さらわれたみたいです。
霧のような世界を見てから、あまりの気持ち悪さに気を失いました。目が覚めたらイネスがしっかりと抱きしめてくれています。隣にはルッツ。
「ルッツ」
「大丈夫ですよ」
見上げれば、顔色の悪いイネスが頭を撫でてくれました。周りを見渡すと、汚い小屋の中です。匂いも臭いです。
「う・・・」
目がさめたルッツも周りの様子を見て驚いてます。そしてイネスの顔を見るとハッとして手を握りました。
「イネス、大丈夫か」
そう言いながら、手が水色にすこし光って、水のマナがイネスに入っていきました。
「イネス・・・大丈夫?マナたりない?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。それよりも、セシル様は大丈夫ですか?ここは水のマナが強い」
その言葉に、ルッツも慌てて周りを観察してます。
「まさか、狙いはセシル姫?」
「もしくはマルディ家かもしれません」
「ねぇ、イネス。ここはどこ?お兄さま、すぐくる?」
「セシル様・・・ここは、たぶん隣人の世界です・・・ちゃんとした手続きなしで飛び越えるなんて。」
「にんじん?」
「りんじん です」
「ほえ?」
「まだ、セシル様は習ってない内容ですし、私も学院で習っただけなのですが。私たちの世界の隣には別の世界が存在してるんです、昔は隣人とよく交流をしてたらしいんです。今はちゃんとした手続きをしないと渡ってはいけないことになっています。」
そうなんですか?税関てきな感じですかね?それにしても、なんだか眠いです。
「セシル様?大丈夫ですか?」
「セシル、大丈夫?やっぱり、辛そうだね。」
「ねむいの」
「眠ってていいですよ。」
イネスがエプロンを脱いで裂くと紐状にしてセシルとイネスが離れないようにしてくれました。昔、ばあややお母様が抱っこしてくれるときに巻いてたのに似てます。
「抱っこ紐?」
「簡易ですが、これで何か両手がはずれても、大丈夫です」
そう言ってイネスがぎゅっと抱きしめてくれました。
3人で固まってると、外が騒がしくなりました。ぼーっとしながら見てると扉が開きました。怖いおじさんたちばっかりです。焦げ茶色の髪の毛に無精髭をはやしてます。肌は黒ぽくて、シャツとズボンっぽいですけど色々着込んでてよくわかりません、それに、とっても臭いし、息がしづらいです。
怖い声でおじさん達が怒鳴っています。
<おい!!水のフェイもくっついてるぞ!どういうことだ!>
<うるさい!火のフェイの子供がいるだろ!見えてないのか?!あぁ?!>
<火と水は相性が悪いはずだぞ、なんで一緒にいる!!>
<知るか!>
<どっちにしろ、3体ともまだ子供だ!この陣だって、フェイをちゃんと拘束できている>
<だが、水のフェイは引き離さないと面倒だぞ。結界が張られてるじゃねぇか!>
<だが、見ろ。火のフェイが弱ってる。何かわからんが、守ってるみたいだし、火のフェイの餌を見せれば動くさ!>
何を言ってるのかさっぱりわかりません。でも怖いことを考えてるのはわかります。
「怖いよぉ」
ぎゅっとイネスにしがみつくとルッツがセシルの手を握りながら言いました。
「大丈夫。僕たちの力が増してるから、絶対元の場所に戻ろう」
イネスはルッツと一緒に抱きしめてくれます。ルッツは小声で言いました。
「しかし、こちら側も協力していたとしか思えないな。イネス、すぐにこの部屋に飛ばされたのか?」
「そうです。気づいたらこの陣の中に」
「由々しき事態だ。だが隣人の言葉がわからないな。」
「正規の手順で隣人の世界の人たちと契約していないからでしょうか?手助けを行う人はまだ残っているのでしょうか?」
「僕が知ってるのは、ドミニクとジュディ家のアランだ。それも若い頃で最近は行ってないはずだ。そう滅多に手は貸さない。」
「契約は細かいと聞きます。」
「時間の制約、対価の要求と色々ある。もしも契約者が助けに来たとしても、向こうも何かしら要求してくる」
ルッツがイライラしながら指の爪を噛んでます。
「ドミニクが直ぐに動くと思うけど、僕達がどこにいるかわからないとどうしようもない、何かしら連絡手段が確保できればいいが。こちらかの契約要求になると面倒だから、なるべく自力で戻りたいな」
「そうですね」
セシルには難しいお話をしてます。でも、連絡するならルッツのお水使えばいいんじゃないでしょうか?お水がないとダメなら、貰えばいいと思うんです。
とか思っていたら、おじさん達が出て行きました。
「こちらの言葉も通じてないなのが幸いだな」
「そうですね」
そう話していたら直ぐにおじさん達が現れました。手には何か赤い蕪見たいのを持ってます。
「舐められたものだな。餌のつもりか!」
ルッツが怒ってます。
<おい、興味を示さないぞ。どういうことだ>
<まだ赤子だろ。わからないんじゃないか?>
<もしくは弱りすぎてるとか?>
<だが、水のフェイが怒ってるぞ>
おじさん達がもめてます。
「あれはなぁに?」
イネスに聞くと眉間にしわを寄せておじさん達から視線を外さずに教えてくれました。
「火のマナが多く含んでる野菜です。あれで私たちを動かそうとしたかったのでしょう。家畜のように扱うなんて!バカにして入るとしか思えません!」
<おい、なんか怒ってるぞ>
<なんでだよ>
おじさん達が騒いでると怒鳴り声が響きました。おじさん達は静かになって廊下の壁によりました。入り口にぬっと現れたのはおじさん達と違ってちゃんとした格好をしたおじさんです。
黒髪に、色黒の肌、目はとっても怖いです。黒いローブに黒いズボン。黒いブーツ。なんか怖いマナを感じます。
イネス達もそうみたいで、ぎゅっと固まりました。
<ほう、かなり高位のフェイを連れて来たな>
<高位だったんですかい?>
<見てわかるだろうが、髪の毛も服装もかなり良いだろう。子供だが、これはかなり高いぞ。ふむ・・・>
おじさんが床に書かれてる陣の前ギリギリまできて観察するように見て来ます。
「<おい、嬢ちゃん。名前は?>」
「ダメです!答えてはいけません!姫」
イネスが慌てて止めました。セシルうっかり名乗りそうでした。というかおじさんの言葉が理解できます。
「いい?姫、これから僕のことは王子、彼女のことは姉やって呼ぶんだ。」
ルッツが耳元で囁きました。どうやら名前は名乗っちゃダメみたいです。でも、セシルは自信がないです。お口を両手で閉じておきます。
「<ふ〜ん、賢いな。まぁ、いい。俺の屋敷に連れていけ>」
おじさんがそう言いながら立ち上がりました。
<ですが、結界が>
<この部屋ごと持っていけばいいだろう?>
そういうとおじさんは出ていって扉が閉じられました。そのあと、ギコギコ音が長時間しています。
「い・・・姉や!何?こわい!」
「大丈夫ですよ。姫。この空間には入れませんから」
「どうやら部屋ごと動かしてるっぽいな。荒っぽい」
「それにしても、こちらの言葉が理解できるものがいるなんて。」
「だな、契約者がいるのか、それとも独学か。面倒だな。」
ギコギコ音が終わったとおもったら、今度はグラグラグラ揺れながら、どこかに移動してます。板の隙間から光がさしたり暗くなったりと変わっていたら、どこかにドッスンと置かれました。ガタガタと周りに何か巻いてる音がしたと思ったら、また揺れ始めました。
「馬車で移動か?」
ルッツがそっと離れて陣の縁に触れました。
「王子」
イネスが制止の声をかけるとニヤリと笑って手を振りました。ゆるゆると指先から青い光が伸びると、ぐにゃーんと陣の縁が歪んで扉の前まで届きました。そのままルッツは扉までいくと隙間から外の様子を覗いてます。
「なるほど」
そういうと戻って来ました。陣もグニャーンとしながら元通りです。イネスの横に座ると小声で教えてくれました。
「外は森みたいだね、少しだけ見えた。こちら側に男が二人窮屈そうに座ってたよ。あと、この馬車の周りに何頭か馬かそれ以外のもいそうだ、あと騎乗している奴らがいるね」
「ねえやは、大丈夫?マナは?」
「大丈夫です。ここは水が強いですから、ただそのぶん」
「気持ち悪い」
ガタガタすごく揺れるし、臭いし、だるいしでもうおうちに帰りたいです。
「おうち帰りたい。ママに会いたい」
「せ・・・姫。大丈夫だから」
ルッツが頭をなでなでしてくれても、気持ち悪さが止まりません。
*
セシル様は気を失われてしまいました。さすがに、こんなに火のマナが少ない場所でまだ小さいセシル様には過酷な環境です。まだ火のマナに覆われた場所にいないといけないというのに、なんとか、奥様がお守りとして渡されたネックレスのおかげで助かってますが、これも数日持つかどうか。
「姫は寝てしまったのかな?」
「はい。」
その日は丸一日移動で終わりました。真っ暗闇になっても、誰もこの部屋を開ける様子もありません。セシル様も気を失われていて起きる様子もないなか、ルッツ様がそっと魔法を使われて水を出していただいたおかげで水分補給ができました。セシル様にも少し飲んでいただけたので良かったですが。
「まだ目的地に着かないのか。長いな。姉やの結界を僕が維持できればいいんだけど。」
「そうですね。・・・いえ、できます。私が展開する結界の術を書きます。それに定期的にマナを送り続ければ維持できるようにいたしますので、申し訳有りませんが交代で行いましょう」
そう言うとルッツ様がうなづいてくださいました。私のマナでは到底これ以上は厳しいです。暗闇の中、結界の継続をできるように、持ち歩いていたメモ用紙に結界の術を書き込んで行きます。
「時計を持ってる。3時間おきに交代をしよう」
「はい」
「僕が結界を張る、だから姉やは寝て休んでくれ。夜だから大丈夫」
「わかりました。お言葉に甘えてそうさせていただきます。」
王子の手を握りながら少し横にさせてもらった。こんなに長時間結界を維持するなんて経験は今までなかったから、かなり疲れが溜まってる。横になったらあっという間に睡魔に襲われてしまいました。
「ねぇや」
声をかけられて起き上がれば、ほんの少し明るくなっていました。ぐっすり眠りすぎて、さっき寝たばかりな気がしてならないですが、体は楽になってるのがわかります。
「ありがとうございます。」
「いや、平気だ。ただ、夜中にいきなり移動を始めてさっきまた止まったばかりなんだ。」
「そうだったんですね。では王子寝てください」
「わかった」
そう言うと時計を私に渡し横になって直ぐに眠られてしまいました。
暗闇の中待っていると、日差しが差し込んで来ました、すると馬車がまたガタガタと動き始め、移動が始まりました。
外が完全に明るくなり、暖かくなってくるとセシル様がおきられました。
「おなかすいた」
「姫様」
「んーママー」
弱々しく奥様を呼ばれる声に、どうしようもない焦燥感を感じながら優しくなでていると、セシル様がポケットを触って何か驚かれてます。
「あ!くっきー!」
じゃじゃーんと言いながら取り出されたのは、昨日お茶うけに出したクッキーでした。
「半分こ。る・・・王子も!」
「姫様。助かりました。本来なら叱るところですが」
いびつに割れたクッキーを分け合いながらその香りに、ルッツ様もおきられました。
「さすが、姫。やるね」
そう言いながら少しだけクッキーを食べ終えると、セシル様がもう一つ取り出しました。
「しゅこーん」
「それは、明日にとっておこう。明日も何も食べれない可能性が高い。」
そう言うと、セシル様もうなづいて、ポケットにしまわれました。しばらくすると、またセシル様は眠りに入られてしまいました。
ルッツ様が水を出されて少し喉を潤していると、また馬車が止まりました。部屋が揺れる様子に、どうやら目的地に着いたようです。ユラユラと揺れながら降ろされた場所で、とうとう部屋が壊されました。いきなり壁に斧が外から突き刺さり、容赦無く潰してく様子は、中の人など考えていないかのようです。こちらが結界を張ってるのをわかっているからなんでしょうが、あまりの乱暴ぶりにセシル様が眠られていて良かったと思うほどです。ルッツ様は怯えながらもしっかりと手を繋いでこの様子をご覧になられていました。
天井が崩れ落ちましたが、結界に憚れて私たちにはぶつかりません。それを男たちが退かすと、先ほど私たちに声をかけた男が目の前に立っていました。
「<食事を用意してある、そろそろお腹が減る頃だろ?特に、火の幼子には辛いだろう>」
「「・・・」」」
男が指を鳴らすと、執事のような男がカートを押してこちらに来ました。カートの上には調理された料理が並んでいます。
「<食事だ。あちらにもちゃんと用意してある、着いて来たまえと言っても来ないか。ふむ、おい、お前達、運べ。>」
男達は顔を見合わせた後、無言で残った床を持って私たちを運び始めました。
「強引だな」
「そうですね、目的が見えません」
「あぁ」
運ばれた部屋は、なんと火のマナがほんの少し感じられる部屋でした。見れば部屋の中央のシャンデリアに大きな火のマナが篭った魔石が置かれています。
「<ゆっくり休むといい、ここはもともとその子のための部屋だ、安心するといい>」
そう言うと男は、拘束の陣を消し去り、去って行きました。
「なるほど、この部屋全体が僕たちを拘束するための陣が張られているのか、しかも、火のマナも最低限あるだけだ。」
ルッツ様が悔しげに言いました。
「ん〜」
セシル様が目覚めそうです。どうやら体が楽になったおかげかもしれません。
「姫」
抱っこ紐を解いて寝かせれば、先ほどまで青ざめかけていた頬に血色が戻りつつあります。なるべく中央の火のマナを感じる場所に移動すれば、心地よさげな寝息に変わりました。
その間、ルッツ様が、部屋の中を調べ回られていました。
「これは、長期的に拘束するために作られてるな。寝床に、バストイレ付き。僕たちのことをよくわかってるようだ。あの男は」
「出れそうですか?」
「無理だな。色々試してみるが。」
そう言いながら、食卓の上に並ぶ食べ物に手をつかられました。
「毒は入っていない、食べても平気だな」
「わかるんですか?」
「嗜みとして最初に教わったんだ。とりあえず体力をつけるためにも食べておこう、姫には火のマナが入ってる食べ物がいいよね、これとこれがいいと思うぞ」
そう言って果実を何種類か選んでくださいました。食事をして、セシル様が起きられれば、一緒に食べていただいて、今日はベットで3人一緒に寝る子にしました。もちろんシーツに結界を張る陣を描いて、部屋の中にあった、魔石を拝借して結界を張らせてもらい疲れた体を癒すことに専念です。




