第二章.16
「ほら、これがお前たちに支払われる分だ。機会が有ればまた頼むぞ。」
アズレトさんが笑いながらお金を渡してくれるが、狙われた僕らとしてはあまり笑い事では無い。
「相手から狙われる無名でブロンズまでの頃が美味しいとは言え、好き好んで襲われたくはないですよ。」
ヒデオが苦笑して返し、僕は溜息を吐く。
「それが嫌なら早くシルバーまで上がるんだな。お前たちの仕事量なら評価の方ではそんなに時間はかからんさ。」
彼の言葉に頷くと、僕らはギルドを後にした。助けてくれたカリーナさんやアドリアーナに挨拶をしようかとも思ったが、騒ぎが一度収まった時に2人から『お礼はいいから、用事が終わったらすぐに逃げなさい。』と念を押されていたので大人しく撤収する。
後日ファンクラブが正式に出来上がったらしい。
あの後ジナイーダさんに捕まった僕は1人だけ別室に連れて行かれ、召喚中であるフロウ以外のパーツを全て撫でられた。
今回はアズレトさん達を待たせているので、触診の様に軽く魔力を通されるだけで終わったが『次はもう少し調べさせて。』と有無を言わさぬ迫力で約束させられた。
まあ、今日触られた感じでは邪気を感じなかったので大丈夫だろう。
街でフロウの装備品を買い終わると、3人で街を回りストリートパフォーマーを色々と眺めながら遊んで周った。音楽に詳しくない僕達だが、ゲームミュージックをそれなりに聞いて来たのでほんの少しだが、耳は肥えている自信がある。
気になるミュージシャンの人達には迷わずチップを投げ込んだ。一度やってみたかった事もあって、硬貨を投げ込んだ後に謎の達成感を感じて2人で笑っていた。
叶うのならば気になった人達がプロになって欲しいものである。
次来る時ははダンサーの様な別ジャンルを覗いてみよう。
なお、この世界にCDは無いが、その辺は魔道具でバッチリだ。スピーカーまでしっかりと有るので、本格的な拠点が出来たら、とりあえず入門ランクで一式揃えてみたい。
もちろんこの世界にもピュアオーディオにどっぷりつかった人達が居るのだが、僕達はそこまで立派な耳は無いので気にしないでいる。
その後は特に何もなく宿へと帰り、翌日は新装備のお試しに平原へと向かった。訓練の賜か、男2人のコンビは問題無く魔物を屠っていく。前衛2枚は非常に頼もしい事を痛感しながら、自分が前に出られなくなった事を悲しんだ。そもそも今日はルルとチチリを召喚した以外は何もしていない。辛い、寂しい。
「いや、これが正しいヒーラーとかヒロインのあり方だって。」
「そもそも、非力な姉さんが前衛に出たがる事がおかしいんだよ。」
「レジ○ンドオブドラグ○ンと言う作品があってね・・・・」
何が何でも屈したくない僕が、頑張って反論をしようとしたのだが
「ああ、お前の初恋の人か。確かに綺麗で格好良いが、あの人はお前と違って強かっただろ? 諦めろ、今のお前じゃ惨劇の被害者になるだけだ。それともオークみたいな司令官に捕まって酷い事されたいのか?」
と英雄の容赦ない言葉で完封された。無念だ。
そんなこんなで仕事の無い僕だったが、ついに戦闘用の新技をお披露目させる出来事が起こる。
それは袋一杯まで狩った、帰り道の出来事だった。
「遊馬、あれならお前でも1人で戦って良いぞ。」
英雄が指差した方を見ると、そこには茶色の兎が3羽いた。懐かしのレイルラビットである。初心者のお供とも言われる奴で売却価格が振るわない為、真っ先に僕らが優先順位を落とした魔物だ。
この際お前でいいや。僕の非力さを補う新たな技を喰らえ。
僕は剣を抜くと無言で駈け出し、一気に距離を詰める。
後ろから
『格下相手でも油断しない事は褒められるが、嬉々として戦いに行くのはどうなんだ?』
『現代でもヒロインポジだった事に対する反動では?』
と言っていたが、走っている僕に内容までは聞こえていなかった。
僕の接近に気が付いたレイルラビットが真正面から突進してくる。
(チキンレースか。僕がもっと力のあるタイプなら付き合ったんだけど・・・・ごめんね!!)
狙いを突っ込んでくる先頭の1羽に絞ると、追従している2羽の足元に魔法で溝を作り、昔戦った時と同じように転ばせる。
後続が遅れたことに気が付かない最初の1羽が頭を下げて僕に頭突きの体制を取りながら駆け寄って来た。
「甘い!!」
右手に持っていた剣へ魔力を込めると体から温かなものが流れ、全体を緑色の光が優しく包み込む。
足元に飛び込んできたレイルラビットを軽くステップを踏む事で右に躱すと同時に、ショートソードを相手の軌道へ刃を当てない様に添わせる。
交錯した獲物が後ろへと駆け抜けて行く事を感覚的に理解し、腐臭を確かに感じた事で僕は心の中でガッツポーズをした。
『キィィー!?』
後ろから聞こえるレイルラビットの悲鳴を無視して、体勢を立て直していた1羽に駆け寄り靴を緑色の魔力で覆うと蹴り飛ばす。
蹴りとは難しい技術で、素人が使っても当たり所によるが大したダメージは無い。慣れていない相手なら顔や鳩尾などを狙え、視覚的にも恐怖を煽る拳の方がずっと危険である。体重が乗らず、軸足がぶれて打点も定まらず、力も乗せられていない蹴りなど、前腕を使い防御するだけで威力は死に、致命的な隙を作るだけだ。
それはまだまだ格闘術の練習中である僕も同じなのだが、今回の相手は小型であるレイルラビットであり、そもそもサイズが違う。
直撃を受けたウサギは宙を舞って転がるが、しっかりと魔力が浸透した感触を受けたので追撃はせずに放置する。
最後の1羽を見ると、こちらを涙目で見上げていた。
こけた拍子に足を怪我したのだろう。僕から逃げようと一生懸命に足掻いている。
どんな時でも決して諦めない姿勢は称賛に値したので、首を一撃で落とそう武器を振り上げた時に大声で止められた。
「ストーップ!! 何やってんだお前!!」
まだ戦闘は終わっていないのに駆け寄ってくる英雄を見て僕は首を傾げて答えた。決着はまだなので警戒は解いていない。
「どうしたの?」
「『どうしたの?』じゃねえ!! いったいこいつらに何しやがった!?」
英雄が最後の1羽に止めを刺すと、走って来た方を指差した。
そちらを見ると、最初に倒したレイルラビットの死骸と、鼻を摘みながらそれを見るフロウがいる。
「ふふん、これが僕の新しい戦闘方法の1つだよ。まあ見ての通り素材が駄目になるから使い所は難しいんだけどね。」
胸を張ってそう言うと、目の前の親友は盛大に溜息を吐いた。
「何処の世界に相手を腐らせて殺すヒロインがいるんだよ、絵面を考えろ絵面を!!」
叫びながら、今度は蹴り飛ばした方の個体を指差す。そこには腹部から腐敗し息絶えているレイルラビットがいた。
「う、うるさいよ!! 生きるか死ぬかの瀬戸際に綺麗事なんて無いのは僕達もよく知っているじゃないか!! それに現代なら探せばいくらでも居そうだろ!?」
まあ、見た目がアレなのはずっと考えない様にしていたので、突っ込まれるのは覚悟していた。だが、これは戦力的に見ても優秀なのだ。
「見ている側の事も考えろ!! 美人が嬉々として戦いに行くのは問題ないが、その方法が腐食なんて論外だろ!! 知らない人が見たら軽くトラウマものだぞ!?」
「理想的な異性を求めるなら一生ディスプレイに張り付いてればいいじゃないか!! それに僕は男だよ、遊馬なんて誰がどう聞いても男だよ!!」
そのままギャーギャーと騒いでいたのだが、英雄に肘関節を極められて修正された。
「パ、パワーが違いすぎる・・・・」
「姉さん本当に何やったんだ?」
僕が無力に涙していると、騒いでるうちにこちらへと来ていたフロウが呆れた様に声を掛けてきた。英雄も頷いていたので、やはり興味はあるのだろう。珍しい使い道らしいが、防衛策の事も考えると知っていて欲しいので無理矢理にでも聞いてもらう。
「これは回復魔法の応用なんだ。」
僕がそう言うと2人の顔が引き攣った。
「普通に使うだけならただの回復魔法だけど、僕みたいな効果を上げられる適正持ちとか、ジナイーダさんみたいな出力が高い人の使える裏ワザ的な技術らしいよ。回復に使う魔力が多過ぎると、受け手側が耐え切れず腐るんだって。まあ、見た目が非常に悪いから使う時は緊急時とか、周りに気を付けろとは言われたね。」
僕が目を逸らして言うと英雄に溜息を吐かれた。まあ、気持ちは分かる。
「しかしそんな危ない技術が有るなら注意しないといけないが、対策って何かあるのか?」
「基本的にヒーラーを倒す時に容赦しない事と、相手からの魔法に対して攻撃魔法の時と同じように魔力で抵抗すれば良いって。ただ、かなりマイナーな技術らしくて知名度自体が低いみたい。こういうのが有るとだけ知っておいて。」
僕がそう言うと2人は嫌そうに頷いた。
「姉さん質問なんだけどさ、今見せた様に見た目はともかく威力は申し分ないだろ? なんでマイナーなんだ?」
フロウの質問に僕は遠い目をして答えた。
「ヒーラーって後衛の人が圧倒的に多いから、いくら威力が高いからと言って、命を賭けて近接戦を挑む事はしないみたい。1番多く使うのは拷問を担当する人かもってジナイーダさんは言ってたよ。」
一応腐るという事は知られているのだが、これを攻撃に使うの発想は極一部らしく、腐らせてから治す無限ループとか聞いた時はかなりくるものがあった。絶対にお世話にはなりたくないな・・・・
「まあ、何となくは分かった。わかったが・・・・本当に使うのか?」
英雄の視線に耐え切れずに僕は視線を逸らす。そんな『本当にやりたいなら考えるぞ?』って諦めと憐みに満ちた視線を向けないでくれ。無理を言っているのが分かるから心が痛い・・・・
「言われた通り緊急時だけにします。」
決して憐憫の視線に耐えきれなかった訳では無い。これは、腐らせる事で素材が無駄になる事と、僕達の名声が下がる事を危惧したからだ。
「なあ姉さん。夫婦円満の秘訣って、お互いがお互いを立てる事でいいのか?」
うるさいよ、そもそも夫婦じゃない!!
「俺達はまだ新婚だから何とも言えないが、そうだな・・・・支え合うことは重要だと思う。自分の事ばかり言う奴は鬱陶しいからな。」
「おい待て、何さらりと新婚にしてるんだ。」
尻尾を思いっきり立てて不満を言うが、英雄は口角を上げながら僕の狼耳を撫で回すだけだった。
慣れてくると撫でられるのは気持ちいいが、それをこいつに言うのは癪なので黙っている事にした。
次は何で報復してやろうかな?




