14,波乱の舞踏会
「ねぇエイミー。本当にこのドレスで大丈夫かしら?」
「えぇお嬢様。お似合いですよ」
私がいま着ているのは、かなりフリルの付いた紫色のドレスだ。
ところどころに銀色のリボンがつけられていて、かなりガーリーな雰囲気である。
私はかなり顔がきつい方なので、自分の顔に自信があるとはいえこのドレスが果たして似合っているのかどうか疑問である。
「やっぱりあっちの赤いドレスの方がいいんじゃないかしら。こんなにフリフリのドレス、私が着ても似合わないわ」
お姉様が着たらきっとゆるふわな感じになって似合うのだろう。
私が少し悲しそうな顔をしたからか、エイミーが慌てて慰めてくれた。
「いえ、そんなことはないですよ。せっかくの新しいドレスなんですからこれにしましょう」
この紫色のドレスは、2・3日前に新しくエイミーが持ってきたものだ。
今までのエイミーは、こんなにフリフリのドレスを選ぶことなんてなかったのに……
「そこまでエイミーが勧めるなら今回はこれを着ることにするわ」
「選んでもらえてよかったです。では、準備を進めてしまいましょう。もう今から準備しても遅いくらいですからね」
今日は舞踏会デビューの日。
舞踏会は夜に開催されるのに……なぜこんなに昼間から準備する必要があるのだろうか。
「ほら、ほかのメイドの人も呼んで急いで準備しますよ、お嬢様!」
エイミーに言われるがままに身支度を整えていくのであった。
◇◇◇
「セレナ! 今日はまた衣装の雰囲気が違って素敵ね。……紫色……そのドレスは自分で選んだの?」
「ううん、なんかエイミーが新しく買ってきてくれたみたい?」
「ふーん、なるほど。そういうことね」
「どういうこと?」
「なんでもないわ、今度はピンク色のドレス、私が買ってあげるわ。一緒に選びに行きましょう」
「ピンク色……? 絶対私には似合わないよ……」
「セレナならどんなドレスでも似合うわよ」
たれ目で瞳が淡いピンク色のお姉様なら、そんな色のドレスも似合うだろうけれども。
ただ、一緒に買いに行くのを本当に楽しみにしていそうなお姉様には何も言えなかった。
「さて、そろそろ時間になるから外に出ましょうか」
お姉様に連れられて外に出る。すると間もなくして一台の馬車がやってきた。
そこにはハンプシャー公爵家の家紋が印字されている。
「家の馬車で行くんじゃないの?」
「サイラスがどうしても私たちと一緒に行きたいんだって聞かなくって……」
お姉様はかなり大きなため息をつく。
私……もしかすると二人の邪魔になっているのかもしれない。
「私、二人とは別で行こうかな……」
「うーん、初めての舞踏会でしょう? 私たちと一緒に行った方が絶対いいわ。……むしろサイラスからすれば私に別で行ってほしいくらいよね……まぁ私だってセレナのわくわくした顔見たいし一緒に行くけれど……」
なにかお姉様がごちゃごちゃ言っているけれどあまりよく聞こえなかった。
とにかく私とも一緒に行ってくれるらしい。つくづく優しい姉だ。
そんなこんなで待っていると、サイが馬車から降りてくる。
「ごめんね、待たせちゃったかな」
そう言って登場したサイは本当に王子様みたいだった。
黒い燕尾服に、赤いイヤリングをつけているのが印象的だ。
彼の紫の瞳と銀髪は、白い服でも黒い服でも似合うことは、前世に見たファンアートで知っている。
改めてかっこいい姿を近くで見て、言葉を失ってしまうのもしょうがない。
「ちょうど出てきたばっかりだから平気よ、迎えありがとう」
サイから手を差し出されたお姉様が手を重ね、馬車へと案内される。
サイはその手に対してそっと触れるだけのキスをする。
舞踏会では、女性が手の甲に男性からのキスを受けるのは普通のことなのだとメロディーが言っていたけれど……こんなに絵になる二人はそうそういないだろう。
原作での三年目の舞踏会では、攻略対象とヒロインの好感度はほぼマックスに近いため、とにかくイチャイチャが多い。
周りの人に見せつけるくらいのラブラブぶりだし、なんなら二人で抜け出すなんて展開も存在する。
サイも、お姉様とイチャイチャして舞踏会を抜け出しちゃうのかな。
……うらやましい。私だって、1日でいいからサイと恋人のように扱われてみたい。
そんなこと考えたらだめじゃない。
あと半年で卒業パーティー、セレナがペネロペに毒を盛るイベントが発生するのに、こんな感情を持っていたらあっという間に黒幕に操られてしまう。
「セリー? おいで」
考え事をしていたからか、サイから差し伸べられていた手に気づかなかった。
慌ててその手を取ると、サイは私の手にはキスをしない。
まぁ、私はこんなもんだよね、悪役令嬢だもの。
サイは少し馬車の方を振り返った後、私の手を引いて体ごとサイの方へ引き寄せた。
「そのドレスとっても似合ってる」
耳元でそんなことをささやかれたら、誰だってキュンとしてしまうに違いない。
私ももれなく、サイに心をもっていかれそうになった。
「あ、ありがとう…」
私が小さな声でお礼を言ったのが聞き取れなかったのか、再びサイは私の首元の方まで顔を近づけてきた。
「なんて言ったの?」
そういった後、サイは私の首元にキスをした。
なんだかチクっとしたような気がするのは気のせいだろうか。
私には手の甲にキスする価値がないから、首でいいやってこと!?
むしろ首の方が恥ずかしいまであるけれど!
私がまた混乱に陥っているとサイは面白そうに笑った。
「赤くなっててかわいいね」
サイは人たらしすぎる。
こんな感じでいられたら、無事に舞踏会を終えることができる気がしない!
まだー? と馬車の中からペネロペお姉様に声をかけられたことで、やっと舞踏会に出発することができたのだった。
まさかの舞踏会に行く前に終わってしまいました…
次回も舞踏会編となります。
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