反省してます?
ご機嫌に歩きながら、朝露が光るお庭に出ました。すーっと息を吸い込むと爽やかな香りが肺にいっぱいはいって気持ちがいいです。スキップしながら歩いていくと、お庭を抜けて、馬小屋にたどり着きました。馬車が出してあります、昨日泊まっていったお客様のでしょうか?こんな朝早くから帰っちゃうんですかね?
近くで見れば個人用の馬車です。一人しか座れない馬車です、屋根が高くて豪華な馬車です。しかも繋がれてるのは、なんと天馬です!なんか知ってる天馬よりムッキムキでおっきいですけど、折り畳んでる翼も分厚いです。右向いて、左向いて後ろ向いて、「セシル様〜どこですか〜」声が聞こえますが、遠いです。侍女のシェイナがいません。
「いくっきゃない!」
馬車の足場に足をかけてよじ登り、扉の取っ手を持つと簡単に開きました。乗り混むとスプリングが揺れて、ふわふわして楽しいです。前を覗けば、天馬さんがなんか振り返って来たので御挨拶しときました。鼻を鳴らしてお返事してくれました。
お椅子のクッションはフカフカな椅子があるだけで、シンプルです。女の子のお人形を椅子の上に乗せて、セシルも横によじ登ってふかふかなお椅子に寝転びました。
「ふかふか〜」
カポカポッと心地よい音が聞こえて、ゆっくりと揺れて何だが心地がいいです。
*
その頃玄関ホールでは、レオンとドラハ、シュゼットにアラン、エドガーが並んで立っていました。その前にはルッツと名乗っていた少年と彼を守る護衛の人たちが並んでます。
「では、くれぐれも寄り道せずにお帰り下さい」
「わかっているよ、セシル姫は来ないの?」
「来させません。さぁ、早くどうぞ」
そんな会話をしながら、外に出るとルッツは飛んで来た隼が背中に乗ってきてバランスを崩しました。
「おっと・・・お父様の隼か」
「<また脱走しおって!!!帰って来たら速攻私の部屋に来い!!> 伝言は以上です」
前半は男性の声で、後半は不思議な声でそう言うと隼は、ルッツの頭を小突いてから飛び去ってしまいました。
「痛い。」
「早く、お戻りください」
「はぁー帰りたくないなー」
そう言いながら、従者の一人が連れて来た馬車と単騎の天馬達を見ながら、口を尖らせました。
「陛下のお小言が増えますぞ」
「わかってるよ」
ルッツはため息をつきながら、従者が開ける馬車に乗り込みました。ですが、そこにはすでに先客がいます。椅子に座らず立ったままのルッツに従者は不思議そうに見上げました。馬車の窓は大きいため中の様子が少しだけ見えます。ルッツの頭の位置は椅子の場所ではありません。
ルッツは、椅子でお人形を抱きしめながら眠るセシルを見つめていました。
「かわいい」
そう言いながら、優しく頭をなでれば、身じろぎをしたセシルはパチリと目が開きました。
「あれ?セシル寝ちゃった」
「そうだね」
「あ!ルッツだ!おはよう!」
「おはよう」
二人の声に、従者の人は慌てて扉を開けました。その様子にレオン達も気づきました。
ですが、馬車の中の二人は楽しげに会話が続いています。
「セシル姫はどうしてここにいるの?」
「朝のおさんぽ!そしたらふかふかのお椅子があったの!」
「そっか、天の思し召しかな。」
「おぼめし?」
「ふふふ、セシルは可愛いね」
「うん!セシルかわいい!みんな可愛いって言ってくれるの!」
ママもパパもお兄様たちも侍女もばあやも毎日言ってくれるもんね!セシルかわいいって!ニコニコで言えば、ルッツがむすっとした顔をしたと思ったら、セシルの頬を両手で挟み込みました。口が変な形になってます。
「むっ?」
「ふん・・・ブサイク」
意地悪な顔で言われました。
「ひょえ?」
ブサイク・・・セシル初めて言われました。この世界に生まれてから初めてです。昔は言われ慣れてたのに、今はとても悲しいです。目が熱くなってきて涙がポロポロでてきたら、ルッツが悪い顔の笑みを浮かべました。
「ふふ・・・かわいい」
そう言うと、金色に輝く目が間近にきてました。口に柔らかい感触がします。
「なっ?!!」
「セシル!!!」
お兄様とパパの声が聞こえます。周りもざわついてます。
「やっぱり連れて帰ろう」
そうルッツが言ったと思ったら、お水がブワーッと出て来ました。開いた扉から水の渦が宙に浮いて外に出てます。お父様の声が聞こえてます。
「待てごらぁ!!うちの娘に!!何しとるんじゃ!!!」
めちゃくちゃ巻き舌で怒鳴ってます。ちょっと怖いです。
「じゃぁね。レオン公爵」
ルッツは笑顔で手を振って、扉を閉めてしまいました。
「ふぇ?!」
指を動かすと水型の人が現れて、御者台にすわると鞭を打ちました。ぐわんっと馬車が動き始めました。頭を後ろにゴッツンコしちゃいました、痛いです。
慌てて窓の外を見ると、パパが凄い形相で走って来てます。ママとアランお兄様とも目が合いました。みんなびっくりした顔をしています。セシルもびっくりです。だって、もう馬車は宙に浮いています。それに対してルッツは大笑いしてます。
「ルッツ、どこにいくの?」
「僕の家だよ。セシル、一緒に遊ぼうよ。楽しいよ!」
楽しいですか?それは、気になります。
「う・・・あ・・」
頷ずこうとしたら、頭の中でお姉さんがダメだよって言って来ます。お父様とお母様が心配するって帰らなきゃダメって言ってます。
「セシル・・・・ママとパパのところに行きたい」
「僕のところに来れば、おいしいお菓子もおもちゃもあるよ。楽しいことがいっぱいだよ」
窓の外は知らない世界です。何だか怖くなって来ました。ルッツは不機嫌そうな顔をしてます。
「ふぇ・・・セシルは・・・お家に帰りたい」
「セシルは神様の庭の子でしょ。僕と」
ルッツが何か言う前に鳥の鳴き声が響き渡りました。窓の外を見たら、赤い炎の鳥が飛んでます。
「もう、追いつかれた。」
天馬さんが驚いて泣いてます。かわいそうです。
「セシル!!」
ママの声です。
「ママ!!」
椅子の上に乗って窓の外を見たら、お母様が天馬に乗ってます!ドレス姿なのに、とってもかっこいいです。
「シュゼット夫人がきちゃったか。残念」
お母様が腕を振るうと火の鳥がまた一羽生まれて、天馬さんの前に立ちはだかります。次の瞬間には炎の人が現れて、水の御者を蒸発させてしまいました。くるりと方向転換した馬車は、またセシルの家の前に着きました。
馬車が地上に着くと、お母様が扉を開けました。
「セシル」
「ママ!!」
お母様の腕の中に飛び込むとぎゅーって抱きしめて来れました。
「シュゼット夫人」
「ルッツ、私の姫を返してもらいます。もしも、また同じようなことがあれば全力でお相手いたしますから」
「・・・」
「行ってちょうだい」
お母様がルッツの使用人に指示をしました。馬車から離れるお母様の肩越しにルッツが見えます。なんだかとっても寂しそうです。お母様にしがみつきながら、小さく手を振ったら、ぎこちない笑顔で手を振って来れました。
「ルッツ!ばいばい」
「ばいばい」
「・・・またね」
「!!うん、またね!」
今度は笑顔でルッツは大きく手を振りました。
お父様がお母様ごとぎゅーって抱きしめて来れました。
「セシル、”またね”はいらなかったかな」
「ほえ?」
「そうね、ルッツはちょっとおイタが過ぎるわね」
「ルッツ、しょんぼりしてた。寂しそうだったよ」
思わず両親に言ったら、困った顔をされてしまいました。
「セシル、大丈夫か?!」
そう言ってセシルのお口をハンカチで拭きふきしてくれているのは、アランお兄様です。
「アランおにいしゃまー!セシルブサイクっていわれたー」
思い出したら腹が立って来ました。涙がポロポロおちてきてしまいます。
「セシルは、ブサイクじゃない。かわいいよ。あいつは捻くれてるだけだよ」
そう言って、お兄様がセシルのおでこやおはな、頬にキスを振らせてくれました。
「くすぐったい」
「笑った方がもっと可愛いよ。僕のお姫様」
「おにいしゃまー」
ぎゅって抱きつけば、お兄様が抱っこしてくれました。
「あんの、クソガキ。絶対今度会ったら絞ってやる。」
お父様がとっても怖い声でいってます。
「お父様、アランお兄様、僕ルッツ様を監視するね。」
そう決意した顔のエドガーお兄様はかっこいいです。
「頼むぞ、エドガー」
「あら〜うちのお姫様はモテモテね」
そんな男たちを見つめながらお母様はのんきに眺めてます。
「シュゼット!!我が家の姫の唇が奪われたんだぞ!!最初の!!」
「・・・最初のもなにも、すでに貴方達が奪ってるでしょ。」
「それは身内だ!!」
「そうね〜。」
*
ルッツは自分の家に帰ると、早速父親に怒られて拳骨が落ちました。
「バカモンが!!!同意もなしに連れ出そうなんぞ、人さらいと同じだ!!何を考えてる!!」
「ごめんなさい」
「まぁまぁ、あなた落ち着いて」
青から水色にグラデーションされた長い髪の毛を下ろしている、止めに入った女性はルッツの母親です。
「落ち着いてられるか!!勝手に家を抜け出し、誕生日会の主役である姫を連れ去ろうとするなんて!!牢屋にぶち込まれても文句は言えんぞ!!」
顔を真っ赤にしながらルッツの父親は怒り心頭です。
「おちついて、水を飲んで。私も聞きたいことがあるから。ね?あなた」
母親は、水が入ったコップを差し出しながら、父親を椅子に座らせました。
「分かった」
「さて、ルートヴィッヒ。どうして、セシル姫を拐おうとしたのかしら。そもそも、ウジューヌ王子から話を聞いていたとしても、今までだって他の友達の兄弟の話なんていっぱい聞いてるでしょ?」
「それは・・・」
「それは?」
「あいつが、自慢げに話してきたし。可愛くないとか言いながらいっぱい話すし。・・・それに僕と同じみたいだったし」
「「・・・」」
両親は思わず顔を見合わせてしまいました。
「なら、なおさら会っちゃダメね。まだ、悪夢を見るの?」
「・・・セシル姫の話を聞いてから見なくなった。」
「まぁ・・・だから興味を?」
「うん。」
俯くルートヴィッヒを母親は優しく頭を撫でました。
「なるほど・・・だがな、たまたまかもしれんぞ?別の要因と重なっただけかもしれない。早とちりはいかん、私たちに相談しても良かっただろう」
「・・・言ったら、会っちゃダメって言うだろ」
「・・・はぁ。そうだな」




