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ジオルフリード 〜無敵のスーパーロボット、異世界に降臨す〜  作者: 左門寺三号


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第8話 巨人にとらわれて

(なんだこりゃあ……)

 

 巨人によって解き放たれた景色の向こうには、神々しいほどの巨木が立ち並ぶ、見たこともない別天地が隠されていた。

 白銀の巨人と比してもなお巨大な木々の頂は二つ日(エルターン)にまで届くのではと思いたくなるほど遠く、漂う魔力光(マーナルミナ)は見たこともないほど濃く大きい。

 呆然とするグラムの視界の端で、なおも飛翔を続ける拳が1本の巨木を打った。

 するとそこから魔力光(マーナルミナ)よりさらに明るい光の塊が(まろ)び出る。

 じたばたと不規則な軌道で巨人から遠ざかる光の塊は次第に失速し、ついに止まってしまったかと思えば一直線に巨人の頭部に吸い込まれていった。

 

(喰った……!)

 

 何が神の使いか、何が調停者か。なんということはない、あの巨人も息を()き、糧を()()()()なのだ。

 で、あれば殺せる。狩れる。そう確信したグラムの脚は震え固まっていたことも忘れ動き出した。


(あれだけの力、御大層に見せてその実腹ペコってわけか)


 魔力の濃い森には木に宿る妖精(フェア)が住むと聞く。迷いなくその住処に踏み込んだところを見るに巨人も余裕はなかったに違いないと当たりをつけた。巨人にも付け入る隙はある、そう信じたかったのだ。

 主のもとへ帰還する巨腕を受け入れる巨人の鷹揚な動きは、ようやくありつけた美食を堪能しているかのようだった。


(じっくり味わっておけ……。今に俺様がご馳走をお見舞いしてやる)


 それきり動きを見せなくなった巨人の周りでグラムはこれから始める巨人狩りの下ごしらえを始めた。

 狙いは口、(かぶと)のように頑丈そうな頬当てに守られているが、捕食をするのならば必ず柔らかい体内に通じているはずのそこを攻める。

 火を呑ませるか、耐えられても続く《瘴煙の術》をもろに吸い込ませる。

 巨人がいつ動き出すか分からない中、その頭部に猛毒の煙を届けるための風を起こす術式を森の中に入念に組み上げていく。数人がかりで発生させるような強力な上昇気流を生む仕掛けを単身で組み上げるには、その分手間と時間がかかった。


(《瘴煙の術》もこっちに編み込みたかったが、……お目覚めか)

 

 沈黙を続けていた巨人の周囲に漂う青白い魔力の粒が渦を巻きはじめ、そしてその胸部へと収束していく。

 

「ずいぶんな大あくびだなあ!!」

 

 グラムは作業を切り上げ、魔杖を巨人の頭部へと向けてその側面に躍り出た。


「グラム!! 貴様ッ!!」

 

 怒声の聞こえた背後を一瞥するも魔杖はぶらさない。鼻を鳴らして声の主に見せつけるように練り上げた炎の魔力を解き放つ。

 

「フン!食らいなッ!!」

 

 放たれた火球は、神聖なる森で巨人の周囲に光が渦巻く神話画のような風景を切り裂いて一直線に巨人の顔面へ炸裂する。

 身を強張らせる獲物に二発、三発、四発と容赦なく火球を連射し、白銀の頭部を炎で包み込んだ。


「クソがぁッ!!」

 

 背後から響いた絶叫の主、あの天幕の隅にいた若造が偵察隊の部下たちに声を張りつつ、自身も剣を抜き放つ。

 

「グラムを抑えろ! 腕を切り落としても構わん!!」

 

(チッ!腰抜けどもが張り切りやがって)

 

 ゆらりと体の向きを変える巨人を視界の端に捉えながらも偵察隊を睨む。

 彼らが勢い込んだままグラムの仕掛けた罠の範囲に踏み込んでくる。

 狩りの邪魔をするのならば巨人もろとも始末してやる、そんなどす黒い殺意を織り込むように毒霧の術式を組み立てていく。


 部隊長の踏み込みは存外に鋭く、グラムがその裂帛の剣閃を一太刀は受けることを覚悟した刹那、――彼の視点が、爆発的な速度で()()した。


「なっ!?」

 

 自らの意思で跳んだのではない。両脇から、それぞれが人間の胴体よりも太いつるりとした柱の頭が2つ差し出されている。


(俺を摘まみ上げた!?)


 背後から伸びてきた白銀の指が、グラムの身体をガラス細工でも扱うような繊細さと、刃の一振りよりも果断な速さで摘み上げたのだ。骨の一本も折らず、だが絶対に逃れられない精妙な力加減。

 部隊長の振るった一閃もグラムの遥か下方を空しく空振った。


 あっけにとられたグラムだったが、術者の足が離れたことで起動した罠によって、猛烈な風が彼自身にも吹き付け、我に返った。


「助けたつもりか……!」

 

 巨人の眼前から炎の煙が晴れ、見下ろす冷たい(まなこ)をグラムが睨み返す。

 空中で捕らわれの身になっていても、グラムの狂犬の如き執念は死んでいなかった。巨人の顔面が近づいたのならば、むしろ好都合。

 

「じゃあ、こいつは礼だッ!!」

 

 グラムは荒々しく歯を剥いた。

 獲物がわざわざ喉元まで招き入れてくれたのだ。あとは喰らいつくだけだ。

 グラムは強風に煽られ外套を激しく(はため)かせながら、魔杖を突き出す。その先端から濁った霧が噴き出した。

 《瘴煙の術》、それは白魔力(クリマーナ)からさほど大きくは変質していない。ほとんど純粋な魔力のまま肺を侵し、馴染む。

 その巨体を支えるために体中に魔力を巡らせている巨獣の類ほどよく回り、そして致命的にその体を蝕む。全身に行き渡った魔力毒は白魔力のように振舞いながらその経路をズタズタに破壊してしまう。魔力耐性の高いグラムならばともかく、人類(ノールマン)でさえ治療されなければ数日は苦しんだ末に死に至る外法も、匂いに敏感な獣にも悟られにくく、身体機能の維持を魔力に依存する巨獣ほど効果を発揮するこの魔術をグラムは好んで多用した。

 

 気流に乗って押し寄せる死の奔流が巨人の頭部を完全に覆いつくす。


(入ったッ!!)


 これだけの巨体ならば魔力の消費も凄まじい。戦場から一目散に妖精を捕食しに行くほどなのだ。毒はあっという間に全身を蝕むはず。


 そんなグラムの予想を裏切り、巨人はびくともしなかった。

 グラムをさらに眼前まで持ち上げ、より直接的に毒を浴びせられているにもかかわらず、苦しむ様子も、咳き込む様子すらもない。グラムをつまむ巨指の力加減さえもピクリとも変わらなかった。


「そ、そんなはずが……!」

 

 毒を浴びせ続けるグラムの意識の外から、その魔杖に向かって煌めく何かが迫る。

 白銀の光沢を放つもう片方の指先がグラムの武骨な魔杖の先端をぴたりと摘まんだ。


「は、離せ!」

 

 グラムが泡を食って魔杖を引くが、大地に根を張った大木を相手にしているように微動だにすることもなかった。

 毒霧の放出を強引に堰き止めた指先は逆に赤子の手を捻るかのような容易さでグラムから魔杖を取り上げてしまった。


 毒霧が晴れ、あらわになった巨人の二眼が冷徹な生物学者のようにグラムを見据え、昆虫標本にピンを指すように魔杖の石突を彼の胸に押し当てた。


 ――ブツリ。

 

 滝のような汗を垂らすグラムの外套の留め具が千切れ、風に舞い上げられた。

 

 ――ブチッ。ぱき。

 

 外套が取り払われて露わになった彼の装具を、巨人からすれば針のように細い魔杖を使い、針の穴を通すような精緻さで取り外し始めた。

 指先の彼を摘んだ花のようにくりくりと回しながら、肩に沿わせた予備の短魔杖、脇腹の暗器入れ、腰に付けたポーチと寸分の狂いもなく次々と剥ぎ取っていく。

 生身の肌にはただの一つも傷をつけずに、武装だけが彼の自尊心とともにバラバラと宙に散っていった。


 蒼白な顔でハクハクと口を動かしていたグラムを摘まんだまま、やがて巨人は片膝をついてその腕を下ろし始めた。


 グラムの足が地面に近づき、そこへ偵察隊が駆け寄ってくる。

 巨人は彼らを認めて一瞬動きを止めると、保護した迷子を親元に返すようにそっとグラムを彼らの前へ差し出した。


「拘束しろ!」


 巨人がグラムを離すと即座に部隊長が剣の切っ先を彼に向けて、部下へ指し示す。

 隊員たちが殺到し、愕然とするグラムを引き倒して拘束したが、同時に巨人が摘まみ持つ魔杖で部隊長の突き付ける剣をそっと抑えた。

 

「傷つけるな……ということか?」


 困惑する部隊長の言葉がグラムの耳に入ると、その顔が再び血色を取り戻し、むしろみるみる赤みを増していった。

 

「クソ!クソックソクソ!クソがぁッ!!」


 狩りの獲物であるはずの巨人にニ度までも、まるで幼子のように庇われ、グラムは白銀の巨人を睨み上げながら視界が赤く染まるほど暴れ狂った。

 

「殺してやる!この俺が殺し方を見つけて必ず――」「いい加減おとなしくしろってー」「ゴッ……」


 頭部を揺さぶる衝撃で言葉が途切れる。視界がぐらりと傾き、思い切り良く()を振り抜いた姿勢の隊員が目に入る。その更に向こうで片膝をつく巨人を、最後まで目に焼き付けるように睨みながら――


(次は……)

 

 彼の意識は闇に沈んだ。

お待たせしました!

左門寺三号でございます!

3話に渡る現地人視点もやっと締められました!

次回、第9話から主人公 銀と妖精 ニッケちゃん視点に戻ります

シリアスな空気が続いてたのでほのぼの展開に出来たらいいですなー


誤字報告もコメントも、もちろんブックマークもいつでもお待ちしております!


それではまた来週!

三つの誤解が、歴史になる

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