷子になれば二度と戻れん。それに何処にたどり着くかもわからん。隣人が道を作りこちらも道を作らぬ限りは危険だ。」
「じゃーセシルは境界線に迷子になった可能性も?」
「それは無いと断言できるんだろ?」
レオンが王様に聞くとうなづきました。
「そうだ、一部陣が残っていたそうだが、確実に渡りきっているそうだ。実行後、燃えるるようになっていたそうだが、直ぐに消火したおかげで残ったそうだ。今も解析中らしい」
今にも飛び出しそうな息子達を抑えてレオンは言いました。
「解析したとしても、敵陣の中に入ることになる可能性が高い、ずらそうにも位置がつかめねば意味がない。ここはお祖母様に託すしかない。お祖母様は契約者だ、確実に渡れる。」
レオンがそう言うと、息子達は歯を食いしばりました。
「むやみに隣人と契約しようと思うな、息子達よ。そんな事をしてセシルが戻るわけでもない、代償は大きい。いいな」
「「・・・はい」」
レオンは息子と妻を残して部屋を出ていった。
アランは厳重に保護魔法と結界、そして騎士が配備されていくのを扉がとる時瞬間まで見つめ続けました。
「アランお兄様、セシルを助けに行きたいよ。ウジューヌ兄様は大丈夫なの?」
ジョゼフが不安そうにアランの袖を引っ張りました。
「ジョゼフ、何も言ってないってことは大丈夫だよ。ウジューヌは強いからね」
「でも、アランお兄様、”純精主義者”って神様の庭の子を悪魔の子って呼ぶ人たちなんでしょ?僕本で読みました。」
そうエドガーが母親の手を握りしめながら聞きました。
「・・・そうだね。でも、セシルは・・・生きてる。イネスも一緒にいる。彼女は結界が得意なんだ。大丈夫だよ」
「うん」
*
その頃、ドミニクは解析された術の説明を受けていた。
「なるほど、契約者の国の隣だわ。面倒ね。」
「隣人にも国があるんですか?お祖母様」
ウジューヌは武装した格好でドミニクの横に立っていた。
「ウジューヌ、あるわよ。私たち同じように暮らしている、ただし魔法の使い方が違う、私たちのように属性のマナを持っていないのよ。マナの量があっても、うまく魔法が使いこなせないものが多いわ、そう言う人たちと私たちは契約をし、マナをもらう代わりに術を使ったり、こちらにない物を交換したりしていたのよ。といっても、昔の話だけれどね。昔は隣人の世界の文明は劣っていたし、良き隣人の関係だったのだけれど。力を得ると傲慢になるでしょ?それで、契約者は減ったのよ。他の国も減ったはずよ。契約するには色々面倒だし、進んでやるものも減った。わが国では契約者は国に申請してからでないと出来ないしね。だから、今回は、わが国で管理していない契約者が絡んでいるか。違法契約者か・・・」
「お祖母様・・・俺も連れてって」
「・・・言うと思ったわ。答えはダメよ」
「どうして!!セシルは俺の妹だ!それに俺は騎士だ!お父様にもセシルを守れって言われた!!」
ドミニクは、必死に言うウジューヌの頬を撫でて言いました。
「そうね。でも、ウジューヌ。今のお前では守れなかった。自分の実力を知ることは戦いにおいて大切よ。助けるのであれば尚更ね。失敗は許されない。貴方が出るのは、私が失敗した後よ。それまでに鍛えておきなさい」
そう言うと、肩を強く叩いてドラハに渡しました。
「貴方、この聞かん坊をしっかり見張っててちょうだい。私の大切な孫よ」
「もちろんじゃ、わしの大切な孫じゃ」
お互い抱き合いながら、ドミニクは小さい声で行って来ますと囁いて離れました。
「気をつけてな。」
「直ぐに連れて帰るわ。そして、もう一人の聞かん坊を叱らないとね」
そう言うと、ドミニクは剣を使って魔法陣を描き、その中に飛び込んで生きました。
*
その頃、セシル達は・・・。
「お腹が痛いです。」
お腹がポッコリ膨らんでます。
「慣れない環境ですし、食事も消化しにくいものばかりですから、お腹が張ってしまってるですね」
イネスが優しくお腹を撫でてくれました。セシルが目を覚ましたら豪華なお部屋に変わってました。でも外には出れないです。イネスもルッツもそばにいてくれるけど、早くお家に帰りたいです。
ルッツは鉄格子で囲われてる窓の外に張り付いてます。外は雨が降ってて、真っ暗です。何も見えないのに何で窓に張り付いてるのか謎です。
「姫様、スコーンを半分食べてください。」
「しゅこーん」
ポケットにしまってあったスコーンを取り出すと、イネスが半分に割ってくれました。半分だけ食べて半分はまたポケットの中にしまいました。食べてみると、なんか体が軽くなりました。
「おいちぃ」
「火のマナが入ってるスコーンですからね」
食べ終わると何もすることがありません。イネスはセシルの髪の毛を梳かしてくれてサラサラになってます。
「手遊びしたい」
「マナを消費してしまうからダメです。そうですね・・・折り紙しましょうか」
「おりがみ?」
イネスが机の上にあった紙ナプキンを四角に切って折り始めました。セシルもイネスに教わりながら折ります。
「姉や。終わった」
不意に声が聞こえて顔を上げると、ルッツがイネスに何かコショコショ話してました。どうやら夢中で折ってたみたいです。
「王子、窓のそと何かあった?」
「ん?姫、顔色が少し良くなってるね。外は雨がざあざあだったよ。少し見えた感じだと、小高い山の上って感じかな」
「・・・出れそう?」
思わず小声で聞くと、困ったような顔をされてしまいました。
「大丈夫だよ。僕も姉やも一緒だろ?」
「うん・・・」
ちょっぴり涙が出ちゃいました。
「姫様」
イネスが抱きしめてくれましたが、全然ダメです。トントンしてもらってたら眠くなってしまいました。
ここに来てから、寝てばっかりです。目が覚めたら、二人は模様替えの最中でした。
真ん中にあった机を端に動かして、ソファーを真ん中に移動させてます。三人掛け用と一人掛け用を正面でくっつけると、ベットがある部屋から布団を取って来て、ソファーにかけました。
「何してるの?」
「あ、起きられたんですね。」
「模様替えだよ姫」
ルッツが楽しげに言ってセシルを抱き上げました。セシルが寝かせられてたのは一人掛け用のソファです。中央にソファーが集められてベットみたいになりました。
「姉やには窮屈か」
「大丈夫ですよ。意外に、このソファ柔らかいですし」
「ソファーで寝るの?」
「はい。姫、寝て見てください」
イネスに言われて寝てみると、ちょっと楽です。真上にシャンデリアがあります。
「あ、赤い石があるー」
指差して言うと、ルッツが頭を撫でてくれました。
「そ、だからこの下を寝る場所にしたんだ。」
「ほえ?」
「いざとなったら、あの石を掴むんだよ?」
「うん?」
お外はずっと雨で、朝なのか夜なのかわからない日が続いて時間の感覚がおかしくなりそうです。そんなある日、周りが騒がしくなりました。それは、ウジューヌお兄様と一緒にサロンにいた時とひどく似ています。
「怖いよ」
「大丈夫です。姫」
「大丈夫だよ。姫、助けかもしれない」
小声でルッツが囁きました。本当に?それだったらいいです。
大きな爆発音がしたと思ったら、お外の雨が止みました。
「きた!」
ルッツが嬉しげに立ち上がって言いました。
「本当に!?」
イネスも嬉しげです。
「よし、魔石を奪うぞ」
ルッツはそう言うと、助走をつけてソファを踏み台にしてシャンデリアに飛びついて赤石を台座から無理やり外しました。
「ほえ」
「よし、これで姫が安全に移動できる」
イネスに投げてよこすと、石をセシルに渡して来ました。
「姫様。しっかりと持っててください」
それは何かのフラグですか?怖いので、ポケットに収納です。ぎりぎりポケットに入る大きさですし、それをみてイネスがポケットから糸と針を取り出してポケットの入り口を縫ってくれました。
ドタバタと騒がしい中扉が開きました。入って来たのはあの怖いおじさんです。
<くそ、どうしてここがバレたんだ>
「飛び掛かれ!!」
ルッツが両手をかざすと、青い狼が飛び出して、おじさんを押しやりました。
「僕たちはここにいる!!」
ルッツが叫ぶと、また大きな音がしたと思ったら、部屋の入り口が壊れて、お祖母様が飛び込んで来ました。
「私の小さな姫!!」
「ばーーばーーーー!!」
お祖母様は床をや壁を何故か壊しながら入って来ました。
「あー無事でよかった!!!」
「大奥様・・・!」
「貴方も、良く頑張りました!!小さな王子もね」
お祖母様は三人一緒に抱きしめてくれました。
「<なるほど、戦闘女王の孫娘だったのか>」
そう声をかけて来たのは、赤茶色の髪の毛をした黒い瞳の男性でした。格好はお祖母様と同じで武装してます。
「私の目的は果たしたわ。安全な城に戻していいかしら。」
「<いや、この屋敷の地下に、他のフィーがいるらしいよ。って睨むなよ。わかった。先に戻ってていいよ。>」
「地下の子達も、丁重に扱ってちょうだいね。」
「<あぁ、契約だからね>」
そう言うと、お祖母様は三人一緒に抱えて、お部屋から出ました。出る瞬間にイネスに目を隠されてしまいました。
「い・・・ねえや?」
「姫様、もう大丈夫ですから」
馬車に乗るまで目隠しは外してもらえませんでした。お家で乗る馬車とは違って、帆がかけられただけの木がむき出しの馬車でした。
「豪華な馬車がよかったな」
ルッツが言うと、お祖母様から拳骨が降りました。
「この戦場ではましな方だよ」
「いっってーーー」




