セシルと悪戯なお兄様
「ぷー!」
「セシル、頬が伸びちゃうよ」
そう言ってジョゼフお兄様がセシルの膨らんだ頬を両手で潰しました。
「ぷしゅー」
「不貞腐れないの。しょうがないだろ。ウジューヌお兄様、おばかさんなんだから」
「ウジューヌお兄様は、おばかさん!」
むすっとしながらいうと、エドガーお兄様が大笑いしてます。
「あははは、セシルからアランお兄様を奪った罪だね!ジョゼフにセシルにまでおバカさんって認定されてる」
そう、ウジューヌお兄様がおバカさん認定されたのは、こないだアランお兄様が教えてくれたことのレポートがボロボロだったんです。それに対して、アランお兄様とお父様が怒ってウジューヌお兄様のお勉強時間が伸びたんです。でも、お兄様は脱走の名人!そこでアランお兄様が監視役でつくことになったんです、あとお兄様の従者のパルナベも!
だから、いつもだったらセシルと遊んでくれるこの時間に、アランお兄様がいないんです。今日はセシルとお人形遊びしてくれる約束だったのに!
ドールハウスを開けて、兵隊のお人形を置いてから、メイドさんのお人形を持ってセシルは遊ぶことにします。
「また お勉強から にげました ね!」
「おーセシルうまい!ばあやの口真似!」
エドガーお兄様が楽しげに言ってきました。お兄様もお人形を手に持って横に座りました。
「剣が上手いのも良いが、勉強も同じくらい大切なんだぞ」
声色を変えて言った口調はセシルが知ってる人です。
「パパ!」
「あたり!」
「僕も僕も」
ジョゼフお兄様もおもちゃ箱を漁り始めました。セシルはエドガーお兄様とウジューヌお兄様人形とかした兵隊さんと追いかけっこです。
「まてー」
「また、ぬけだしましたね!」
そんなやりとりを、部屋に控えている従者と侍女はクスクス笑いながら見ていました。
「とうとう、セシル姫にもバカと言われるようになってしまいましたね。」
コームがいうと、イネスが聞きました。
「ウジューヌ様は、そんなにお勉強ができないんですか?そんな風には見えないのですが」
それに答えたのは、バジルだった。
「剣術や戦術にたいしては、ものすごく出来るかたですよ。あとダンスも上手です。会話術も場を盛り上げるのが上手いですね。ただ、社会系の勉強が大の苦手で、マナーはある程度大丈夫かな?」
「いや、だめだろう。セシル姫の誕生日会を忘れたのか?」
コームが呆れたように言えば、パジルはそういえばっと思い出した。
「あーそうだった。まー悪ガキらしい子供ですよ。他の部分で優秀なので、他家であれば、そこまで強く言われないんですが、流石にマルディ家では、必要最低限の知識が他の家よりも高いです。」
「そうなんですね。十分優秀な気がしますが」
「やはり、歴史的にこちらに無理やり武力で亡命してきたっという認識があるようで、私たちもそう教えられました。貴族達の中では、マルディ家を毛嫌いする人たちもいますからね。」
困ったようにパジルがいうと、コームは小さくため息をつきながら続きを言いました。
「それに、ウジューヌ様は次男でかつ、王太子のお気に入りなんですよ。それをよく思わない人たちもいるのも事実、だからこそアラン様とご当主様は危惧されているんです。ウジューヌ様であれば簡単に将校の地位についてしまいますし、その時にどの一族の人間か判断し、歴史的にどう思われているのかも考慮して付き合わないと危険なんですよ」
その言葉に、イネスはそれは自分たちにも当てはまるって事に気づきました。セシルのお兄様達の従者達が、使用人棟でも勉強していて、熱心だなとは思っていましたが、どうやら色々あるみたいです。学生時代の教科書をもう一回開いた方が良さそうだと思いながら、自分が使えるお姫様を見れば、どうやらお遊びは違うものに変わっていました。
「きょうのおちゃは とってもおいしい おちゃ です!」
女の子のお人形を持ちながら、セシルはミニチュアのカップにお茶を注ぐ仕草をしました。
「ほうほう、とってもおいしいお茶ですか」
そう言いながら、天馬のぬいぐるみの口にカップをあってて飲む仕草をしてるのはジョゼフです。エドガーは二人のやりとりを楽しそうに見ています。
「これは、甘くて、えっと、すっぱい!けーきです!」
「ほうほう、甘くて酸っぱいケーキだね、本当だーあまいーすっぱーい」
二人のやりとりがおかしいのか、エドガーはゲラゲラ笑っています。
「こうしてみると、ジョゼフ様もまだ幼いなー」
コームが呟くとバジルもイネスも微笑みながら頷きました。
*
最近のブームは、ドールハウス遊びです。今日は、イネスと一緒に遊んでます。お兄様達はお勉強中です。イネスと遊ぶとお姫様ごっこが出来るから楽しいです。
「今日は、準貴族のお宅に伺いますよ。」
「じゅんきじょく」
「はい、では着ていくドレスを選びましょう」
そうやって、お人形さんに着せるドレスを選んでいたら、ウジューヌお兄様が駆け込んできました。腰に剣がささってるし、なんか背負ってます。
「あ、ウジューにゅおにいしゃまだ。」
「セシル!!遊びに行くぞ!!!」
「「え?」」
そういうと同時に、お兄様が突進してきてセシルを抱きかかえました。
「はっ!ウジューヌ様いけません!!」
「俺は!遊びたいんだ!!!」
意味がわかりません。イネスが驚いて固まってます。
「イネス!!」
両手をイネスに向けて伸ばした時にはウジューヌお兄様はもう走り始めてました。
「きゃー!セシル様!!」
「ウジューヌ様!!!」
デジレの怒りの声が館内に響いてます。セシルはふわっと浮いた感じがしたら、お空が見えました。そう言えば子供部屋は2階です。お兄様はベランダから飛び降りてました。
地面に着地した時に、そんなに衝撃が来ないようにお兄様が抱きしめてくれましたけど、ちょっと怖かったです。
そして、そのまま駆けて、馬小屋につくと、セシルを馬の背中に乗せて、そのまま後ろに飛び乗って走らせました。
「ぴえぇええええ」
「しっかり俺に掴まってろ!!」
「ウジューヌ!!!」
あ、アランお兄様の声が聞こえました。
全速力で駆けていった先は、初めてみる湖です。馬から下されましたけど、足がグラグラして立てません。
「あははは、よし抱っこしてあげようお兄様は優しいからな」
優しいお兄様は、無理やり連れて来ないと思うんです。お兄様の頬をつまんで訴えてみることにします。
「どうして、セシルは、ウジューヌお兄様といるの?!イネスと遊んでたのに!」
「それは、俺が遊びたかったからだ!どうせ、今年はウジューヌお兄様と一緒に社交シーズンを過ごすんだぞ。慣れておけよ」
楽しげにいうウジューヌお兄様に悪い予感しかしません。
「いーやー!!」
「なんでだよ」
「ウジューヌお兄しゃま、おバカさん!アランお兄様にメってされたでしょ!」
ビシッとお兄様に指差していってあげました。
「うっ・・・俺はバカじゃねーし、ちょっと苦手なものがあるだけだ。」
「アランお兄様、怒ってた。デジレも!怒ってた!」
屋敷中に声が響いてました。あれは絶対怖いですよ。どうしてウジューヌお兄様は怒られるってわかっててやるんでしょうか。
「あいつらは、怒りすぎなんだよ、あれは絶対禿げるな」
「ウジューヌお兄様!」
「だいたい俺だって息抜きは必要だって〜の。知恵熱が出たら意味ないだろ?」
「ほえ?」
意味ないんですかね?
「あ〜俺だって癒しが欲しいんだよ〜セシルはおばかでかわいいな〜」
頬をスリスリされました。でも聞き捨てならないです。
「むーー!!セシルはおバカさんじゃないもん!賢いってアランお兄様が褒めてくれたもん!」
「はいはい。」
そう言いながらお兄様が腕を伸ばしました。セシルの脇の下に手をいれたまま、足がプラーンってなってます。
「ほえ?」
足元を見ると、下は湖です。
「俺は今遊びたい。セシルも遊びたいよな」
「やだ!」
ニヤリとしたお兄様に、セシルは必死にお兄様の腕にしがみつこうとしました。
「嫌なら俺は手を離すぞ!」
「嫌!遊ぶから!!いや!」
「よし」
そういうと、地面に下ろしてくれました。最悪です!最低です!絶対お父様にもお母様にも言いつけてやります!これは脅しという奴です。
「さて、馬も水飲み終わったみたいだし、行くぞ」
「ほえ?どこに?」
お兄様が手を繋いで歩き始めました。その後をお馬さんも一緒についてきます。賢いです。
「セシルにいいもん見せてやるよ」
「いいもの?」
「おう、ドールハウスよりもな!」
そう言いながら、湖の横にある林の中に進んでいきます。ウジューヌお兄様が背負っていたのは弓と矢筒でした。それらを構えると、木の上の実に向かって撃ち放しました。
「おぉお!!」
すこっという音と共に見事命中して、落ちて来ます。それをお兄様は走って受け取ると、やを抜いて、ナイフで綺麗に剥くとセシルにくれました。
「甘い果実だぜ。」
そう言うのでかじりつくととっても酸っぱかったです。
「すっぱい!!!」
「あはははは!!だまされてやんの!セシルはおばかさんだなー」
「ウジューヌお兄様!!!」
えいやっと食べかけの果実を重一気しお兄様の顔をめがけて投げつけたら、見事命中してお兄様が悶絶してます。どうやら目に果実の汁がちょっと入ったっぽいです。自業自得です!
「セシルのくせに、やったなー」
お兄様は手をワキワキさせはじめました。それは、くすぐり攻撃をしてくるときのポーズです。両手でまってのポーズしてもずるずる近づいて来ます。
「ウジューヌお兄様が悪いんだもん!セシルはわるくない!」
「俺は強いだぞー」
そう言ってかけだしたので、セシルも駆け出します。木の間をぴょんぴょん飛び越えながらお兄様と追いかけっこです。
「いーやー」
「おらーまてまてーくすぐりの刑に処してやるー」
「いやー!!」
逃げてるうちに楽しくなってケラケラ二人で笑いなが走り回って居ました。そういえば、セシルは林の中は初めてです。いつもお家の中にいます、お外は中庭とお父様達が連れてってくれる丘の上とか屋敷の周りだけです。
「あ!きのこだ!」
絵本で見たキノコがあります。
「あーそれは毒だから触るなよ」
「どく?」
「そう、手がかぶれる。っと、結構離れたところまで来ちゃったな。そろそろ戻るか」
お兄様が周りを見渡しながら言いました。そう言えば、お馬さんも居ません。周りは木がいっぱいで、どこから自分が来たのかさっぱりです。ちょっと怖くなってお兄様の足にしがみつきました。
「ん?」
「だっこ」
小さく言ってみると、お兄様がニコニコ笑顔で抱き上げてくれました。
「おう、いいぜ。そういえばセシルはお外初めてだもんな」
そう言いながら、お兄様は林の中をゆっくり歩き始めました。
「ここは、なんていう林?」
「ここか?別に名前なんてないぞ、まだ家の敷地内にある林だしな。アランお兄様達とは、小さい方の湖の林とか呼んでるけど」
「ほえ」
ここ、家の敷地内なんですか?!知らなかったです。というか、とっても広いですよね。馬で駆けて来てこの広さですか。意味がわかりません。
「それにしても、アランお兄様こねぇなーすぐに追いつくと思ったのに」
そういえば、そうです。あの感じだとすぐに来そうでした。
遠くで犬の吠える声が聞こえます。
「ワンワン?」
「ん?番犬が吠えてる?」
お兄様の声が変わりました。駆け足で進んでいくと、お馬さんを口笛で呼びました。
「な、なにかあったの?」
「さぁな。とりあえず屋敷に戻ろう」




