~プロローグ~ ラストバトル!!Dr.ヴァルガ最後の決戦!!
「終わりだ!Dr.ヴァルガ!」
絶海の孤島に広がるのはこの世の終わりのような光景だった。
乏しいながらも所々でたくましく草木が根を張っていた大地はいまや黒く焼け焦げ、燃えるような夕日が粉々になった機械竜軍団のおびただしい残骸を赤く照らし出していた。
瓦礫と煙の渦巻く決戦の地で全身隈なく傷つきながらも原型を保ち、なおも立ち続けている唯一の人型からパイロットの決然とした宣告が響き渡った。
『おォのれジオルフリード!おのれ銀 峩弌!よくもわしのかわいいドラゴンたちをォ……!』
片や夕日を背負いなおも聳え立つ唯一の巨竜、移動研究要塞機械竜ニーズヘッグからは怒りと憎悪に捻じれた怨嗟の声が響いてくる。
ニーズヘッグも悠然と宙を舞っていたかつての威容は見る影もなく、翼は折れ荒地に擱座し、鎌首のようなその舳先は断末魔の軋みを漏らしてジオルフリードを見下ろしていた。
『終わりだとォ!? それは貴様の方だ!!』
黒煙を発し、もはや崩壊を待つばかりかに思われたニーズヘッグを中心に周囲の景色が歪みはじめた。
巨竜の胸部に格納された動力炉が、まるで巨大な心臓が鼓動するように不気味な脈動を強めていく。生み出された莫大なエネルギーが行き場を失い、血のように赤い光がひび割れた装甲の隙間から漏れ出した。
空気が震え、夕日の残光までも吸い込まれるかのように波打つ。機械の竜たちの骸がふわりと浮かび上がり、重力そのものが狂い始めているのが銀にも分かった。
「行くぞ!! ジオルフリード!!」
息吹を溜める巨竜と相対する巨人も最後の力をその身に滾らせる。
はるかに巨大なニーズヘッグの重力炉と競うように振動を高めたジオルフリードの輝孔炉が巨竜の早鐘を追い越し、もはや振動はひとつながりの高音に変わる。
「輝孔出力飽和!」
炉内に開けられた空間の穴からもたらされる青白い輝きを放つ輝孔子エネルギーが張り詰め、出口を求め金切り声を上げる。
巨人の指が胸の前の虚空に掛けられ、出口をこじ開けるように左右へ引かれている。
『死ねい!銀 峩弌!!』
ニーズヘッグのドラゴンを模した口腔に灯る赤いエネルギーがその中央で光すらも漏らさない黒く暗い力場を生み出し、周囲で荒れ狂う大気が生き物の唸り声のように振動する。
「空間開放!」
巨人の腕が左右に開かれていくと、指向性を持たされたエネルギーがジオルフリードの輝孔炉と削れ傷ついた胸部装甲が存在する空間を歪め経路を形成することで前方に青白い回廊を出現させる。
『重力子砲ォドラゴンロア発射!!』
赤黒く淀んだ貪欲な巨竜の咆哮、圧縮された質量の申し子たちが景色さえも喰らい、引き裂き、吐き出される。
「ジオル!! ブレイザー!!」
咆哮と同時に腕が引き拡げられ、輝度を増した青の回廊を迸るのは輝孔子エネルギーの奔流そのもの。
輝孔炉という限定空間の軛から解き放たれた人知を超えた力が進路に存在する物質を空間ごと押しのけて突き進む。
――カッ――
すべてを飲み込む闇の濁流と無尽蔵に噴き出す光の奔流が正面から激突し世界を揺るがせた。
衝突点を中心に、空間が悲鳴を上げて歪む。
相反する性質の両者が互いを否定し合い、押しも引かれもしない。
はるかに巨大なニーズヘッグの重力炉も数多の機械竜を打倒してきたジオルフリードの輝孔炉の出力に競り勝てず、時間の止まったような均衡の間もその巨躯の崩壊は落ちる砂時計の砂のように時を刻み続けていた。
出力では伯仲している両者だったが、不倒の巨人に対して巨竜の命運の砂が落ちきり破綻の瞬間が訪れるのはもはや時間の問題だった。
――拮抗していた2つの奔流の赤黒が、次の瞬間、やにわに歪む。
かたや押し潰し、かたや押しのけ、均衡が崩れれば弾き飛ばされるはずの力が絡みついた。
「……何っ!?」
銀の目に、あり得ない現象が映る。
弾かれるでもなく押し返されるでもなく、赤黒い重力の濁流が青白い輝孔子の奔流に喰らいついている。
『く……くく……ははははは……!』
ニーズヘッグから響く声は、もはや怒りではなかった。
敗北を悟った者の、歪んだ歓喜。
『そうだ……それでいい……やはりそうだ……!』
「……何をした、ヴァルガ!」
銀が叫ぶ。
しかし返ってきたのは、勝者でも敗者でもない、ただの科学者の声だった。
『貴様の輝孔炉……見事だ。実に見事だ、ジオルフリード』
ひび割れた装甲の奥で、重力炉が狂ったように脈打つ。
『重力を操り、空間を歪め、穴を開ける……わしの理論の延長線……そしてその穴から取り出される謎のエネルギー……嶺壱め、得体の知れんものを……』
「……!」
『だがな』
低く、静かな声。
『同じ理に立つ以上――干渉は可能だ』
その瞬間。
青白の回廊が拡張した。
銀がジオルフリードの出力を上げたのではない。
重力子がジオルフリードの展開した回廊へと潜り込み、その先の輝ける孔に絡みつき、押し広げる。
「輝孔への供給が増大している……!?」
輝孔炉の制御下にあるはずの奔流が、外側から歪められていく。
回廊の縁が軋み、裂け、広がる。
『ははははは!! やはりだ!! やはり干渉できる!!』
ニーズヘッグの巨体が軋む。
だがその崩壊すら意に介さず、重力炉の出力はさらに引き上げられる。
『貴様が開くならば、わしはそォれを手助けしてやろうというのだ!!』
輝孔炉が開いた空間の穴――それは本来、銀とジオルフリードが制御するエネルギーの取り出し口のはずだった。
だが今、その縁に赤黒い力が侵入し、無理やりに押し広げている。
「やめろ……!」
ニーズヘッグの装甲が剥がれ落ち、内部の重力炉が露出する。
もはや守る理由すらないとばかりに、制御を捨てて全出力が解放されていた。
「それ以上やれば、お前も――!」
『分かっておる』
即答だった。
そこに躊躇は一切ない。
無理矢理に出力の上げられた光線の余波に炙られながら、Dr.ヴァルガは静かに告げた。
『わしは敗けた。認めよう……この戦い、貴様の勝ちだ』
その言葉に銀は一瞬息をのんだ。
これまでの戦い、ただの一度も諦めなかった執念の男の初めての敗北宣言だった。
『だが』
次の言葉に、狂気はなかった。
ただ、変わらぬ執念だけがあった。
『わが無敵の竜が貴様を殺す!!』
ニーズヘッグの心臓が限界を迎える。
圧縮された質量が臨界を超え、制御を逸脱し暴走する。
それはもはや攻撃ではない。
ただの破局であった。
『貴様の輝孔炉……その穴……』
竜の咆哮が回廊に木霊し、その先の扉、輝孔を押し開く。
『こじ開けてやる……制御も何もかも……!』
「くっ……!! 機関が停止できない……!!」
動力炉の振動は甲高い悲鳴のようになり、青白い光が制御限界を突破して溢れ出す。
敵を穿つ一直線の回廊は輪郭を失い、孔へと変わる。
音もなく、ただ静かに。
世界の一部が抜け落ちる。
「……巨大な輝孔……?」
銀の声が、かすれる。
その孔はひたすらに拡大し周囲を飲み込んでいく。
飲み込まれたものがどうなるのか、その答えを知る者は誰もいなかった。
『はは……ははは……!』
ヴァルガが笑う。
その笑いに、もはや意味はない。
『どォうだ銀 峩弌……!逃げ場などないぞォ……!』
ニーズヘッグの巨体ももはや残骸となり果てていく。
装甲が剥がれ、構造が歪み、制御を失った重力炉が内部から自身の体を引き裂く。
『確かに終わりだったな……貴様もォ、わしも……』
「くそっ……!」
大地が、瓦礫が、すべてが孔へと落ち込んでいく。
ただただ広がり続ける輝孔は吐き出される粒子と引き換えにすべてを飲み込んでいく。
『道連れだ……銀 峩弌!!』
莫大な重力子を絶えず注ぎ込まれ胸元で膨らみ続ける輝孔にジオルフリードの巨体も取り込まれていく。
機体の警告音はすでに止み、視界は光に埋め尽くされ、もはやあらゆる計器が沈黙していた。
だが、それでも。
「……まだだ」
銀は操縦桿を握りしめ、フットペダルを踏みしめた。
「諦めてたまるか……!!」
巨大な輝孔からあふれ出る光の粒子たちが人知れずジオルフリードの周囲に渦巻いていた。
青白く温かい光が、機体を包み込む。
「頼むジオルフリード……!!」
『先にいって待っておれ!! わしも――』
次の瞬間。
その不思議な光ごと、巨体は完全に光の中に飲み込まれた。
視界が白く弾け、
音が消える。
その孔に落ちたものがどうなるのか――
知る者は、誰もいない。
ただ一つ確かなのは、
銀とジオルフリードは、
この世界から――消えた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
皆様はじめまして。サモンジサンゴウと申します。
本作品はタイトルの通り「スーパーロボットモノ」×「異世界転移モノ」の物語となり、今回はそのプロローグでございます。
ゴールデンウィーク中は毎日投稿したいと思っておりますので毎日覗いてくださるもヨシ、最終日にまとめて読んでいただくもヨシ、お好きなようにご覧くださいませ。
処女作のため拙い部分もあるかとは思いますが、お付き合いいただけますと幸いです。




