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ジオルフリード 〜無敵のスーパーロボット、異世界に降臨す〜  作者: 左門寺三号


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第9話 白い靄を抜けて

 ジオルフリードの頭部に次の火球が弾ける。


「どうだ?」


『いいわよ!』


「よし!」


 操縦桿を握る(ぎん) 峩弌(がいつ)はにわかに焦っていた。

 炎と煙で頭部メインカメラが覆われ、モニタの一部が赤く染まる。しかしジオルフリードの各部に取り付けられているサブカメラの映像は、足元で繰り広げられる切迫した状況を映し出していた。

 こちらへ向けて無骨な棒状のものを向ける攻撃者であろう男と、剣や槍を振りかざして走る武装した男たちがいる。その切っ先はジオルフリードではなく、火球を放った攻撃者の男へ向けられていた。

 なかでも先頭の剣士は人間離れした加速で、今まさに切りかからんとしている。


「間に合え!」


 あの合戦場から撤退してこっち、腫れ物に触るように神経を尖らせて繊細な操作を心掛けていた銀が、打って変わって素早く、そして大胆に手足を動かした。

 ニッケのおかげで、慣れ親しんだかつての操作感そのままに巨体が躍動する。

 兵士の剣が男の体に振り下ろされるより早く、白銀の二指が斬りかかられる男の胴体を挟み込み、引き上げる。


 銀はカメラ映像だけで感覚的に指先の圧力を調整した。それができるだけの経験を元の世界で積んできていた。


「……人間を指で摘まむなんて、ぞっとしないな」


『じゃあ離す?』


「まだ駄目だ」


 男を持ち上げた瞬間、その足元で何かが起動した。

 猛烈な上昇気流がジオルフリードの頭部へ向けて吹き上がってくる。

 攻撃者の男に迫っていた兵士たちは風に煽られ足を止めていた。


 いくら風が強くとも、単機で1編成の高速鉄道よりも重いジオルフリードが煽られるということはないが、指先の男の獰猛にむき出された歯を見て銀は警戒を強めた。


(仕掛けてくるのか……?)


 銀の予想に違わず、掴み上げた男が棒をこちらへ突き出し、その先端から、濛々と煙を噴出させた。


「煙幕か!?」

 

『《瘴煙の術》よ!』 

  

 気流に乗った霧は渦を巻き、ジオルフリードの頭部を完全に包み込んだ。


 再びメインカメラの映像が遮られる。

 目晦ましを仕掛けてきたということは追撃があるはず。


(機先を制する!)


 サブカメラから見やすいように男を摘まんだ腕を上げ、空いている右腕を操作する。

 火球や煙の共通の発生源である男の棒を正確に摘まみ取ると、漂っていた煙は次第に渦巻き晴れていった。


「ふう……」

 

 微かに残る煙を吹き散らすように銀がコックピットで息を吐いた。


『この人全身、魔具がいっぱーい。ハリネズミみたい』


「どれがそうだ?」 


『まずマントの下の左肩に短い杖でしょ、それから――』


 指先に摘まんでいる棒――「これも魔法の杖ってことか」と独り言ちて眺めるそれを使い、ニッケの指し示すところを順繰りに(あらた)めていく。


 下から見上げている兵士たちとこの男は追う追われるの関係らしいが、装備を見るに陣営を同じくするようだ。

 攻撃を受けた銀ではあるが、この世界の人間を傲慢に裁くつもりはない。丸腰にして引き渡しておくというのが無難だろう。


『すごい!ギン!器用ね!』


「オンボロ作業艇で深海工事するよりは簡単だ、よっと」


 初めのうちはニッケにノせられ軽快に作業していた銀だが、外されて降り積もる装備が山となり始めたころにはうんざりと青い顔になり始めていた。

 奇しくも装備を剥がす銀たち、剥がされる男、それを見守る兵士たちの三者がそれぞれ別の理由で青い顔をしていた。


「この武器の多さは……ジオルフリードも顔負けだな」


 ジオルフリードが片膝をつく。

 摘まんでいる男を地面に降ろそうとすると遠巻きにしていた兵士たちが駆け寄ってくるのが目に入った。


(ぴりぴり博士にのんびり博士!? いや、若い……他人の空似か)


 兵士たちの中に旧知の顔を見たような気がして一瞬手が止まったが、近く見ればはっきり別人と分かる彼らに向けて男をそっと手放した。


 先ほど驚異的な踏み込みを見せた剣士が、男を剣で指し示し、周りの兵士に指示を出している。実力的にも行動的にも彼が指揮官のようだ。


 ほとんど無抵抗で拘束された男に向けられる指揮官の剣を、右手に摘まんでいる()でそっと逸らす。指揮官は目を見開いてジオルフリードを見上げた。


「伝わるといいんだが……」

 

『「傷つけるなってこと?」だって』


 兵士たちの動向を見守っていた銀が驚いてニッケの顔へ振り向いた。

 

「そうか分かるのか!」


 ニッケ達、妖精(フェア)は空気を介した音ではなく、魔力を通じて意思を疎通する。ニッケに仲介してもらえれば言語の違う異世界の人々と銀も心を通わせ、味方になってもらえるかもしれない。


「ニッケ!君は最高だ!希望が持ててきた!」 


『えー?そんなー愛してるだなんてー照れちゃう……』


 手足を絡ませてくねくねするニッケを一瞥もせずに、友好的な接触への期待を込めて既に前へ向き直っていた銀の目に、指揮官らしき男が歩み出てきているのが見えた。拘束されていた男はモニターの生体反応からすると気絶しているようで、引き摺られて後ろに下げられていた。


 歩み出てきた男は片膝をつき、鞘に収めた剣を地面に捧げ置いてジオルフリードを見上げた。


「向こうも敵意はないみたいだな」


『うん、“銀色のデカい人、うちらはイシュタルクの兵隊、ケンカはしたくない、さっきのバカはマジでゴメン”だって』


「軽いな。イシュタルクっていうのは国か」


 おそらく意訳だろう。そうでなければこの世界はみんなニッケみたいな口調なのかもしれない。口調に関しては聞き流すことにした。


『確かハルドゥマって国とずぅっと戦争してるとこよ』


「あの戦場もそれか……」


 今はまだこの世界の情勢も分からない。否、分かったとしても、おそらくジオルフリードの力はこの世界にあって大きすぎる。どちらかの陣営に肩入れするつもりはない。

 とはいえ人間社会から逸脱したままでは、さしもの銀とジオルフリードでもじり貧となってしまう。できれば双方と良好な関係を築きたいのだ。

 

「こちらにも争う意思はない。戦場に現れたのも事故で、誰も傷つけるつもりはない。そう伝えられるか?」


『分かった!』


 ニッケがくるっと振った指先から意思を乗せた魔力がキラキラと光る粉のように飛んでいき、コックピットから装甲を通り抜けて指揮官の頭上に届くとパッと弾けて兵士たち全員に降り注いだ。

 兵士たちは雷に打たれたように目を見開くと、仰々しく平伏(ひれふ)し始めた。光の粉は指揮官の周りで漂い、やはりジオルフリードの装甲を通り抜けて戻ってくる。


「な、なんて伝えたんだ……?」


『そのまま伝えたわよ!“銀色の人、優しくてうれしい。えらい人にも伝えたい”だって』


 相手の態度は気になるが、ひとまず意思疎通には成功しているらしい。


「まあいいか、こちらは対話を望んでいると伝えてくれ」

 

『ほいほい、“うちらじゃ答えられないからえらい人に聞いてくる。ハルドゥマにも伝える”ってさ』


 戦争はしていても対話の窓口はあるのだろうか、再び行き来する光の粉が伝えた言葉を聞きながら、上意下達もしっかりしているようだし意外と進んでいるなと銀は思案した。


「そうだ、あの男を殺さないでくれ。俺は傷つけられていないし、裁くつもりもない、とも伝えてくれ」

 

()()()()、やっさしーい!えーっと“ちゃんと連れて帰って叱るね”だって』


 そうしてイシュタルクの兵士たちが、気絶した男を担いで引き上げていくと銀とニッケはようやく息を吐いて脚を延ばした。

 

「お疲れさま、何か飲むか?」


『甘いの!?』


「ああ、甘いのもあるよ」


 微笑ましい現金さに笑いを噛み殺しながら、元の世界では好き嫌いの分かれる炭酸飲料のボトルを取り出し、口を付けないように一口含んで渡した。


「そういえばさっきの男は合戦場でも急に気絶してたな……肝が太いのか細いのか……」


 慣れない炭酸飲料の刺激に悶絶するニッケの悲鳴をBGMに先程の男たちを思い浮かべる。


「煙幕の後になにがしかの切り札があったんだろうが、切らせずに済んでよかった」


『あれ、煙幕じゃないわよ!』


 ニッケはびくともしない銀の頭を蹴るのを止めて眼前に移動する。


「なんとかの術って言っていたな」


『《瘴煙の術》、ね。魔力を毒みたいにして吸わせる魔法よ!吸ったらほかの魔力(マーナ)と一緒に全身に回って体をボロボロにしちゃうのよ』


「恐ろしい魔法だ……な……」


 相槌を打ちながら銀の脳裏に先程の対話の様子が()ぎる。ニッケが意思を乗せて飛ばした魔力はなんの抵抗もなく壁を突き抜け兵士達との間を行き交っていた。


「ニッケ……魔力は壁じゃ遮れない……よな?」


『そうよー?魔力に形はないから……ハッ!?』


 指を立てて講釈しようとしたニッケもあることに気づいて顔を青ざめさせた。


 いくらジオルフリードの装甲が堅く厚かろうと、魔力(マーナ)はそれを容易く透過してしまう。コックピットのある頭部を覆い尽くし、装甲を透過した魔力の毒が銀達を侵さなかったのは、たまたまニッケの魔力操作によってジオルフリードの周囲の魔力が胸部の輝孔炉へと吸い込まれていく()()ができていたからであった。


コックピット内に、重たい沈黙が流れる。


「……ハッハッハッハッ」――カシュッ――


『アハ……アハハ』――ギュッ――


 急速に乾いていく喉に、二人同時に炭酸飲料を一息で流し込んだ。


「『危なかったー!!』」


『……アタシ、もしかして、すっごいえらかった?』


「ああ……、命の恩人だ!」


今回もお読みいただきありがとうございます

左門寺三号でございます


早いものでGWから投稿し始めました当作品も1ヶ月を経過し、この話で10エピソード目となりました。

じわじわと目に留めていただく方も増えてまいりまして作者も小躍りしております


さて、今回の久しぶりの主人公視点、いかがだったでしょうか

エピソードタイトルを付けるのに500文字分ぐらい時間が掛かってしまいましたが、おかげで満足の行くものを付けることができました!

皆さんもぜひ元ネタを探してみてください


それではまた第10話でお会いしましょう

さあ、みんなで、ヘッドオン!

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