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第二章.15

切り替えた僕は準備を終えると、英雄の首に回復魔法を使ってキスマークを消す。

「埃を被りだした僕の回復魔法がこんな役に立つなんて・・・・」

「確かに最近お世話になる事は無かったが、お前ヒーラーだろう。」

呆れて言う親友に僕は視線を逸らす。

「攻撃役が良いんだよ。戦闘で後ろから見てるのは寂しいし、もっと身体を動かしたい。血沸き肉躍る経験が人を強くするんだ。」

「うるせえバトルジャンキー。それなら召喚した連中からもっと力を引き出せるようになれ。」

そうなのだ。ジナイーダさんから、僕が使えるであろう攻撃魔法は全て伝授されているのでこれ以上は魔力操作の上昇意外に火力の上げ様が無い。そうなると、彼らとのリンクを高めて、身体能力を上げるしか方法が無いのである。

これは後衛にいたくない回復役なので非常に困っていた。そもそも威力不足であった所に射程距離を狭める事で補っていたのだ。これ以上戦闘力に差が開くと攻撃魔法すら禁止されて、後ろに固定されてしまう。

「俺からしたらお前が前衛に出るだけでも十分に怖いんだけどな。まあ、この話が平行線に終わるのはいつもの事だからいいさ。お前も必要な時はしっかりと後ろに下がるからな。それより、この耳と尻尾はいつまでそのままにしておくんだ?」

英雄が僕の頭を撫でながら呆れている。

「好きで生やしてる訳ないだろ。」

「でも嫌いじゃないんだろ?」

「それは認めるけどさ・・・・というかこれ外せないんだよ。」

僕は首を傾げた親友に、この装備がいかに呪われているかを説明する事にした。

「これ、誰か1人でも僕の中に残ってると必ず発動するんだ。フロウなら角、チチリなら羽って感じでね。だからと言って全員を召喚すると大所帯になるし、完全に解除してしまうと咄嗟の時が危ないんだよね。」

待機状態であっても、ルルの索敵にはかなりお世話になっているし、森で奇襲を受けた時にチチリが迎撃に飛び出してくれなかったら危なかった事もある。そんな輝かしい戦歴が彼らには有るので下手に解除すると一気に戦力が落ちるのだ。

「なるほどな、聞くしかないか。」

「くそったれめ・・・・聞こう。こうしていても仕方ないよ。お腹空いた、早くご飯食べに行きたい。」

英雄が通信用魔道具を取りだし、全ての元凶に連絡を取ると、部下の女性が電話に出た。

『おはよう2人とも。どうしたの?』

「おはようございます。マレフィさんはどうしたんですか?」

親友が首を傾げて聞くと、彼女はかなり疲れた様に笑った。

『遊馬君の件で反省室に送られてる所。今回のセクハラはやり過ぎだって事でかなり絞られてるみたい。』

今回『の』って事は前にもあるのか・・・・あの邪神め、1度アマ○深界にでも叩き落されてしまえば良いのに。

『あの方、ああ見えて結構武闘派でね、前回神々が訓練に使う宗教の入り乱れた世界に叩き込んだら、中層辺りを1人で冒険していたらしいわ。おかげで反省を促す時が大変みたい。今回は同期の方が対応されているんだけど、本気で怒ってたから怖かったぁ~。』

腐っても神なんだな・・・・というかあるのか、深界擬き。ちょっと行ってみたい。

「そっちはお任せします。出来れば手加減抜きで反省を促してほしいですが、今は置いておいて、実はこの耳と尻尾の事で相談が有るんです。」

僕が部下の人にそう言うと、大変喜んでくれた。見た目が美人なお姉さん系だから犬系統は大変似合うそうだ。モフモフ好きとして少し嬉しい。

『それなら大丈夫だよ。2~3日程度で消せるようになるって。だから安心してね。』

彼女は面白そうにくすくす笑っているが、僕としては非常に困る。

困るが、時間経過で治るのならば放置するしかないので諦めた。

『あと、尻尾とか羽を出す穴の開いた服を送るから、着替えはこっちを使ってね。』

そう言うと段ボールが届いたので、開けてみると服が詰まっていた。必要な位置に穴が開いているので、治るまでの数日は何とかなりそうである。英雄と一緒にお礼を言うと電話を切り、僕達は食堂に向かった。


僕のパーツは結局ルルのままである。フロウは外に出てもらわないといけないし、プラフィとチチリの羽は大きくて邪魔になるのだ。そうなると面積の少ない狼パーツが見た目もさわり心地も勝利する事になった。


『きゃああああああ!! なにあれ!? 可愛い!!』

『可愛いって言うより、大人のエロさが凄い!!』

『アスマちゃん、俺を食べてくれないかな・・・・・』

『俺はヒデオを四つ這いにさせたい。』

お前らこの国の人なんだから、獣パーツぐらいでそんなに騒ぐなよ。

「いや、元々は無かったんだし、普通は驚くだろ。」

「これ以上色物枠なんていらないよ。」

「惚れた男が強請ったら?」

「まあ、考慮はするかな?」

流石に目を見ては言えなかったのだが、ちらりと顔色を窺った感じだと今の解答は大変お気に召したようだ。

後ろからさらに黄色い声が上がるのを無視して食事を終えると、とりあえず部屋に戻り今日の予定を話す。

「休み。」

「ああ、休みだな。と言う訳で、ギルドに行こうぜ。」

僕は露骨に嫌な顔をするが、英雄に窘められる。

「いや、それを人に見せたくないのは分かるけどさ、アズレトさんの話だと、今日には事件解決の報酬が入るって言われてたじゃねえか。それを受け取ってから行けなかった買い物に行こうぜ。」

僕は不承不承と頷き、フロウを召喚すると、部屋を後にした。


そう、前回スカートを穿いた日なのだが、2人の登録後に相方が追加でボコボコにされたので買い物に行けなかったのだ。それから講習や給仕などが有ったのでまだ出かけてはいない。確かに今日は休日の予定だったし丁度いいだろう。

フロウはイヴァンさんから斧の選び方を聞いておいたらしいので英雄とセットで任せておけば問題無いかな?


ちなみに僕達を襲った馬鹿な連中だが、アルバイト中に最後の1人が監視されている事に気付かず、こっそり街を出ようとした所を強面のお兄さんたちが堂々と職質。容疑者は圧力に耐え切れなくて、あっさりとゲロをし御用となる。

その後魔道具で確認をした事から全員捕まったのは間違いないらしく、事件は無事に解決となった。

こんな事をする連中なので工房内でもあまり評判は良くない連中であり、新しい職場みうりさきへの就職は快く受け入れられた。

おかげで、気兼ねなく売却代金を受け取る事が出来るのだ。


ギルドの入り口に立って僕は気が付いた事が有るので英雄に尋ねる。

「今回って報酬を貰うだけだから僕が来る必要なかったよね?」

「皆に見せ付けてやればいいさ。」

「姉さんなら人気出るって。」

他人事だと思って好き放題言いやがって。

「はぁ・・・・ここで考えてても仕方ない、行こう。」

僕が盛大に溜息を吐いてギルドへ入ると、視線が一気に僕を捕えて非常に居心地が悪い。

(まずいぞ。思ったよりロビーに人が残ってる・・・・)

つい垂れ下がりそうになる耳と尻尾を頑張って伸ばしながら受付に歩いていると、横合いから叫ばれた。

「アスマ、逃げて!!」

この声はアドリアーナである。内容は不穏極まりないのだが、僕は呼ばれた事に反応してそちらを見てしまう。そして死ぬほど後悔した。

彼女のPTがクルイローに帰還しており、その中の1人であるジーナさん(狐のお姉さん)が荒い息を吐いてこちらを血走った目で見ていた。いや、もう駆け出す瞬間である。

それだけではない、彼女の動きを皮切りに、他の馬鹿共も突撃体勢になっていた。

男女比は7:3である。3割の女性陣よ、僕に何を期待しているのだ?


それが決壊するのに1分もかからなかった。


僕らと同じレベルの連中は走り寄るが、タイミングをしっかりと合わせ、速度を調整した中堅シルバーに置いて行かれる。


シルバーに上がる絶対条件として、今の僕ら以上に魔力を上手く纏って身体能力を上げる技法が有るのだが、彼らはそれを惜しみなく使っていた。お前らアホか・・・・

ちなみにこの技術、皆使えば良いじゃんと思うかもしれないが、技量の低い者が行うと、上手く制御が出来ずに魔力を込めた部位が爆散する。以前英雄が経験しとけとやらされて、左前腕の甲が吹き飛んだ時は軽く泣いた。


中堅が本気で魔力を纏った場合、僕ら程度の実力では当然逃げられる訳もない。というか圧力が半端ではないので動けなかった。

きっと後ろの二人も同じだと思う。

何より忘れないでほしいのだがここは広い建物とは言え室内だ。逃げられない上に出入口を塞がれているのでどうしようもない。

そして僕は1番身のこなしが軽い女性に捕まり、お姫様抱っこされると三段跳びの要領で2階へと連れて行かれた。吹き抜けを飛び越えるなんて格好良過ぎる。

邪悪なものを一切感じなかったので、抵抗をせずに身を任せてしまったのだが、これが功を奏した。本来であれば不用心なだけだが、今回は感謝しよう。

誰に捕まったのか上を見ると、アドリアーナのPTメンバーであるカリーナさん(狼のお姉さん)だった。

(まさか、この人までも特殊性癖の持ち主か!?)

あのPTの中で良識人だと思っていただけに困惑していたのだが、僕が驚愕を顔に出さない様に腕の中から様子を覗っていると、こちらを見ずに下ろしてくれた。もしかして、助けてくれたのかな?

階下の連中をしっかりと牽制している辺りプロである。本当に格好良いなぁ。

そんな事を考えていると、1階から声が掛る。

『カリーナ、独り占めは許さんぞ!!』

『そうだ、俺達はそろそろ年齢が危ないんだ、お近づきになるぐらい良いだろうが!!』

『私達にこんな邪な考えはありません! お姉ちゃんを思いっきり撫で回したいだけです!!』

『そうですよ、耳を甘噛みするだけです!!』

前半の男共の主張は分かる。僕も社会人になってから知り合いが結婚したと聞く度に色々と考える事があったからだ。だが後半の女の子達よ、君らはアウトだ。

というか給仕の子達以外にもその呼び方が定着したのか・・・・子供達の手前、わざと自分の事をそう呼んだが、改めて人に言われると地味に傷つくな。

「今の貴方達がこの子を掴まえたら問答無用で持ち帰るでしょうが。」

カリーナさんが溜息を吐いて、呆れた様に言うと下の連中が口籠る。

捕まらないで本当に良かった。助けてくれて有り難うございます!!

チラリと酒場側を見ると、血涙を流してこちらを凝視して来るジーナさんと目が合った。彼女はアドリアーナとアデリーナさんに拘束されて最初のうちに脱落していたのである。滅茶苦茶怖いけど、毛が逆立っている今の尻尾には飛び付きたい。

そんな事をぼんやりと考えていると、受付から全員に声が掛る。

「ほら、馬鹿騒ぎは終わりよ。アスマは降りてきて私と来なさい。ヒデオもよ。」

ジナイーダさんの一声で僕を狙う連中は口々に不満を出したが、彼女の冷たい笑顔を見て一目散に逃げ出した。だが危機は去っていない。受付から出てきた後に僕を見て、口角を上げたのを見逃さなかったからだ。


どうせ事情説明と一緒に撫で回されるんだろうなぁ・・・・


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