ピアノと危険なマナー
セシルにも先生がつきました。お兄様と一緒にお勉強です。
お兄様のピアノは意外にも上手で、迫力のある曲ばっかり弾いてました。お兄様らしいです。セシルは手習いの簡単な曲ばかりです。両手で動かせるようにただ鍵盤を順番に弾いていきます。
「そうです、上手ですよ」
エクトル先生が褒めてくれます。
指がつりそうです、指を順番に使っていって最後は交差させてもうちょっとはじまでもっていって。
「ははは、セシル唇がとんがってるぞ」
「ウジューヌ様、真剣に学ばれているセシル姫の邪魔をしない」
エメに怒られてます。
「さすが姫様。お上手です。では、指の練習ばかりでは飽きてしまうので、簡単な曲をやりましょう」
そう言ってお兄様の譜面よりも傍線がすくない本を出して弾いてくれました。簡単そうです。いっこずつ丁寧に弾いたら褒められました。あとは、音符の読み方にリズムの取り方を習って終わりました。最後に宿題も出ました。
「王子様、姫様のサポートをお願いしますね」
「えー面倒だな〜。ま〜しょうがないかー今いるのは俺だけだし〜」
嫌そうな言い方にちょっとムッとして、ウジューヌ兄様をみたら、嫌な顔じゃなかったです。むしろニヤニヤです。
「イネス、お兄様の顔変」
「ふふふ、お兄様らしいことができて嬉しいですよ。ただ素直に言えないだけです」
こっそりイネスが教えてくれました。お兄様はなんか不器用ですよね。
ピアノが終わると、今度はマナーの時間でした。
これは、とってもつまらなかったです。綺麗に歩いてーとかまっすぐーとか、ウジューヌお兄様が勉強がつまらないっていうのがちょっとわかった気がします。何よりも、ダニエル先生は全然笑わなくって怖いです。
セシルが歩くと、汚いとか足が開きすぎとか、足音たてすぎとか、あれもだめーこれもだめー。
お兄様はイネスと一緒にダンスしてます。そっちの方が楽しそうです。でも、セシルはまだダメだそうです。
「ぷー」
もうまっすぐ立つのに飽きました。
「レディーがそのような顔をしてはいけません」
ダニエル先生の言葉にウジューヌお兄様が振り返りました。
「どうした?セシル」
「もういやー!!あきたー!セシルもダンスしたい!」
「姫様、綺麗に立てないのにダンスなんて早いです!そのように立つのではなく、胸を張って、肩を落として」
がっと肩を持たれました。痛いです、今までそんな風にセシルに触った人なんていないです。
「いーーやー!!」
腕を振り回してお兄様に突進です。
「うおっと!!どうした?セシル」
「うー!」
足踏みしたらウジューヌお兄様が抱き上げてくれました。
「姫様!」
「まー落ち着いてください、ダニエル先生。ほら、どうしたセシル。いつもなら、お姫様になるーってウキウキでやってるじゃないか」
ぎゅっとお兄様の首にしがみつきました。だってなんか嫌なんです。
「セシル様、どうされたんですか?」
イネスが顔を覗き込んできました。
「あら?」
目があったら、イネスがいきなりセシルのおでこを触って来ました。
「ウジューヌ王子、セシル様、熱が出ています。慣れないことばかりで体調を崩されたのかもしれません」
「あーそういえば、セシルって体弱かったな。最近調子がいいから、忘れてた。だからぐずったのか〜よしよし」
ウジューヌお兄様がいつもと違って優しいです。背中をトントンしてくれます。
「すまないが、ダニエル先生、このとおりセシルは体の調子が良くないんだ。休ませてもらうよ」
「いえ、こちらこそ気づかず申し訳ありません。」
お兄様に抱っこされたまま、自分たちのお部屋に戻るとソファに寝かされました。イネスが果実水を持って来てくれました。エメは扇子で顔を仰いでくれてます。
「それにしても、急に顔が赤くなったよな。いつもなら何かしら前ぶりがあるのに」
お兄様が優しく頭を撫でてくれます。セシル前ぶりがあるんですか?気づかなかったです。なんというか、あの先生に肩を持たれた瞬間嫌だったんです。
「セシル、もうあの先生いやー」
イネスが驚いたように聞いて来ました。
「まぁ、どうしてですか?姫様になるための大切なことを教えてくれる先生ですよ?」
「いーやー。ママとお姫さになるからいいのー」
プイッとむいてお兄様の洋服にしがみつきました。お母様から習えばいいんです。お母様はお父様のお姫様だって言ってたんです。それにお家ではいつもお母様が教えてくれるし。
「珍しいですね。いつもなら、奥様の動きを真似されたりしてるのに。」
エメまで首を傾げてます。それよりも、頭がぼーっとして来ました。肩がなんだかじくじくしてます。
「肩が痛いのー」
「肩?」
ウジューヌお兄様たちが顔を見合わせてから、いきなりセシルを起こして服を脱がしました。
「これは・・・」
「どういうことでしょう。とりあえず、ドラハ様にお知らせに行って来ます。」
「いえ、イネス。私が行きます。あなたはここで待機していてください」
そう言ってエメがお部屋から出ていきました。
「ウジューヌお兄様?」
何があったんでしょう?見上げたら、お兄様が真剣な顔でセシルを見てます。
「大丈夫、俺が守るからな」
そう言ってしっかりと抱きしめてくれました。
しばらくするとお祖父様が執事とお医者さんを連れて戻って来ました。
「セシルや〜大丈夫かい。環境が変わって熱がでたらしいの〜」
パタパタと、エメと執事さんは扉を閉めて、窓のカーテンまで閉めました。エメがしっかりと扉の前に立つのを確認するとお祖父様が真剣な顔でセシルの肩を見てます。
「どうじゃ?ブレーズ」
お医者さんの格好をした人がセシルの肩を見ています。お医者さんの髪の毛は緑色です、ランディ族の人ですね。
「失礼、セシル姫、肩を見せていただきますね。」
セシルがうなづくと頭をイイコイイコしてくれました。じっくり見た後にお祖父様を振り返ってお医者さんは言いました。
「これは、やはり術が壊されています。」
その言葉に周りの人が息を飲みました。
「イネス、ダニエル女史がセシルの肩を掴んでから、熱を出しているんだな?」
「掴んでからかは定かではありませんが、その肩の腫れている場所は、ダニエル女史が掴んだ場所です。」
その言葉にお祖父様がうなりました。
「おかしい、報告書ではちゃんと3代遡ってもディマンシュ族の家系だったぞ。しかも髪の毛の色が違うではないか。」
お医者さんがセシルの肩に触れると痛みが消えました。
「とりあえず術はそこまで壊れていないので修復できました。ですが、相手には気づたと思っていいでしょう」
周りの様子にセシルは怖くてお兄様にしがみつきました。ウジューヌ兄様のお膝の上に乗せてしっかりと抱きしめてくれました。
「ダニエル女史はディマンシュ族ではないですね、彼らはこのような術は使えない。道具を使ったわけではなさそうです。となると、ランディ族かジュディ族ではないでしょうか?」
お医者さんがきっぱりと言いました。
「ということは、入れ替わった可能性があるな。ボドワン」
「畏まりました、旦那様」
そういうとお祖父様の執事はお部屋を出て行きました。
「ブレーズ、イネスも見てやってくれ」
「はい」
「イネス?」
なんでイネスまで?と思ったらお兄様の横にお祖父様も座って優しく頭を撫でてくれました。お医者さんがイネスの体全体に手をかざすようにチェックすると眉根を寄せて、何か呟くと緑色に手が輝いて弾けました。
「んーーーー。仕込まれていたか」
お祖父様の声にお兄様の腕の力が強まりました。
「お祖父様・・・」
「大丈夫じゃ、ウジューヌ。イネスとエメはこのまま、セシルとウジューヌのそばにいなさい」
「「畏まりました」」
「セシルや、しばらくはお屋敷の中で遊んでくれるかの?」
「じいじ」
「そんな不安そうな顔をしなくても、大丈夫じゃよ。うんうん、熱は少し下がったかのう〜今日はこのまま休みなさい」
そう言ってお医者さんと一緒にお祖父様はお部屋を出て行きました。




