番外編2 ペネロペ×スチュアート
初めて彼と出会ったのは、私が九歳、彼が十九歳のころだった。
それも、ただ廊下ですれ違って挨拶をしただけ。
「おや、今日は学生とちびっ子たちが表彰される日だったか。君たちもよく頑張っているんだね」
そういって彼の一番近くにいたセレナの頭をなでる。
私はこの謎のイケメンが誰なのか全くわからなかった。
ただ、セレナとの距離を詰めるやつらは皆警戒しなくてはならない。
セレナの前に少しかばうように進み出て、カーテシーをする。
「……私はペネロペ・リンジーと申します。あなたはどなたですか?」
私の声に緊張が含まれていることに気が付いたのだろう。
彼は少し驚いたような顔をした後、にっこりと笑った。
「私としたことが、名乗るのを忘れていたね。スチュアート・ランカスターだ。以後お見知りおきを」
私たちに向かってきれいな会釈をする。
スチュアート・ランカスターといえば、社交界に全く顔を出さない王弟のことではないか!
噂では、顔が醜いだとか、常識がなっていないだとか、殺人の趣味があるだとかいろいろ言われているが、目の前の彼からはそのような感じはしなかった。
まぁ、安易にセレナにボディータッチをしてくるあたり、油断はできないのかもしれない。
「サイラス・ハンプシャーです」
「セレナ・リンジーです」
二人がそれぞれお辞儀をすると、またねと言ってスチュアート殿下は奥の方へ歩いて行った。
私はそれから、なぜだか彼のことが頭から離れなかった。
何だか不思議な気持ちになったのだ。
セレナじゃなくて私をなでてくれたらよかったのに……?
なんだか私が私じゃないみたいだ。
考え事をしているせいか、セレナに心配をかけてしまう。
それなら一人で散歩でもしようと、セレナをサイラスに預けることにした。
散歩をしている。
そういう名目だったけれど私の足は確実に、さっき殿下が消えていった方に向かっていた。
◇◇◇
「さっきからそこで何をしているんだい?」
迷子になりかけてしまっているし、サイラスとセレナのところへ戻ろうかと思った時、ふいに声をかけられた。
スチュアート殿下だ。
私はこのもやもやした気持ちは何なのだろうと、じっと彼の目を見つめて考える。
「……」
「警戒しているのかい? なかなかこんな反応されたことはないから困ったな……」
「あ、いえ違います。セレナに手を出さなければ私は何も危害は加えません」
私がそう言うと、なぜか殿下は笑い出した。
「ははっ! 君たちの姉妹愛は美しいね。そういうのとっても素敵だと思うよ」
笑ってはいるけれど、いたって真面目に話しているようだ。
セレナとの仲をこんな風に褒められるなんて……うれしい。
胸がポカポカしてきたような気がする。
「ありがとうございます。私の大切な、大好きな妹なので、そういう風に言ってもらえると嬉しいです」
「いい話だ。……さぁお嬢さん、迷子なんでしょう? 道がわかるところまで連れていくよ」
私の視線の高さに合わせてしゃがみ、手を差し伸べてくれる。
そして、彼と目が合った瞬間私は気が付いた。
私、彼のこと好きなんだ。
最初に会った時には一目ぼれをしていた。
その後私とセレナの姉妹愛をほめてくれて、さらに好きになったのだ。
「……ありがとうございます」
手をつないで一緒に歩きながら、話をする。
「君みたいな子は珍しいな。私はほら、評判はひどいけど実際はそうでもないからか、知り合ったばかりの女性に迫られることが多くてね……あんなに警戒の目を向けられるのは初めてだよ」
「確かに、社交界ではさんざんな言われようですよねスチュアート殿下」
「まぁしょうがないよね、社交界には出たことないから……今更出たらみんなすごい勢いで食いつくんだろうな。その点君は、食いついてこないから話しやすいよ」
「はは……そうですか」
これは……想いを伝えたら間違いなく嫌われてしまうじゃないか。
私の初恋は、初日で叶わない恋になってしまった。
「私も9歳の子に何を話しているんだかね。さて、ここまでくればあとは一人で帰れるかい?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
「また縁があったら会おうね、ばいばいお嬢さん」
◇◇◇
「ペネロペ? そろそろ起きた方がいいんじゃないかな?」
「……スチュアート殿下?」
「こら、ステューって呼んでって言ったでしょう?」
彼は私の頬に軽くキスすると、テーブルからコーヒーを持ってきてくれた。
私と言えば、その軽いキスだけで目がさえてしまった。
「おはよう、目は覚めたみたいだね」
「……おはようステュ―、今あなたと出会った頃の夢を見ていたからつい昔の呼び方を使ってしまったわ」
「出会った頃か……その時はペネロペと結婚するなんて思ってもいなかったな」
「でしょうね……私、あなたに『自分に食いついてこないから話しやすい』とか言われちゃったから、初恋を自覚してからすぐ失恋するはめになったのよ」
「でも、あきらめずに私のところへ来てくれただろう?」
「う……」
結局好きを自覚してしまった私は、何かと理由をつけて殿下のもとに通っていた。
それでも10歳も年下の私が恋愛対象に入っている気がしなかったし、何よりも彼がなぜ社交界に出ていないのかの理由を聞いてしまった私には、アタックすることなんてできなかった。
「そういえば、どうしてステュ―は結婚をしたいと思ったの? それまで勢力争いが面倒くさいから独り身でいるって宣言していたじゃない」
「それは……サイラスをみていたからかな。ペネロペが何回も会いに来てくれるうちに、僕はだんだん話の合う君に惹かれていったんだ。でも、それこそ年の差があるし、勢力争いの話もあるから、好きと言う気はなかった。ただ……」
「ただ?」
「サイラスがセレナ嬢を誰にもとられたくないんだと話しているのを聞いているうちに、私もペネロペに対してそう思うようになってしまってね。それなら、頑張るしかないと思ったんだ。だから、クラーク公爵の件について協力した。」
私とペネロペが婚約したら、クラーク公爵が黙っていなかっただろうし、と付け加える。
私は、その話よりも、「誰にも取られたくない」と言う言葉が引っかかっていた。
「誰にも取られたくないって、それは……もし私が誰かほかの男性と仲良くしていたら、ステュ―は嫉妬してくれるってことかしら?」
私がそう聞くと、珍しくステュ―は顔を真っ赤にしてうつむいた。
「……そうだよ。私は今まで周りの人なんてどうでも良かったんだ。でも、ペネロペに会って初めて人に興味を持てたんだ。だから、そんな君を他の人に取られるのは……ヤダ」
「ヤダって……かわいすぎてだきしめたくなってきたわ」
「抱きしめてくれるかい?」
「えぇ」
10歳年上の夫は、どうやら私にベタ惚れで可愛い。
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ラスト一話はメロディー×クロードで、セレナたちも出てくる予定です。




