17,本当の気持ち
いつもより長めの一話です。
お姉様とサイの卒業まで三か月を切った。
私の身の回りでは特に何も起こらず、平和そのものである。
「なんか最近つまらないなぁ」
そう私がぼやくと、メロディーがあきれたように言う。
「むしろ平和って感じでいいんじゃない? セレナは事件に巻き込まれがちだし」
「セレナ嬢は学期末の実技テストの練習を今のうちにしておいた方がいいのでは?」
いつの間にかクロードがやってきてメロディーの隣に座る。
「もう! クロード様ったら! 私だってそのくらいパスできるし!」
「本当かなあ……」
「メロディーまで!?」
少し怒って見せたが、そんな様子の私を気にも留めずクロードとメロディーが何やら新しい話をしだした。
「そういえば、クロード様は今年の下町のお祭り行く?」
「僕は行きたいなって思ってるよ。メロディー嬢も行くのかい?」
「うん、毎年楽しみにしているから勿論行くよ!」
「じゃあ僕も一緒に行ってもいいかな?」
「私も今誘おうと思ってた! 一緒に行こう!!」
下町のお祭りと言えば!
原作乙女ゲームにもあったやつだ!
あの地に自分で行くことができるなんて……これは何としてでも行ってみたい。
「それ! 私も行きたい!!」
私が二人に声をかけると、勿論といった風に頷いてくれた。
「じゃあ三人で行こう!」
と約束したのは一週間前。
そして今待ち合わせ場所にいるのは……
「セリー! 待ってたよ」
なぜかサイがいるのである。
私は確かにメロディーとクロードと一緒に回る約束をしたはずだ。
約束場所は……この雑貨屋さんの前の広場。うん、間違いない。
「ごめん、私今日はメロディーとクロードと一緒に回る約束をしていて……」
とりあえず謝ってみると、私の推しは朗らかに笑った。
「実は、メロディー嬢とクロード殿は別の用事が入ってしまったみたいなんだ。でも、セリーが一人でお祭りを回ることになったらがっかりすると思うからって、僕が誘われたわけ」
今日のサイはいかにも貴族のお忍びと言ったようなオーラで、平民の服を着ている。
どんな服を着てもビジュアルがばっちりなのが……さすがとしか言いようがない。
「でも、サイも忙しいでしょう? わざわざ私のために一緒にお祭りを回るのは申し訳ないよ」
「そんなことないよ。本当はペネロペも一緒に回りたがっていたんだけど、何とか説得して二人きりに……んー何でもない」
よくわからなかったが、サイは私と一緒にお祭りを回ることを楽しみにしてくれていそうなことはわかった。
「サイがいいって言うなら一緒に回ろうかな、ありがとうね」
「こちらこそ、今日一日楽しもうね」
サイと回るんだったら、もう少しかわいくしてくればよかったと後悔するのだった。
◇◇◇
「見てみて! このお菓子とってもふわふわでおいしいよ」
「さっきの露店で買ったやつ? おいしそうだね、一口頂戴」
綿あめのようなおいしいお菓子を右手に、そして少し辛いお肉を左手に、頭飾りをつけて、腕にはヨーヨーのようなものをかけて、小脇に射的で取ってもらったくまのぬいぐるみを抱えている。
こんなにお祭りを全身で表現している人はなかなかいないだろう。
ちなみに私が今持っているものはすべてサイに買ってもらってしまった。
私も侯爵令嬢としてかなりのお金をもっているから払わせてほしいといったのだけれど、サイはかたくなに私に払わせようとしなかった。
そのかわりに、私が射的で唯一ゲットできた変なフィギュアを大事そうに抱えている。
サイにはそんな趣味があったなんて、原作ファンの私でも知らなかった。
「一口でいいの?」
「うん」
私が綿あめのようなお菓子をちぎって分けてあげようとした時、ふいにサイの顔が私の右手に近づいてきた。
そして、そのまま直接食べてしまったのだ。
「!?」
これじゃあ彼氏彼女のデートみたいじゃん……
私が恥ずかしがっていることに気が付いたのか、サイが笑いながら声をかけてきた。
「何? セリー、恥ずかしがってるの?」
私が正直に
「……うん」
と答えると、サイが微妙な顔になった。
「あーうん、そっか。えーと、あの辺で一回座って休む?」
もしかして冗談のつもりだったのかな。
私が大真面目に答えちゃったから、なんか変な雰囲気になってしまった。
「ちょ、ちょっと私探し物があって、すぐに戻ってくるから一瞬行ってくるね!」
「あ、ちょっと、セリー?」
いたたまれなくなって、噴水の周りに座っていたが飛び出してきてしまった。
サイは多分噴水のところで待っていてくれるだろう。
さて、いたたまれなくて抜け出したのもあるけれど、私にはお目当てのものがあった。
「確か噴水広場から二本目の道を右に曲がって、次は銀杏並木の通りに突き当たったら左に曲がると……」
五分ほどでついたその屋台ではなんと、「自白剤」が売っているのだ!
原作乙女ゲームでは一定条件を満たすと購入することができるレアアイテムで、これを入手しておくと、卒業パーティーで悪事をしたセレナに飲ませることができるのだ。
ただ、飲ませることができるタイミングはペネロペが真実の愛のキスで目覚めたあとであるため、自白剤がなくてもストーリーはちゃんと進行する。
だから、セレナが自分の口で自分の今までの悪事を語ってしまうという、少しざまぁな要素が追加されるだけだ。
でも、私はこの自白剤に可能性を感じていた。
私はこのままいくと、三か月後の卒業パーティーで誰かに黒魔術で操られて、お姉様に毒を盛ってしまうかもしれない。
でももし、自白剤を直前で飲むことができたら、「誰かに黒魔術で操られた」ことをその場で自白できるのではないかと考えのだ。
上手くいくかどうかはわからないけれど、やってみる価値はあると思う。
「すみません、これを一つ買いたいです」
屋台の外装からすでに胡散臭い雰囲気が漂っているが、自白剤の効能はしっかりとある。
「おう、お嬢ちゃん。これは自白剤だネ! 効果は抜群だかラ、ちょっとお高めだけどよろしい?」
「えぇ、大丈夫よ」
話し方もかなりなまっていて、怪しさ満点だ。
私も原作乙女ゲームを知らなかったら、ただのぼったくり商売としてスルーしてしまうだろう。
「毎度!」
店員さんにお金を払い、瓶に入った一粒の自白剤を受け取る。
よほど品物が売れないのか、店員さんは私が買った後とても嬉しそうな表情をしていた。
「さて、そろそろ帰らないとサイが心配しちゃうわね」
そろそろ別れてから十分近くたっていた。
駆け足でもと来た道を戻る。
「ちょっとそこのお嬢ちゃん、この飲み物持っていかない?」
その不思議な色をした飲み物は、いかにもお祭りらしい感じだった。
どうやら無料で配っているようで、周りの人もおいしいと言って飲んでいる。
「ありがとうございます!」
私はそれを受け取ると、こぼさないように噴水広場まで帰る。
できるだけ速足で帰ってくると、サイは知らない女の人と一緒に座ってしゃべっていた。
こちらからサイの表情は見えないけれど、女の人はサイの腰に手を回して楽しそうに笑っている。
あれ……。なんだかイチャイチャしているのかな?
そう思ったとたんに、私の中でもやもやした気持ちが広がり始める。
今まではお姉様だったから…いやヒロインには敵わないからって、サイへの気持ちを無理やり封じ込めていた。
けれど、
やっぱり、サイが他の人とイチャイチャしているところを見るなんて耐えられない。
本当はサイとお姉様が両想いだって事実を受け入れるのだってつらかった。
私はこんなにもサイのことが好きなのに!!
いつからこんな気持ちを持つようになってしまったのだろう。
いや、ずっと抑え込んでいると思っていたけれど、本心は抑えきれないということか。
卒業パーティー、その後の婚約の儀でお姉様とサイが婚約するときまで、その時くらいまではサイに恋していたっていいじゃないか。
そのせいで死亡ルートに近づいてしまっても、解決法をたくさん考えてきたから十分なのではないか?
私は、
私は……サイが好きなんだ!
「サイ!」
私が叫ぶと、サイは振り向いた。
私はサイと女の人の近くまでダッシュする。
「お二人はどういう関係ですか!!」
そういっている最中に、私は躓いてしまう。
そのまま姿勢を崩し、全力ダッシュしていた私の体は前へ傾く。
両手に持っていた飲み物が宙に舞って、噴水の中に流れ込む。
あ、ダメだ。これは顔から地面に突っ込んじゃうやつだ。
衝撃に備えようと目瞑った時、なにか暖かいものが私の体を支えた。
「セリー、君は本当に目が離せないね」
そのままふわりと抱き上げられたせいで、私の顔が真っ赤になる。
「ごめんなさい、僕今日はこの人と回っているので、ご一緒できません」
女の人にそれだけ言うと、さっさとその場を後にしてしまった。
「……セリー、心配だから一人でどこかに行こうとしないで」
「うん、ごめんねサイ。……その、サイもあんまり、女の人と仲良くしないでというか、しない方がいいんじゃないというか」
私の一存でサイの行動を決めることはできない。
まぁ、でも、お姉様のためにも他の人とイチャイチャするのはやめた方がいいことは確かだ。
「……セリーがそういうなら」
そう言ったサイの顔が赤いことに私は全く気が付かなかった。
◇◇◇
「あら、こんなところで鳥がたくさん死んどるわ」
翌日。
噴水の周りには、水を飲みに来た鳥の死体が大量にあったらしい。
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