16,波乱の舞踏会③
もう動けなかった時の私ではない。
脇を締め、腰を下げ、臨戦体勢になる。
そんな私に気が付いたのか、左右の気配が一気に私に襲い掛かってくる。
でも二人だけなんて……なめられたものだ。
私はまず右の人のみぞおちをめがけて、強烈なパンチを食らわせる。
それを受けてふらついた右の人の顔面に、左の人の攻撃をよけつつ再度こぶしで殴る。
そのまま伸びてしまった右の人は放置して、今度は驚いて固まっている左の人を見る。
覆面はしていたがどうやら男性であることはわかった。
そのことを確認すると、今度は男性の急所を蹴り上げた。
左の人もそのまま悶えて動かなくなってしまう。
実は、魔法ができない代わりに最近は体術を身に着けていたのだ。
急なことになるといつも体が動かなくなってしまい、結局お姉様やサイに頼りっきりになってしまうのはまずいと思ったから、ひそかに練習していたのだ。
「こんなに役に立つとは思わなかったわ」
さすがに男二人を引きずっていくのは無理があるので、一度会場へ戻って主催者に報告をしようとしたその時、
「てめぇ、なめやがって!」
完全に油断していた私は、背後から三人目の刺客が襲い掛かってきていることに気が付かなかった。
これは私が手を出して間に合う間合いではない。
よけて一発目はかわすも、男は再度こちらへ短刀を振り上げてきた。
これは……勝てない。
会場まで走って逃げたとしても、私の足の速さでは追いつかれてしまうだろう。
これはよけ続けるしかない。
二発目も間一髪よけることができたが、その時に体勢を崩してしまい、尻もちをつく。
「ごめんなお嬢ちゃん。ご主人の望みなんだ。……あんたがいなくなることが!」
もう一度男が短刀を振り上げ、もう絶体絶命となった時。
男に向かって白い光が放たれる。
この光は……
「お姉様!」
私の後ろには息を切らしたお姉様がいた。
「これは敵わないな。ちっ、ここまでか」
そう言って男は黒い靄に包まれ、いなくなってしまった。
私が先に倒した二人の男たちも一緒に消えた。
沈黙が下りる。
「……何だったの?」
「……セレナを狙っている奴がいるのよ。サイが何か怪しい雰囲気を感じたといったから急いでセレナを探していたの。良かった、間に合って」
お姉様は私のことを優しく抱きしめてくれた。
あぁ、やっぱり私はお姉様やサイに頼りっぱなしだ。
「今日はもう帰りましょうか」
「うん!」
サイは忙しくて一緒に帰れなかったけれど、お姉様がいるから何も怖くなかった。
それに家に帰ると、両親やエイミーが私のことをそれはそれは心配するものだから、逆に気分が落ち着いてしまったのだった。
◇◇◇
「それで、その男たちは黒い靄と一緒に消えてしまったと……おそらくそれは黒魔術だろう。自殺魔法だ」
緊急会議と称して、僕とペネロペ、そしてスチュアート殿下の三人で集まっていた。
今はペネロペの話を聞き終わったところだ。
「証拠を残さないように自殺したってこと? ずいぶんと主君思いなこと…………私がもう少しうまく立ち回れていれば今度こそ証拠をつかめたかもしれないのに、ごめんなさい」
「いいんだよ、まだチャンスはあるから。そんなに気に病まないでくれペネロペ」
慰めるようにペネロペに話しかけるスチュアート殿下。
前から思っていたことだけれど、なんだかこの二人、友人にしては仲が良すぎるような気がする。
「それで、サイラスの方から見て、現場はどんな感じだったか教えてくれるかい?」
「そうですね。僕は仕事関係の人に話しかけられていて、少しセリーからは離れていたんです。……でも、他の男となんて踊ってほしくないし、話してほしくもないから、遠くから圧力をかけてはいたんですよ」
僕がそう言うとなぜかペネロペとスチュアート殿下が苦笑する。
何故なのかはよくわからないけれどそのまま続けた。
「でも、その圧力を気にもせず話しかけている奴らがいて……それが侯爵令嬢とその取り巻きだったんです。でも、一目見て何かおかしい雰囲気であることに気が付きました」
「それは何だい?」
「なんとなく黒いオーラをまとったような雰囲気に見えたんです。だから、やはりあの令嬢達は公爵に黒魔術で操られて、セリーを裏庭へ放置したに違いありません。まぁ、操られていようとなかろうと、セリーにしたことへの怒りは変わりませんが」
「まぁまぁ、それで君は仕事仲間との話を切り上げてセレナ嬢を追いかけなかったのかい? いつものサイラスならそうするだろう?」
「そうなんですけど……とある令嬢が僕に話しかけてきて、それがとてもしつこくて…その人からも黒いオーラを感じたので、多分同じように操られていたかと。ペネロペに裏庭の様子を見てきてほしいと伝言を送ってしばらくした後、その令嬢は何をしているんだという表情で謝罪をして、顔を赤らめて去っていきましたから」
「なるほど、今回はかなり派手に立ち回ってきたね。もう黒魔術を隠す気もないだろう」
「僕とペネロペの黒魔術に関する証言では、公爵を断罪することはできませんか?」
「やはり、難しいだろう。公爵と黒魔術の関わりを証明する明らかな証拠はないからね」
「やっぱりそうなるわよね」
僕とペネロペが落胆していると、スチュアート殿下が明るく声をかけた。
「君らの卒業の日まで半年だろう? 相手もうまくいかなくて焦ってきているはずだ。卒業の日にはセレナ嬢とサイラスが婚約してしまうかもしれないのだから。だから今度は、きっともっと大胆になるはず。その時に証拠をつかむのでも遅くはないさ」
その日はそのままお開きとなった。
そして特に何も事件は発生しないまま、卒業の日……もとい婚約の日まであと三か月を切ることになる。
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