12,魔法実技演習
「セリー今日は二人で頑張ろうね」
「う、うん」
魔法実技演習当日、私はなぜか気持ち悪いほどニコニコしているサイと、学園の一角にあるベンチに座っていた。
私たちの周りにも、見えるだけで3組ほど男女のペアがおり、うち一組は恋人同士のようだ。
メロディーが言っていた通り、そこまで恋愛重視ではないペアも多いこと安心する。
問題はこの終始笑顔のサイが内心何を思っているかわからないことだ。
ニコニコしているくせに、なんだか怒っているような気配を感じるような気がする……
「なんでセリーは僕を誘ってくれなかったの? もっと早く僕を頼ってくれてよかったのに」
「だって……サイはお姉様とペアになるものだと思っていて……」
今日まで1週間近くペアになってくれる男性を探したけれど、ことごとく振られてしまった。
理由はそれぞれで、「もう僕はペアの人がいるから」と言ったまともな理由から、「俺も命は大切にしたいんだ」というわけのわからない理由まで、ありとあらゆる理由で振られまくった。
とうとう魔法実技演習の当日になってしまい、もう先生のスパルタ特訓コースを受けるしかないと落ち込んでいたところに、サイが朝から一年生の教室までやってきのだ。
「セリー、まだペアが決まってないんだって?」
「……そうなの。誰かサイの友達紹介してくれたりしない?」
ダメ元で聞いてみると、サイは驚いたような表情をした後にっこりと笑った。
「それじゃあ、今日は僕と一緒に過ごそうか」
今度は私が驚く番になったのであった……
回想なんてしていないで、今は目の前のサイの対処をしなくてはと意識を戻す。
「僕がペネロペと……? 確かに去年と一昨年は彼女と組んでいたけれど……それにペネロペだって自分が僕と組むより、相手のいないセリーと僕が組んだ方が喜ぶと思うよ」
それは正論だ。
自分で言うのは何だが、お姉様は冗談ではなく自分の幸せより私の幸せを願っているから。
サイもそれは良く知っているらしい。
それなら、サイの好感度稼ぎを手伝ってあげますか!
「とりあえず今日は1日中サイにみっちり教えてもらうからね! それで、夜家に帰ったらお姉様に今日の話をたくさんすることにするわ」
「……1日中一緒か……うん、頑張ろうね」
なぜかサイの機嫌が戻ったので、そのまま私たちは練習をスタートした。
◇◇◇
「ねえサイ?」
「何? セリー?」
「なんだか距離が近くない?」
「そう? 僕たちはいつもこのくらいじゃない?」
「まぁ……確かにそうかも」
お昼も過ぎたころ、私は相変わらず小さい火花を杖先から散らしているのだが、それを指導しているサイの距離感がなんだかおかしい。
なぜか私はベンチに座るサイの膝に座って練習をしているのだ。
確かに、兄妹のような距離感で今まで接してきたけれど……こんなに近くに推しがいるとやっぱりそれ以上の感情で意識してしまう。
「やっぱり集中できないから立ってやろうよ!」
「セリーが立って練習したいならそれでいいよ」
了承を得たうえで何とかサイの上から抜け出すと、サイも立ち上がってバックハグの要領で私に魔法を教えようとした。そんなことをされたら、ますます顔が赤くなってしまうのも仕方がない。
「だから、近いんだって!」
「座っていると集中できないんでしょう? 今は立っているから大丈夫だね」
何も問題はないとでも言う風ににっこり笑うサイを見て、もうどうすることもできないのだと観念した。
原作でも同じようなことをサイがペネロペにしていたけれど……間違ってもセレナにするようなことではないはず。
そういえばペネロペお姉様はサイとペアじゃないけど、今は何をしているのだろうか。
まさか、どこの馬の骨かわからない男と一緒に、私とサイみたいなことをしていたり……!?
その男がペネロペお姉様にちゃんと似合うやつかどうか、私が確かめなければ!
「ねぇサイ。お姉様は誰と組んでいるの? 同じ学年の人?」
「ペネロペは誰とも組んでいないよ。スパルタ特訓コースに潜入するんだって意気込んでたから」
「なんでお姉様は潜入したいの……?」
確かにお姉様なら先生よりも魔法を扱えるから、ひどい目にあうことはないかもしれないけれど……あそこはそんなに好き好んでいくところではないと思う。
「来年、僕らが卒業しちゃったらセリーが独りぼっちになるでしょう? それでセリーが来年スパルタ特訓コース行きになったら大変だから、過度な練習を強制される状況を改善させて見せるって言っていたよ」
お姉様の私を思う気持ちがうれしい反面、私はそんなにモテないように見えるのかと少し落ち込む。
「私……何がだめなのかな……」
そう呟いて自分のつま先を見つめていた時。
「危ない!!」
後ろにいるサイの大きな声にびっくりして顔を上げると、そこには赤黒い炎の塊が私に向かって近づいてきているのが見えた。
私が作ることのできる火花とは比べ物にならないくらいの大きさだ。
誰かの魔法が暴走したのだろうか?
これをまともに受けたら無事ではいられない。
死を察知するとこんなにも世界はスローモーションにみえるのか、と内心驚いた。
もう体も動かない。
もうここまでだと両目をぎゅっと瞑る。
私は原作のラストまでもたどり着けない運命だったのか……
自分の体が焼ける衝撃が来るのを身構えていると、私の目の前で風が吹いたのを感じた。
それはとても強く、危うく私自身が吸い込まれそうなほどだった。
「セリー!」
サイが私を後ろから引き寄せる。
そこでやっと目を開けると、サイが必死にその炎の塊を吹き消している最中だった。
しばらく呆然と見守っていると、だんだんと炎の勢いは無くなり、最終的には燃えカスとなって地面に落ちた。
「……」
「セリー? 大丈夫かい? どこもケガしてない?」
「サイ……サイ! 怖かった! 死んじゃうかと思った!」
怖くて涙も出ない私を、サイはゆっくりと抱き上げると近くのベンチまで連れて行ってくれた。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
「無事でよかった」
私をそっとベンチに降し周囲を確認した後、先ほどの燃えカスのところへ近づき眺めている。
すると、近くにいた誰かが呼んでくれたのか先生たちがたくさん集まってきて、今日の魔法実技演習はそこで中止になった。
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