18,前日
今回は短めです。
とうとう卒業パーティー、そして婚約の儀が明日となった。
私は一人になりたくて、いつもは使っていない空き部屋の古びたソファーで窓の外を眺めている。
サイとお祭りに行ってからは、自分の恋情を認めつつもサイとお姉様の仲を邪魔しないように頑張ってきた。
あの後期末試験は、実技はスレスレ、そのほかは余裕をもって無事にパスできた。
そもそも、実技はある程度の才能がないと何もできないから、本当に苦労した。
今年はこれで許してやると先生から言われたときは、安心して力が抜けて座り込んでしまったくらいだ。
「あ、あれは……」
視界に見たことのある銀髪が映る。
彼はバラが植えられているスペースに、ハサミをもって歩いていく。
そのままバラの茂みの前にかがむと、厳選しながら丁寧に摘み取り始めた。
「きっと……お姉様に明日渡すのね」
バラの花束は婚約の儀では必須である。
女性に渡すのは最高のものにしたいと、わざわざ外国から取り寄せる人もいるそうだ。
そんな中、サイはここに植えられているものを選んでいる。
ここの庭のものならきっとお姉様も喜ぶわ。
私も、もらうんだったらこういった思い出のものだと嬉しいかも……なんて。
私がサイからバラをもらえたらな……なんて。
思っちゃいけなくて。
「前日なのに、何を考えているんだろ私」
このままここにいても切なくなるだけだ。
もう自分の部屋に戻ろうかとソファーから腰を上げた時、サイがこちらを見たような気がした。
「自意識過剰ね」
エイミーが私を呼ぶ声が聞こえたので、そのまま部屋を出た。
◇◇◇
今日は明日のためにバラの花を摘みに来た。
リンジー侯爵には話を通してあるので、スムーズに庭まで移動する。
「セリーと初めて会ったのもこの庭だったな」
当時大人たちにこびへつらわれて、同い年の子供には一歩引かれた態度をとられていた僕には、あの日のセリーはまさに天使に見えた。
いや、その日だけでなく今までずっとセリーは僕の天使だけれど。
綺麗に見えるバラを一本、二本と摘み取る。
ふと顔を上げると、普段人がいることはないと言っていた建物の窓に、プラチナブロンドの髪の毛が見えた気がした。
「セリー?」
ダメだ、セリーの幻覚を見てしまうなんて、我ながら狂っているほど愛していると思う。
こんな僕だけれど、明日セリーは受け止めてくれるだろうか。
「手が止まっているけれど。……その調子じゃあ明日の朝までここにいるつもりかしら?」
気が付くと横にはセリーの姉のペネロペがあきれた表情で立っていた。
「あぁ、急いで終わらせるよ。ほかにも明日に向けて準備はあるし」
「で、セレナの心はつかめたの?」
ペネロペが急に核心に触れてくるものだから、思わず言葉に詰まってしまった。
「う、……わからない。でも、前よりは手ごたえがある気がするんだ。……まぁ、何としてでも婚約はするつもりだよ。セリーに婚約を申し込む男性がいないように手回しはしたし」
「相変わらずね。……サイラス、私の妹のことよろしくね。もう、あなた以外に頼むなんて考えられないから」
「あぁ、勿論」
僕がそう答えるとペネロペは微笑んで屋敷に戻ろうと動き出す。
「忘れてた。なぁ、明日できるだけセリーから離れないようにしてくれるかい? 公爵がセリーに危害を加えるなら明日だと思うんだ」
クラーク公爵の狙いは、セレナを誘拐だか殺害だかすることで僕との結婚を阻止することだ。
そうだとすると、明日何かしてくるとしか考えられない。
「わかっているわよ。そこは私に任せて」
そのままペネロペは去っていき、僕はまたバラの選定を始めるのだった。
◇◇◇
「お前らが失敗続きのせいで、とうとう明日婚約の儀となってしまったではないか!」
怒り狂う主人の投げた万年筆を間一髪よけた部下は、一生懸命頭を床に擦り付ける。
「すみません」
「下町のお祭りでは必ず仕留めると言っていたのにこのありさま……。セレナ・リンジーではなくてただの鳥を殺すなんてな。こんなに阿呆の集団だとは思わなかったよ」
「すみません」
すみませんしか言わない部下たちに腹が立ったのか、「公爵」はさらにヒートアップした。
そのまま自分の前にある机をなぎ倒す。
「……もういい。明日は私が直接行って黒魔術を使ってくる」
リンジー侯爵家とハンプシャー公爵家をつなげさせるものか。
それだけ言って彼は部屋から出て行った。
いよいよ大詰めです!
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