11,セレナの学園生活
「セレナ、おはよう! 今日の宿題はちゃんとやってきた?」
「もちろん! 前回やってなくてさんざん怒られたからね」
「怒られなかったらやらないってこと?」
「うん、面倒くさいし」
「それもセレナらしいけどさ、ただでさえ魔法の実技の先生とかに目をつけられているんだから気を付けなよ」
「はーい、心配してくれてありがとうメロディー」
彼女はメロディー子爵家の一人娘で、私が学園に入って初めてできた女友達だ。
他にもたくさん友達はできたけれど、一番波長が合うと感じたこの子と一緒に大半の時間を過ごしている。
「あ、クロードおはよう!」
「おはようセレナ嬢、メロディー嬢。朝から元気ですね」
「えーなんか私たち馬鹿にされてる?」
「そんなことないですよ。いつもニコニコしていて僕も元気がもらえるなと思ってます」
さすがはサイと同じ乙女ゲームキャラ。息をするようにこんなことを言えるのは共通なのか。そんなことを考えているとメロディーがこそっとクロードに耳打ちした。
「さらっとそういうこと言うのはまずいと思うよ。いつどこで彼らが見ているかわからないって言っていたでしょう?」
「何を話しているの?」
「あぁ、それはこちらの事情でして……」
「そうそうこっちの事情だからセレナは気にしないで!」
なんだか悲しかったけど、教室に先生が入ってきたことで話は打ち切りになった。
◇◇◇
四時間目の授業が終わると、お昼ご飯の時間になる。
メロディーとクロードはお弁当を食べるから教室に残るのだが、私はお昼ご飯を食堂で取ることにしているため、チャイムと同時に教室を飛び出した。
窓際のお気に入りの席は、私が席を取るのが遅くてもなんだかんだみんな残しておいてくれるが、なんだか気を遣わせるのも申し訳ないので、食堂に駆け込むのが日課だ。
今日もいつも通りに四人掛けの席を取り、あの二人を待つ。
なかなかやってこないなと不思議に思っていると、よく知らない、おそらく二年生と見受けられる男子生徒が私に声をかけてきた。
「セレナ嬢だよね? 今は一人なの?」
「えぇ、そうだけど……あなたは誰?」
「俺はチャーリー・プレスリー。実はセレナ嬢に前から興味があって……よかったら一緒にお昼食べない?」
こんな風に声をかけられるのは、一か月学園に通っていて初めてだ。
チャーリー・プレスリーは原作乙女ゲームには出てこないが、幼いころ勉強した知識によれば、実家は貿易でかなり裕福なはず。
顔もかなり整っているし……向こうは私に少なからず好意を抱いてくれているようだし……もしかして私にも春が!?
「そうね、ご一緒しようかし……」
応じようとした瞬間私の後ろから、口をふさぐように手が伸びてきた。
「何を話しているのかな?」
背後からふんわりと優しい声が聞こえてくる。
「……っ」
この人と一緒にお昼を食べるのだと言おうとするものの、口をふさがれているので何も言葉を発することができない。
「あ、すみません。……そうですね、今日はやめておきますね」
「別に今日だけじゃなくてもいいけど?」
「はい、やめておきます!」
チャーリーは逃げるように食堂から立ち去って行ってしまった。
その様子を見たサイはやっと私の口から手を離した。
「ごめんね遅くなって。大丈夫だった?」
「大丈夫だったけど……私あの人と話してみたかったのに」
そんな風に言うと、サイはシュンと肩を落とした。
「僕と話すのは楽しくない?」
「も、勿論サイと話すのはとっても楽しいよ!」
「それならよかった。あ、そういえばペネロペが先生にちょっと質問があるからって行っちゃったきり帰ってこなくって、多分あの感じだと今日は一緒にご飯食べれないんじゃないかな。だから先に来ちゃった」
「了解! じゃあご飯注文しに行こうか」
「そうだね、おいで」
自然なしぐさで私が席を立つときに手を貸してきた。
それが本当に王子様みたいで思わず固まってしまう。
「どうしたのセリー? 早く行こう」
戸惑うサイの顔をみて、はっと現実に戻る。サイは乙女ゲームのキャラクターだ。再会したときに抱き着いてくるくらいだ。こんなことで惚れちゃダメ。
いずれサイはお姉様と婚約するのだから……
そのまま差し出された手に自分の手をのせると、サイがその手をぎゅっとつなぐ。
私はまだドキドキしながらパスタを注文して、受け取った後はそのまま席まで戻る。
「いただきます」
しっかり手を合わせて、パスタを食べるためにカトラリーを手にしようとすると、向かいからそのカトラリーへ手が伸びてきた。
「ちょっと? サイ…? 私食べられないじゃん」
「んー? 大丈夫だよ」
私のパスタを自分の方に引き寄せ、私のカトラリーで一口に収まるようにパスタを巻く。
「はい、あーん」
「あーん……?」
あまりにも自然に差し出されたパスタに、私も自然と口を開く。
「おいしい?」
「おいしいよ……でもなんでいきなりこんなこと?」
「セリーは昔パスタが上手く食べられなくて、僕やペネロペにこうして食べさせてもらっていたでしょう? それを思い出しちゃって」
「なんだ……そういうことか」
またもや、サイは自分に気があるのではないかと勘違いした自分に泣きたくなる。
私はいつだってサイの良き妹なのだ。
そして未来の義妹でもある。
「まぁ、セリーがその理由で納得してくれるならそれでいいや」
サイのそんなつぶやきにも、食堂内の生徒が私たちを見てざわめいていることにも気が付かない昼下がりだった。
◇◇◇
「そういえば、来週魔法の実技演習があるけど、セレナは誰と組むの?」
放課後、今日は特に用事もないからのんびり帰る支度をしていると、突然メロディーがそんなことを聞いてきた。
「え、何それ……?」
「まさか存在自体を知らなかったとか言わないよね?」
「……」
「もう! セレナったらいつもこうなんだから!」
ちょっと怒りながらもメロディーはことの詳細について教えてくれた。
その話によれば、男女二人でペアになって魔法の練習をするらしい。
しかし、魔法の練習というのはそこまで大きな目的ではなく、真の目的はその男女の交流にあるそうだ。
気になる人、婚約関係にある人、恋人関係にある人などを誘ってイチャイチャすることが目的らしいのだ!
一週間くらい前までには、大方誘ったり誘われたりでペアは決まっており、かくいうメロディーもクロードと一緒に行こうと決めているそうで……
「そういえばそんなイベント原作でもあったような……って私誰からも誘われてないけど!」
「大丈夫だよ、セレナはサイラス様に頼めばいいじゃない」
「サイに? ……サイは先約があるんじゃないかな」
ペネロペお姉様との。という言葉は心にしまう。
「そうかなぁ……ちなみに、もしペアができないと実技の先生のスパルタ特訓コース行きだよ。だから、私たちみたいに特に何もないけどペア組んでる子も多いくらい」
「それは絶対に嫌! なんとしてもペアを探さなきゃ……大丈夫、私かなり優良物件のはずだから……」
「まぁ、サイラス様がいなければ優良物件かもね」
「ん? 何か言ったメロディー?」
「なんでもない! まぁ、その色々頑張ってね!」
焦って教室を駆け出していく私を励ましの言葉と共に見送ってくれた。
クロードは別にセレナに気があるわけではありません
あくまで入学式に独りぼっちだったセレナを見かねて、友人として仲良くなろうとご飯に誘った天性の人たらしなだけです……そこだけ訂正しておきます。
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また、明日は諸事情により更新できません……次の更新は金曜日です




