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22/25

22,婚約の儀

「それではただいまより婚約の儀を執り行います。卒業パーティー中ではありますが、壇上に目を向けて頂ければと思います」


あの日の続きが、今日行われる。

卒業生も在校生も、貴族も王族も一堂に会し、いよいよ卒業式を済ませた令息たちがプロポーズするのだ。


乙女ゲームで見たままの会場アナウンスに、ドキドキしてしまう私がいる。


結局、私に毒を飲ませたクラーク公爵は身分をとりあげられることになった。

サイやお姉様はそんな甘い罰は許さないと息巻いていたが、私が止めたのだ。

だって、私のせいで誰かが死罪になるなんて気分が悪い。

それを回避しようと頑張っていた私目線からすれば猶更だった。


何より驚いたのは、実は公爵が狙っていたのは私だったということ。

なぜかというと……サイと私が結婚したら困るからだと、お姉様とスチュアート殿下が事件の詳細を教えてくれたときに言っていた。


私とサイが結婚なんて……


そこまで考えて顔に熱が集まるのがわかる。


あとでもう一度スチュアート殿下にもお礼を言わなくては。

サイとお姉様が私をずっと守ってくれたことに加え、スチュアート殿下もかなり協力してくれたそうなのだ。


いつの間にか、サイもお姉様もスチュアート殿下と仲良くなっていたらしく、私はちょっと寂しかったけれど……


「セレナ、何考えてるの? ちなみに私はセレナがお嫁に行っちゃうのが悲しいなって思っているところよ」


「もう、お姉様ったら!」


「ほら見てよセレナ。ペネロペ様もです! 一人目出てきましたよ!」


婚約の儀がいよいよ始まったようで、令息が意中の令嬢にバラの花束を渡しているシーンを見て、メロディーがキャッキャと騒いでいる。


「私、もらうなら青色のバラがいいなぁ……」


「ふふ、もらえるといいね」


「もらうに決まっているでしょう? あと二年で誰かしら落として見せるわ!」


やる気満々なメロディーのことをちらっと見ている人がいるのに気づく。

また壇上を食いつくように眺め始めたメロディーを置いて、その視線を送っていた人物のもとへと向かう。


「だってよ、クロード様」


「え、な、なにがですか? 別に青いバラを今から用意しなくてはなんて考えてませんよ?」


自分で言っちゃってるクロード様は、どうやらメロディーにべたぼれらしい。

なんか下町のお祭りに行った後あたりから、雰囲気違うなって思っていたんだよね。


メロディー、意外と近くにお相手がいるかもね!


にやにやしたまままたお姉様の隣に戻って、壇上で行われているプロポーズを眺める。

同じ身分の人もいれば、平民が呼ばれていたり……振られて号泣している人は、さすがに少し可哀そうだなと思った。


そして式が進むにつれて私も緊張してきた。


この間私とサイは確かに愛を確かめ合った。

けれど、結局私が目覚めたあの日以来、一週間直接会うことはなかった。

サイは事件の処理で忙しかったらしい。

それでも、毎日胸やけのするような手紙が届いたから……サイの気持ちは本当のはず。


今日のためにエイミーと頑張って自分の魅力を最大限引き出せるように頑張ってきた。

きっと幻滅されるなんてことはないと思う。ないと思いたい。


私がサイと婚約することになるだろうとエイミーに打ち明けた時には、自分のことのように喜んでくれた。

なんなら、


「やっとですか。サイラス様はずっとセレナお嬢様にアピールし続けていたんですよ……」


なんて言われてしまった。

原作乙女ゲームでは……って思い悩んでいたことがばかみたいだ。


「そろそろサイラスの番ね、セレナ。私が言うのもなんだけれど、サイラスは絶対セレナのことを大切にしてくれるわ。私が保証する。ただ、私もセレナの一番でいさせてね」


サイとお姉様が両想いだと思っていたと打ち明けた時、お姉様は声が出なくなるんじゃないかってほど笑っていた。

あの人は私のタイプではないしそもそも小さいころからセレナにベタ惚れよ、と言っていたっけ。


「勿論、私の大切な大切なお姉様だよ。お姉様こそお嫁にいっても私のこと忘れないでよね」


「当たり前じゃない! それに……私は叶わないだろうから……」


叶わない……?

お姉様はここまで何人かの令息にプロポーズされていたが、ことごとく振っていた。

そんなモテモテのお姉様が叶わぬ恋?


お姉様の切なそうな横顔をみると、これ以上は聞けなかった。



「サイラス・ハンプシャー令息」


アナウンスでついにサイの名前が流れる。

突如として会場は女子生徒の歓声であふれる。

あのような事件があった後も、サイは依然として大人気だ。


そして壇上から少し回りを見渡していたサイは、私を見つけるとニコリとほほ笑んだ。

あんなかっこいい人が、私のことを好きだって言っていたんだよね……


「セレナ・リンジー嬢、僕のところへ来てくれますか?」


私は、銀色のドレスの裾を持ち上げると壇上へと急ぐ。

階段を上がるときには、サイが駆け寄ってきてくれてエスコートしてくれた。

それをみてまたざわざわする会場。


ようやく壇上にたどり着き、改めてサイの姿を見た。

卒業式でも着ていた黒いタキシードは、サイが手に持っている赤いバラの花束に良く映えていた。

髪はきっちりセットされて、優しい笑みを浮かべている。


息を大きく吸い込んだ後、まっすぐこちらを向く。


「セリー、僕はずっとあなたのことが好きでした、ただ公爵のせいでうまく想いを伝えられずにいたんだ」


一呼吸おいて、私の目を見たまま言葉をつづける。


「でも、これで僕らを妨げるものは何もないね……セリー、僕と結婚してくれませんか?」


あぁ、幸せってこういうことなんだな。


「はい!」


私が花束を受け取ると会場は拍手で沸き立った。

観衆の中で私にキスをしたサイはとても幸せそうだ。


「では、これにて今年度の婚約の儀を終了いたします」


そんなアナウンスが流れた時、


「待って!!」


と大きな声が響いた。

みなが、誰だと声の主を探していると、バラの花束を持ったお姉様が前へ出てくる。


「……お姉様!?」


「セリー、ちょっと見守っていてあげて」


横にいるサイが何か知っているような顔で私をなだめる。

すると、慌てた様子で王族席から誰かが駆け寄っていくのが見えた。


スチュアート殿下だ。


今まで社交の場には一切出てこなかったスチュアート殿下が、先週私が倒れた時の式にも、そして今回も参列しているのは、かなり会場でも話題になっていた。


「君は、一体何をするつもりなんだい?」


相変わらず焦った様子の殿下が、お姉様の手首を握りながら詰問する。

会場はさっきまでと打って変わって静まりかえっている。


「私だって男性と同じように好きな方に告白したいのです」


ゆっくりかみしめるように答えたお姉様が、そのまま手に持っていた花束を殿下に差し出す。


「私はあなたのことがずっと好きでした! 私みたいな十歳も下の小娘に興味なんかないだろうし、何より自分の結婚で貴族の勢力が崩れることを嫌って引きこもっていた殿下のことだから……受け入れてもらえない想いであることは……重々承知しています。それでも! それでも、最後の思い出としてあなたに告白したかった! どうか、花束だけでいいから受け取っていただけませんか?」


「……はぁ、全く君という人は……」


スチュアート殿下はため息をつくと、そのままお姉様を置いて王族席へと戻ってしまう。


「……いくら殿下だからと言って、お姉様の告白に対してあんな反応するなんて許せないわ! 今すぐ一発殴ってくる」


「待ってセリー、もうすこしだから」


サイに引き留められながらスチュアート殿下を見ていると、王族席に戻っていったと思った彼が、自身の椅子の後ろから大きな花束をもってお姉様のもとへ帰っていく。


「……君から言わせちゃってごめん。改めて私と婚約してくれるかい?」


お姉様にひざまずき、花束を差し出す。


「…は、はい」


驚きで目を見開いたままのお姉様の頬に、そっとキスしたスチュアート殿下はとても良い顔をしていた。


「こんな結末ってあり……?」


また活気を取り戻した会場で私がつぶやくとサイが笑った。


「君たち姉妹は人の気持ちに随分と鈍感だよね」


「あはは……ってサイはスチュアート殿下の気持ちに気づいていたの?」


「うーん、なんとなく気づいてはいたけれど、確信を持ったのは三か月くらい前かな。僕がリンジー公爵に挨拶に行こうと思ったら、丁度殿下も来ていてね。臣籍降下がどうたら……って話をしていたから、きっとペネロペにプロポーズして、次期リンジー侯爵になるんじゃないかな」


「え!! そうなの? 私全然知らなかった……外堀を埋めていたなんて、スチュアート殿下もやるわね」


「ちなみに僕は六歳のころから、リンジー侯爵夫妻にセリーとの結婚許可をもらっていたよ?」


「もっとすごい人がいた……」


原作では裏があり計算高いタイプだったけれど……もしかすると今隣にいるサイもそんな感じなのかも?


「今更僕のこと怖いとか言わないよね?」


むしろタイプです、なんて直球に返すのは恥ずかしい。


「そんなわけないじゃん、なんか愛されているって感じで……幸せ」


「僕もやっとセリーを僕のものにできて幸せ」


「こんなにみんなみんな幸せでいいのかな……」


遠くからうれしそうな顔でこちらに手を振るペネロペお姉様が見える。

その横ではスチュアート殿下がにっこり笑っている。

メロディーは私たちやお姉様たちをみてうっとりとしていて、それを少し頬を染めたクロードが見つめている。

エイミーはお父様とお母様と一緒に私たちを見て号泣している。


なにより、




私の隣にはサイが立っている。


「もっと幸せにして見せるから覚悟しておいてね、セリー」


私たちは笑いあったのだった。

これにて完結となります。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

面白かったよ、という方はブックマーク・評価・感想・レビュー等していただけると作者が喜びます!

また、皆様からの反応が多ければ

➀セリーとサイが婚約した後の話

②スチュアート殿下とペネロペの馴れ初め

③クロードとメロディーのこれまでとその後

の番外編を書こうかなと思っています。


本当にありがとうございました!!

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