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ジオルフリード 〜無敵のスーパーロボット、異世界に降臨す〜  作者: 左門寺三号


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第1話 無敵のスーパーロボット、異世界の戦地に立つ

 ――音が、戻ってきた。

 (ぎん) 峩弌(がいつ)の耳にまず飛び込んできたのは風を切る音だった。

 

「……生きて……る?」

 

 視界いっぱいに広がるのは、見知らぬ空。輝く青、晴天よりも明るい天球には、磨りガラス越しのように滲んだ恒星であろう二つの光点が張り付いている。

 戦いの終わりに見た、目に焼きつくような夕日とは対照的だった。


「ここは……?」

 

 目のかすみを追い払うように頭を振り、カメラを動かすと映し出されたのは見慣れぬ大地だった。

 残骸散らばる焦土ではない。だが美しくもない、赤褐色に踏み荒らされた平原。

 そこに敷かれた絨毯のような鈍色の塊たち。

 

「……人……か?まずい!!」


 絨毯はだんだんと広さを増すことで接近を知らせ、銀に自身の落下を教えていた。

 絨毯の目が荒くなったことでそれらが武装した兵士たちで織りなされた隊列であることが視認できた。

 

「スカイバインダー展開!! 飛べるか……!?」

 

 ジオルフリードの背部機構が解放され円刃(チャクラム)状の翼が広がり、銀が踏み込むペダルに合わせて青白い光を発する。


「上がれぇぇぇッ!!」

 

 操縦桿を目いっぱいに引き、ペダルを踏みしめるフルスロットルの瞬間、ジオルフリードの背後で青白い光が爆ぜた。

 その場で拡大されつつあった景色が打ち出されるように後方へ流れ去る。

 

「ぐっ……!」

 

 体がシートに叩きつけられる。

 慣性が肺を締め上げ、視界が一瞬白飛びした。

 浮遊感はない。代わりに前方へ、背部を巨大な何かに殴り飛ばされたかのような加速感。

 

「推進……だけ、か……!」

 

 輝孔子エネルギーの奔流が、光輪と化したスカイバインダーから吹き出し、機体を前へ押し出す。

 重力子により空を掴み、輝孔子によって宙を駆けるジオルフリードのマッハ4を誇る機動力が発揮される。

 だが本来あるべき()()()()()がない。


 モニターに迫る隊列。

 兵士たちひとりひとりの顔までが見える距離、叫び声まで聞こえてきそうだった。

 

「こなくそっ……!!」

 

 銀は咄嗟に操縦桿を左へ切った。

 スカイバインダーが応じ、推進方向がずれる。

 白銀の線が空中を斜めに引き裂き、ジオルフリードの巨体が意匠の違う二軍の間をかすめるように通過した。

 ――轟音。

 激しい衝撃波が後方に広がり、兵士たちが地面に投げ出されるのが一瞬だけ視界に入る。

 機体は与えられた運動エネルギーに逆らえず、減速ができない。

 地面が迫る。


「ぐおおぉぉぉっ!!」

 

 無理な制動で巨躯を無茶苦茶に投げ出したジオルフリードだったが、銀の熟練し半ば反射めいた操作により巨腕が大地を殴りつけると赤褐色の土砂が爆発的に巻き上がる。反動で姿勢を整えると、何とか足裏での接地に成功する。

 装甲が地面を削り、重たい音とともにジオルフリードはようやく停止した。

 

 砂塵の中。

 視界は茶色に染まり、しばらく何も見えない。

 

「……っ、はぁ……はぁ……」

 

 銀は操縦桿を握ったまま、荒い息をついた。

 

「……まだ生きてるな。よし」

 

 機体は動く。

 計器を見る。

 損傷多数。

 その中でも、Dr.ヴァルガとの長きにわたる戦いで多くの警告画面を見てきた銀をしても、見たことのない表示に首をひねる。


「輝孔炉が完全停止……?動くぞ……?」


 無敵のスーパーロボットといえど機械である以上、動力源である輝孔炉の停止は致命的なはず。

 にもかかわらず膝立ちの姿勢で着地した機体は稼働し、背部のスカイバインダーはなおも青白く不安定な光を放っている。


 「モニターの故障……?いや、考えるのはあとか」

 

 吹かしていないはずのスカイバインダーから喘鳴のように不安定に発せられる推進力により砂塵が後方へ流れ、周囲の光景が見え始める。

 衝撃に投げ出され尻もちをついたままの者、遠くで起き上がりこちらを見つめる者。

 その視線には恐怖と混乱が混じっている。

 

「……犠牲は……ない、か」

 

 ジオルフリードがゆっくりとした動作で立ち上がり周囲を見渡す。

 兵とともに投げ出された剣や槍、盾が転がっている。

 叫び声。

 緊張と恐怖で錯乱した一人が棒状の何かを振りかざした瞬間、尾を引く炎が飛来する。

 ジオルフリードの装甲上で爆ぜて煙を上げるが、薄く積もった土を吹き散らすだけで焦げ一つ付くことはなかった。

 

「重火器か……?」

 

 超重力で鍛えられたジオル鋼の装甲は携行兵器程度の火力で傷つくことはない。

 そのまま様子を見ようかと思った銀であったが、スカイバインダーが光を放って咳のように吹き出したため覗き込むような姿勢で機体が傾いでしまう。

 慌てて制御できないスカイバインダーを格納した時には、先程の射撃手は気絶していた。


 改めて周囲を見ると自身が映画の中にでも放り込まれたように感じる。

 目のかすみのせいかと思われた明るくぼやけた空は意識のはっきりした今でも変わることはなく、2つの太陽はお互いの光芒を8の字に絡ませていた。

 地上には叩き上げた金属そのものといった様子の鎧をまとった兵士達がジオルフリードの首の向きにあわせて、風にそよぐ草原のように動揺していた。

 乱れてはいてもその隊列は戦国映画の合戦シーンのようだった。


(どう見ても地球じゃあないが……さて……)


 Dr.ヴァルガとの死闘からあまりの展開の目まぐるしさに、銀はお手上げといった心境だったが、ひとまず戦闘の意思は無いことを伝えようとジオルフリードの手を上げるではなく広げる。

 殆どの武装が内蔵式のためその動作は丸腰である証明にはならないが、何もしないよりはマシに思われたのだ。

 両軍がジオルフリードを見上げたまま同時に動揺する中、ジオルフリードの左腕の暗く大きい影に一部隊が入る。それに混じる象の様な体躯の生き物が乗り手を振り落として走り出した。

 分厚く堅そうな毛皮に覆われた巌のような筋肉が躍動し、長く湾曲した角を振り乱しながら、咆哮を上げて無軌道に駆ける。

 乗り手が脱落してしまった以上、止められる者はいない。

 気づいた右手の部隊が慌てて矢を番えるのが見える。

 弦が引き絞られ無数の鏃が一斉に向けられるが、矢であの生き物の突進を止めることはできないだろう。

 

「――待て!!」

 

 かといってこのまま矢が放たれれば開戦のきっかけになってしまう。

 人類間の戦争が絶えて久しい世界で人生を歩んできた銀にも、巨獣が歩兵を蹴散らし、矢の雨が降り注ぐ光景は容易に想像ができた。


「やめるんだ!!」

 

 とっさに両者の間へ一歩を踏み出し、ジオルフリードの右掌を壁にするように振り下ろした。

 影が落ちる。

 

 ――ドゴンッ。

 

 両軍の中央。

 振り下ろされた一撃は、想定を遥かに超える出力で大地を打つ。

 赤褐色の大地が悲鳴を上げ、震源地を中心に地表がまるでフォークを突き立てられたパイ生地のようにめくれ上がり、放射状に亀裂が走る。

 衝撃が再び土砂を巻き上げ、暴走する巨獣は悲鳴とともに前脚を取られて転倒した。

 同時に、矢を放とうとしていた右軍も振動にバランスを崩し、まともに矢を放てる姿勢を保てた者はいなかった。

 

 パラパラと、ささくれ立った土くれの崩れ落ちる音だけが、時が止まったような静寂の中で控えめにその流れを主張をしていた。


「なん、だ……この出力は……」

 

 その場の全員があっけにとられていた。

 この局所的な大地震を引き起こした銀自身もである。

 

 遅れて、ざわめきが広がる。

 兵士たちの手から、がらんがらんと武器が取り落とされる。

 まるで誰もが戦いの無益さ、平和の素晴らしさを悟ったかのようだった。

 

 ジオルフリードが右手を引き立ち上がると、小規模な地割れのように掌の跡がくっきりと残っていた。

 

 驚愕が立ち退いた感情の空隙に恐怖が注ぎ込まれるように人々へ伝播し、やがて恐慌になる。

 左軍と右軍、どちらともなく列が乱れ始め、兵卒が我先にと平原から逃げ出していく。

 敵意も秩序もない。 ただ、生き残るための逃走だった。

 

 銀は操縦席で息を吐いた。


 平原に整然と敷き詰められていた鈍色の絨毯は完全にほつれきり、その場に残るのは暴威に絶望したのかうずくまってしまった者たちとジオルフリードだけであった。

 

(……ここにはいられないな)

 

 銀は即座に決断した。

 

「撤退する」

 

 ジオルフリードは赤土を踏みしめ、体の向きを変える。

 遠く、平原の先に森が見える。

 濃い緑が連なる、視界を遮るだけの深さを持つ場所。

 銀はそちらへと機体を向けた。

 ジオルフリードは戦場を後にし、足取り重く進んでいった。

 

 平原には、裂けた大地と、空から降ってきた白銀の巨人の記憶だけが残された。

毎日投稿したい、プロローグと第1話は間をおかずに投稿したい、最終日用の話が書き終わっておらず初日にプロローグ&1話をすると話数が足りない

これらの葛藤を解決するための苦肉の策がこのタイミングでの第1話投稿になりました!

すでにプロローグを読んでくれた20人ぐらいの皆さん!一気読みさせられなくてごめんなさい!!

次回は5/4投稿予定です

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