20,解毒方法
鏡を見てネクタイを整えなおす。
「セリーの気持ちだけは……僕一人ではどうしようもないよな」
外堀は埋めるだけ埋めた。
セリーにべったりな姉も無事納得させることができたし、セリーに少しでも興味がありそうな輩は牽制してきたつもりだ。
それでも、気持ちだけはどうしようもできないのである。
僕と同じように緊張した様子の人もいれば、友人と話して笑いあっている人もいる。
既に恋人関係にある人に告白するなら、そこまで緊張しないのかもしれない。
それか、当事者同士で納得のある政略結婚の相手なら、振られることはないから心配がいらないのだろう。
でも、前よりはセリーに意識してもらえているような気がする。
魔法実技演習でペアになったのをいいことに距離感を詰めてみたら、昔には見えなかった照れがあったような気がするし、舞踏会前に首元へキスしたときは明らかに僕のことを異性として意識していたはずだ。
もっともキスマークを付けられたことには気づいていなかったみたいだけれど……
そんな彼女だからこそ、落とすのが難しい。
別にどうでもいい女性はたくさん寄ってくるのに、肝心の本命にはいくらアピールしても気づいてもらえないのだから。
『お二人はどういう関係ですか!!』
『……その、サイもあんまり、女の人と仲良くしないでというか、しない方がいいんじゃないというか』
下町のお祭りに行ったときのセリーの言葉が蘇る。
「そういう意味って取ってもいいのかな……?」
セリーも僕のことが好きって意味に……
準備も済ませたし、そろそろもう一度会場に戻ろうと部屋を出ると、なんだか廊下が騒がしいことに気が付いた。
「婚約の儀どころじゃないんだって?」
「女子生徒が一人倒れたらしい。貧血か?」
「そんなことで俺たちの人生における一大イベントつぶすなって話だよな」
「さすがになんか事件性があるから中止なんじゃないかな。毒を盛られたとか?」
「それはさすがにやばくないか?」
頭が真っ白になる。
だって公爵がセリーに手を出すなら今日だと思っていたから。
でも、セリーのそばにはペネロペがついているし、僕の早とちりかもしれない。
ざわざわしている廊下を速足で進む。
いやな予感は加速していく。
「なんかかなりいいところの令嬢が倒れたらしい」
「お茶を飲んだら倒れたんだと」
そのまま会場へと入ると、人だかりがあるのを見つけた。
近寄っていくと……
人だかりの中心にいるペネロペ。その腕には生気の感じられないセリーが抱えられている。
セリーを抱えたまま座り込んで、自分も倒れそうになっているペネロペを必死に支える、リンジー家のメイドであるエイミー。
セリーの両親が慌てて二階席から駆けつけてくる。彼らは真っ青な顔をしていた。
座り込むペネロペの横ではセリーの友人であるメロディーが、あるメイドの襟もとをつかんで何か叫んでいて、クロードがメイドを抑え込みつつ、メロディーをなだめている。
慌ててやってくる医者。
何事かとざわつく二階席の貴族たちと、一階にいる生徒たち。
遠くの方で王族が、特にスチュアート殿下がとりあえずこの場を収めようとしている。
「……」
僕は、もう声すら出なかった。
「このメイドがっ! こいつが! セレナにお茶を渡したの!! 私は見ていたわ!! そのお茶を飲んだセレナが倒れたのよ!!!」
メロディーが叫んでいることがようやく意味のある言葉になってきた時、突然そのメイドが響き渡る声でこう言った。
「私は、クラーク公爵に黒魔術をかけられて操られました! セレナ様に毒入りのお茶を運ぶように指示されたのです!」
公爵……。
クラーク公爵!
次の瞬間、僕はもう風魔法を使って二階席にいるクラーク公爵のところまで詰め寄っていた。
そしてそのまま、腰に差していた剣を公爵の喉元に剣を突き立てる直前まで迫る。
その速さに呆然としているのか、公爵は口をパクパクさせたまま動かない。
「……お前が犯人なんだろう?この場で殺してやる」
小声で呟いた僕の声に、公爵が声にならない悲鳴を上げる。
こんな弱っちいやつのせいで、セリーは倒れたのか。
そのまま首を掻き切ってしまおうと力を籠める。
しかし、その前に邪魔が入った。
「サイラス、何を馬鹿なことをしているの」
そこにはスチュアート殿下の風魔法によって飛び上がり、そして支えられているペネロペがいた。
相変わらず青白い顔をしているが、その声音は有無を言わさぬ重みがあった。
そのまま公爵のそばまで近づくと、耳元で何かささやいた。
「あなたの家を今から捜索する許可をくれるなら、サイラスを引きはがしてあげるわ。まぁ、捜索するまでもなく黒ならこの場で自白してもいい……このままだと本当に殺されるわよ?」
ペネロペの言葉を聞いたからだろうか?
公爵はまた口をパクパクさせた後、観念したように両手を挙げて叫ぶ。
「すべて話すからやめてくれ!」
こいつだけは殺さなければならない。
そう思っていたのにペネロペが光魔法で僕のことを拘束してきた。
「まずはこの人からセレナを助ける情報を聞き出すことが先よ。ちょっと落ち着いて」
確かにここで殺してしまったら、セリーを救い出すことが難しくなってしまう。
「……すまない、取り乱していた」
そっと剣を鞘に納めると、公爵はほっとしたような顔をした。
「クラーク公爵が、セレナに毒入りのお茶を飲ませるように黒魔術を使用したということであっていますか?」
努めて冷静を装って聞くと、公爵はゆっくり頷く。
会場はいつの間にか静まり返り、誰もが公爵を見ていた。
「その毒を用意したのは、あなたですか?」
ペネロペの問いに、またしても公爵は頷く。
「解毒方法を教えろ」
僕が強く聞くと、公爵は肩をびくっと震わせたのちに答える。
「それは、真実の愛のキスだ」
「……友愛でない、家族愛でもない、愛する相手同士のキスが必要なんだ」
今日見たら、100ポイントを超えていました。
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