13,黒幕はだれ?
お待たせしました!
「サイラス、遅い」
「すまないペネロペ。目撃者として少し証言をしてくる必要があって、騎士団の方に引き留められていたんだ。スチュアート殿下も待たせてしまいすみません」
「いや、私のことは気にしないで、暇だからね。ペネロペは大事な妹が、思っていたよりも危ない目にあったことに少し気が立っているみたいなんだ。だから、君が気にする必要は全くないよ」
「ありがとうございます」
学園の建物の中では、厳重な保護膜が形成されているため刺客を送るのにはむかない。
だからこそ、セリーを狙っている奴らはこの魔法実技演習をチャンスと見て、接触してくるに違いないという予想はしていた。
これ以上調べても、犯人を特定することが不可能であることを知った僕たちは、仕方がなくセリーを餌として犯人をおびき出す作戦をとっている。
だからこそ、僕がセリーのそばにいることが許されているのだからなんだか複雑な気分だ。
できることなら、僕が卒業するまでに解決して心置きなくセリーと結婚したいのだけれど……
「それで、サイラス。何かわかったの?」
「あぁ、僕はセリーに向かってきた炎の燃えカスを近くで見たんだ。そこには……わずかに黒魔術の跡があったと思うんだ」
その跡も、先生たちが慌てて駆けつけてきた時には消えてしまっていたが、魔法を暴発させてしまった張本人も、暴発時の記憶がないと主張していた。
まさに、黒魔術で人を操ったとしか思えない状況なのだ。
それを説明すると、スチュアート殿下は渋い顔をした。
「黒魔術を使っていたと、確信をもっているのかい?」
「えぇ、間違いないと思います。なので、そうなると犯人はほぼ絞られていて……」
「ちょっと二人とも? 黒魔術って何よ、初めて聞いたけれど……」
ペネロペが不思議そうな顔をして、僕たちの顔を交互に見る。
「そうだね、あまり広めたくない情報ではあるんだけどペネロペには伝えなくてはならないかな。黒魔術は人を操ることのできる魔法、禁忌の魔法だ。魔力のある人ならば、知識さえあれば使うことのできてしまう恐ろしい魔法だからね」
スチュアート殿下の説明に僕も少し付け足す。
「王家と公爵家に関わりのある人しか知らない魔法なんだ。……だから今回の犯人はほぼ間違いなく……ジェームズ・クラーク公爵の仕業だ、証拠はないけれど……」
「おそらくそういうことになるだろう」
ペネロペはそんな魔術の存在に驚いたようで、らしくもなく口をぽかんと開けていた。
「……そんな魔法があったのね。そうね、黒魔術を知る人は限られている。公爵家はサイのところのハンプシャー公爵家、そしてクラーク公爵家の二つしかない。犯人はハンプシャー公爵家とリンジー侯爵家が結びつくのを恐れていて、サイとセレナの結婚を阻止しようとしている。うん、クラーク公爵ならぴったり当てはまるわ」
「ただ、肝心の黒魔術が使われていたという要素がサイラス個人の意見に基づくものだから、いくら王家だからと言って、無理やりクラーク公爵の身柄を拘束することなんてできないんだ」
「犯人が予測できても、まだ証明することはできないのね……まだセレナはおとりになる必要があるのかしら?」
「あぁ、そうだね。すまないが、そうしないと事件は解決できなさそうだ」
スチュアート殿下はペネロペの方を見て申し訳なさそうな顔をする。王弟にご機嫌伺いをさせるなんてなかなかのものだ。
「サイラスも引き続き、自分はセレナ嬢に夢中だという姿を公爵の耳に届くくらい見せつけてやってくれ」
「そのせいでセリーが危ない目に合うのは不服ですが……ほかの男へのいい牽制にもなるので頑張りますね」
にっこりと笑うとペネロペがこちらをにらんできた。
「あんまり過激なことしないでよ? そもそも私はセレナがあなたのことを好きになるまで結婚は許さないからね」
「わかってるって、多分セリーも少しずつ僕を意識してくれているさ」
昼間僕との距離が近いことに対して赤面していた、可愛いセリーの表情を思い出す。
全く意識されていないと思っていたけれど、案外そんなことはないのかもしれない。
「そういえば、ペネロペの方こそどうなんだい? スパルタ特訓コースは改善できた?」
「もちろんよ。私が先生にスパルタ特訓してあげたら、悲鳴を上げていたわ。やめてほしいなら来年からはもっと優しい授業にしろって言ったの。そうしたら二つ返事で頷いてくれたわ」
セリーの姉とは思えない凶暴さに、思わず鳥肌が立ってしまった。
◇◇◇
あれから一週間。
サイのおかげで何事もなかったのに、親が心配して体の隅々まで検査させられた。
魔法実技演習の翌日は学校中で大騒ぎになっていて授業どころではなかったんだと、メロディーとクロードが教えてくれた。
「本当にもう体は平気なの? 私、セレナが魔法の暴発に巻き込まれたって聞いてとっても心配したんだから!」
「それに、質の悪いうわさも流れていて……セレナ嬢が炎の魔法に巻き込まれて顔がやけどの跡だらけになってしまっているだとか。今日顔をみてほっとしたよ」
どうやら二人には随分と心配をかけてしまっていたようで謝罪する。
「ごめんね、何か手紙でも書けばよかった。心配してくれてありがとう」
「ううん、いいんだよ。あんな事故の後の精神状態じゃなにもできなかったでしょう?」
「う、うん。……はは、そうだね」
可哀そうに……と涙ぐむメロディーと、それをみてハンカチを差し出すクロードを前にして、私は口が裂けても本当のことなんて言えなかった。
本当は、前からやってみたかった体術を練習していただなんて!
「そういえば、もうすぐ春学期末のテストがあるけど……セレナは実技に方は、その、大丈夫?」
少し言いにくそうな顔をして尋ねる。
私は、メロディーの行ったことの意味が分からなくて、いや、理解したくなくておうむ返しをした。
「……てすと?」
「もしかすると、セレナ嬢は休んでいたから日付感覚がおかしくなっているのかもしれない。もうあと三日しかないんだよ」
「うわぁー-!!」
その後はひたすら魔法の実技の練習をした。
なんとかみんなに協力してもらいながらテストをクリアして、ついに念願の夏休みに突入することができたのだ。
そして夏休みと言えば……
「ついに! 私も舞踏会デビューだわ!」
お姉様にやっと許可をもらえた私は、一年の中で一番大きいとされる王宮主催の舞踏会に出ることになった。
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