15,波乱の舞踏会②
遅くなりました!
「サイラス・ハンプシャー様、ペネロペ・リンジー様、セレナ・リンジー様の入場です!」
会場中の視線が私たちへと突き刺さる。
サイとお姉様が美男美女だから、もとから注目の的であることに加えて、今まで社交界に姿を現したことのなかった私がいることで更に視線を集めているようだ。
「サイラス様、今日もかっこいいわ……」
「今日こそ私とも踊ってくださらないかしら? いつもペネロペ様としか踊らないから……」
サイは社交界の場でも大人気のようだ。
そして、なんとペネロペお姉様としか踊ってないという。
何だ、思いのほかちゃんと溺愛しているっぽいじゃん。
「一緒にいる方がペネロペ様の妹君か! 噂とは違いとてもお美しい……」
「セレナ様…相手いなさそうじゃない? お前ダンス申し込みに行ってきなよ」
「わんちゃんあるかもしれないよな……俺行ってこようかな」
聞こえたひそひそ話に少しテンションが上がる。
私だって捨てたもんじゃないわね。
自分を誘ってくれる相手がいないかもしれない不安とだったけれど、なんだか大丈夫そう!
なんならここで将来のお婿さん候補を見つけちゃったり……?
これ以上サイへの気持ちが募らないうちに相手を見つけないと。
「じゃあ私、行ってくるね!」
「……セリー?」
サイが私の手を握って引き留めるのを振り払い、私は会場の中へとずんずん歩いていく。
これからペネロペお姉様とサイでイチャイチャするのに、確実に私は邪魔になってしまう。
それに、あの二人は優しいから私を邪険にはできないだろう。
だったら自分からここを離れなきゃ。
私が十歩ほど歩くと、先ほどひそひそと話していた男性が声をかけてきた。
「セレナ・リンジー嬢ですよね? 俺はエバンズ侯爵家のヴァレンタインです。どうか俺と一緒に最初のダンスを踊っていただけませんか?」
「リンジー侯爵家のセレナと申します。……えぇ、喜んでお相手をさせて頂きま
私が答えている途中で、サイの声が割り込んできた。
「ごめんねヴァレンタイン殿。セリーは最初に僕と踊る約束をしているんだ。すまないが他の令嬢を誘ってくれ」
サイは私の後を追いかけていたようで、私の首元の髪の毛をかき上げながら、でっち上げの約束の話をする。
「……は、はい」
ヴァレンタイン様はサイが声をかけた瞬間に顔を引きつらせ、そして私の首元を注視し、返事をした瞬間に逃げるように去って行ってしまった。
「せっかく未来の旦那さんを見つけられると思ったのに……サイはお姉様と踊ってきなよ。お姉様としか踊らないんでしょう?」
サイは少し眉を顰めると、そのまま無言で私の手を引いてダンスを踊っている中央へと歩き出す。
「ペネロペも僕も、一人でいるとかなり声をかけられてしまってね……正直に言うと少し迷惑なんだ。二人でいればほかの人に声をかけられないから、少し一緒に踊っていただけ」
丁度新しい曲が始まるタイミングで、サイは私に向かって一礼をした。
「僕はセリーと踊りたいな、ダメ?」
そんなにかわいい顔で言われたら頷くしかない。
サイはどうしてそんなにお姉様との仲を隠したがるのだろう?
妹のような存在に、その姉との恋事情を言うのが恥ずかしいのかな?
サイのリードに身を任せながら、ゆったりとしたワルツを踊る。
「セリーは……旦那さんを探しているの?」
踊りながらもしっかりとした口調でサイが聞いてくる。
「勿論。このままだとお姉様やサイに一生お世話になっちゃうわ。いい加減自立しないとね」
私としても、二人が結婚した後にもずっと寄生するのは申し訳ない。
ステップを踏み、サイに身を任せ優雅にターンする。
さすが攻略キャラ、どこをとってもかっこいい。
「……セリーは一生僕のお世話になっていいんだよ。僕が守ってあげるから、だから僕のことを……」
サイはそのまま口をつぐんだ。
しばらく無言で踊った後、サイは再び口を開く。
「いや、また今度言うね。待ってて」
「……うん」
びっくりした。
サイに「好き」って言われるかと思った。
勘違いも甚だしい。やっぱりこんなんじゃだめだ。
一生お世話になっていい……なんてプロポーズみたいなこと言わないでほしい。
そのまま曲が終わり、かなり疲れた私はその場を離れようとした。
しかしサイが笑顔で私を引き留めたせいで、くたくたになるまで踊ることとなる。
◇◇◇
「はぁ……」
結局あの後立て続けに五曲分もサイと一緒に踊った。
さすがに体力がもたないと言おうとした丁度その時、おそらくサイの仕事仲間であろう人達に、サイが声をかけられた。
サイは私を置いていくことに対して申し訳なさそうな顔をしていたが、ここぞとばかりにダンスエリアから抜け出し、無事に壁の花となることができたわけだ。
何故だか、誰からも話しかけられなかったのは好都合だった。
だって今日はもう疲れたから、未来の旦那さん探しはもうやめようと思っていたからだ。
ただ……なぜか私に話しかけてきた令嬢軍団に、今困っている。
「わたくし、ペネロペ様とサイラス様のことを応援しておりましたの。ペネロペ様だからこそ、わたくしはサイラス様に受け入れてもらうことはできないとあきらめて、陰ながら恋い慕っておりましたのに……あなた何だか目がきついですし、サイラス様の好みじゃなくってよ!」
なぜか、原作ならペネロペが受けるような嫉妬の言葉を私が受けているのだ。
そもそも私、サイとダンスを踊っただけですが!?
「サイラス様の髪の色や瞳の色に合わせたドレスを着るなんておこがましくってよ!」
そうだそうだというように、周りを取り囲む数人の令嬢が頷く。
確かに紫のドレスに銀色のリボンと、意図せずかぶってしまったけれど、そもそもこれはエイミーが選んでくれたものであるはずだ。
私にはまったくその気はない。
「ちょっとこちらへいらっしゃいな」
中心にいるのは私の家よりも勢力がある侯爵家の令嬢。
他の相手なら断ることもできたが、今回これを断ったら何か家の方に不都合が生じるかもしれない。
私が頷くとそのまま裏庭の方へ連行される。
五分ほど無言で歩いたあと、裏庭のベンチに座らされて取り囲まれた。
「いい? あまりサイラス様とお近づきにならないで! とりあえず今日は舞踏会が終わるまでここにでも座って待っていなさい!」
それだけ言うと、私を真夏の夜の屋外において令嬢たちはさっさと会場へ戻ってしまった。
「それにしても……なんだか嫉妬ってすごいわね」
黒いオーラが出そうなほど彼女たちは怒っていた。
原作のペネロペもこういうことをされていたなんて大変だなと思った。
セレナがペネロペにした嫌がらせは大体こんな感じだったから、改めてペネロペの芯の強さを実感する。
そういえば……黒いオーラが出そうなほど怒っていたというよりは、実際に黒いオーラが出ていたような……?
黒いオーラと言えば、黒魔術を使った時にも発生するんだったような気がする。
ということは……私、今ここにいるのはかなり危険では?
誰かが意図をもって彼女らを操り、私をここへ呼び出したのは確かだ。
思わず両手を握りしめ、とりあえず会場へ戻ろうと立ち上がる。
その時、右の方から木の葉がこすれる音がした。
誰か……いる!
舞踏会編は次回まで続きます。
明日は14時頃に投稿する予定ですので、読んでいただけると嬉しいです。
いいね・ブックマーク・評価等お願いします。




