番外編3 メロディー×クロード
「メロディーはいい子ね」
「メロディーはあんな風に育ってはダメよ」
「メロディーは私たちの言うことを聞いてくれるわよね?」
私は子爵家の末っ子で、上には兄が二人いる。
八つ上と五つ上の兄は、そうそうにグレてしまって私の両親は頭を抱えていた。
そんな状況だからこそ、両親からの期待は私に集まってしまっていたのだ。
両親の期待に応えること、そのために頑張ってきた私。
そのうち兄達も落ち着いてきて、私が学園に入学する頃には過剰な期待は無くなっていった。けれどもいい子でいよう、親の言う通りに動こうと思う癖はもう抜けなかった。
そんな私はセレナのような自由に生きている人が内心うらやましかった……
そして学園に入って十か月ほど経った頃、三人で下町のお祭りへ行くことになる。
今までは両親に付き添われて行っていたけれど、学園に入ったから友達と行こうと考えていたのだ。
しかし、当日はクロード様と二人で行くこととなった。
お祭りの日から三日ほど前に、サイラス様がわざわざ私たちのもとに訪ねてきて、セレナを譲ってほしいと言ったからだ。
親にダメと言われたため恋愛ものの本や劇を見てこなかった私は、セレナとサイラス様のような恋に憧れていた……
「メロディー、結婚おめでとう!」
「来てくれてありがとうセレナ。体の調子は大丈夫?」
「平気よ! 大切な友達の結婚式だもの。絶対に出席しなきゃ」
「もし体調が悪くなったらすぐに言ってね、あなた一人の体じゃないんだから」
「ふふ、心配してくれてありがとう」
今日は私の結婚式の日。
学園の頃の友達が、私を祝いに集まってきてくれた。
セレナも、身重の体ではあるが来てくれたのだ。
「会場が青いバラで一杯ね、メロディーったら愛されているじゃない!」
「セレナには及ばないわ」
私が笑うと、彼女も眉をハの字にして笑った。
「セリー? どこにいるんだい?」
サイラス様がやってきて、セレナをぎゅっと抱きしめる。
「良かった、挨拶に来ていたんだね。どこかで男の人に声をかけられていたらどうしようかと思った……」
「サイったら! 私たちもう結婚しているんだからそんなことあるわけないでしょう?」
「それでも心配なんだよ。セリーはいつだって可愛いから」
言い合っている二人を生ぬるい視線で見つめる。
サイラス様からは先に挨拶をしてもらっていたので、二人はそのまま結婚式会場へと寄り添って戻っていった。
手をつないでいる二人をみて、私も新郎と初めて手をつないだ日を思い出す。
それは丁度、彼と二人で下町のお祭りに行くことになった時。
恋愛ものを禁止されていた私は、そのお祭りの時初めて恋愛劇を見た。
最初はこんなものを見てよいのかと不安だったけれど、クロードが私の手を引いて連れて行ってくれた。
後で聞いたところ、普段の私を見ていたクロードは、絶対私は恋愛劇にはまると確信していたそうだ。
だからこそ、少し無理やりにでも連れて行ったのだと話してくれた。
「何を考えているんですか、これから僕との結婚式でしょう? 他のことを考えているのは少し悲しいな……なんて」
クロードは私の顔を覗いてにっこりと笑った。
タキシードを着て、私の頬を手で包む彼は、まるで絵本の中の王子様のようだった。
「ごめんね、なんだかあなたとの思い出がよみがえってきちゃって、懐かしくなっていたの」
「……奇遇ですね、僕も思い返していました。あなたの横顔に惚れてしまった時のことを」
「え、何その話!」
「言ったことありませんでしたか?」
「聞いたことない!……気になるなぁ」
私が聞かせてほしいとおねだりすると、彼は少し顔を赤らめながらも話してくれた。
「下町のお祭りで、恋愛劇を見に行ったのは覚えていますか?」
「えぇ、勿論」
「その時、夢中で劇をみて満面の笑みを浮かべている、あなたのその笑顔を守りたいと思ったんですよ。普段のあなたは、どこか笑顔に影があるように見えて……だから、あなたが本当にやりたいことをできるような手助けをしたいなと、そしてその時の笑顔を一番近くで見ていたいなと思ったんですよ。これが、僕があなたに惚れてしまった理由です……なんだか恥ずかしいですね」
照れくささをごまかすように笑ったクロードを見て、なんだか胸が暖かくなる。
彼がいつだって私の本当の気持ちを汲み取ってくれたのは、そういうことだったのかと理解する。
「僕だけ話すのは不公平ですよね? あなたがどうして僕のことを好きになってくれたのか教えてくれますか?」
腕を組み、ゆったりと首をかしげるクロードからは、どこからか高貴な感じが漂ってくる。
「それは……私の知らない世界、私の見てみたい世界をあなたが見せてくれたから。両親の呪縛から解放してくれたのはクロードだから……」
だから好きになったんだ、という言葉は恥ずかしくて尻すぼみになってしまう。
でもちゃんと伝わっていたようで、クロードは笑ってくれた。
「これからも僕にいろんな表情を見せてほしいです。そのためなら僕はなんだって出来てしまいそうな気がします」
「えーじゃあ、サイラス様のセレナに対する態度と同じくらい、私にフランクに接してくれる? なんていうか……もう少し距離感を近くしたいなっていうか……」
恋愛劇を見るようになって、私は王子様とお姫様のような恋愛に憧れるようになった。
クロードは多分それをわかっていて、私に対して紳士的な態度をとってくれている。
でも、クロードのことが好きだと自覚してからは、もう少し……
「それは、僕はもうあなたの王子様役ではなくて……僕でいてよいという意味ですか?」
「……そういうこと、変に私に気を遣わなくていいの。王子様には憧れていたけれど、それよりもクロードのことが好きだから」
今度はちゃんと好きと言えた。
そう思った瞬間、私はなぜか抱き上げられていた。
「メロディー、愛しています。誰よりも」
「私もだよクロード」
実は王子様みたいって言われるのは子供の頃からで、演じているわけではないんですよね、とこっそり言われたのはその後の話だ。
気が向いたらまた続きを書くかもしれませんが、これにて終了となります。
読んでくださりありがとうございました!




