10,入学式
「ご入学おめでとうございます。入学式の会場はあちらでございます」
「案内ありがとうございます」
ついに私もアマネセル学園へ入学する日がやってきた。
記憶を取り戻した二歳の時から、ここで起こる事件の回避のために全力を尽くしてきたのだ!
まぁ、ここで事件が起こるのだという不安よりも、前世で大好きだった乙女ゲームの舞台を実際に見ることができる喜びの方が強いかもしれない。
長い庭園を歩くと、周りの新入生からちらちらとみられていることに気が付く。
「全く社交界にでていなかったから、みんな私のことを知らないのね」
本来学園に入る前までにある程度の交友関係があるはずなのだが、ペネロペお姉様に止められていたため、友達すらいない。
「結婚相手だけじゃなくて、気の合う友達も探さなきゃ……」
とりあえず入学式では新入生代表の挨拶を任せられたから、最終チェックをしないと。
そんなことを考えていたので、前にいる人にぶつかってしまった。
「……あ、すみません。考え事をしていたもので」
「いえいえ、かまいませんよ。良ければ僕と一緒に会場まで行きませんか?」
そう答えたのは、黒髪に長身、紫色の瞳を持ったクロード・スミス伯爵令息だ。
勉強の時に名前を習ったが、実はそれよりも前、前世から彼を知っている。
そう、彼も攻略キャラの一人なのだ。誠実な性格と凛々しい見た目からサイの次に人気だった。
「いいんですか? うれしいです。実は諸事情でお友達がまだいなくて……」
「そうなんですか。これからの学園生活で友達なんてたくさんできると思いますよ。……あ、自己紹介がまだでしたね。僕はクロード・スミスと申します」
「私はセレナ・リンジーと言います」
「君が噂の、あのリンジー侯爵家の妹君なんですね。こんなにお美しい方だとは思っていませんでした……言い方が少し失礼になってしまいましたね、すみません」
うっかり口を滑らせたという風に落ち込む彼は子犬のようで、私は思わず笑ってしまった。
「全然大丈夫です。美しいとほめていただけてうれしいくらいですよ」
ペネロペお姉様やサイ以外にそんなことを言われたことがない私は、慣れないことを言われて思わず顔を赤くしてしまう。
「ところで……私に関してどんなうわさが広がっているのですか?」
「それを僕の口から言うのは憚られるというか……」
つまり、あまり良いうわさではないということだろう。
交友関係を広げようと意気込んでいたけれど、なんか初手からハードモードだったりする?
そのままクロードと話をつづけながら、飾り立てられた入学式の会場に足を踏み入れて一息つく。私たちが会場に着いたのはかなり後の方だったため、席についてほどなくして入学式は始まった。
「新入生代表の挨拶に移ります。新入生代表、セレナ・リンジー嬢」
「はい」
長い学園長や来賓の話の間ずっと代表の挨拶の原稿をこっそり見ていたので、もう自然と口をついて出るくらいには覚えてしまった。
舞台に繋がる階段を上り、壇上に立つ。
会場にいる新入生はみんな私を見ているような気がした。
「暖かな春の息吹を受け、私たちは今日アマネセル学園へ入学いたします。本日は……」
挨拶をしている最中にも、生徒が小声で話している声が聞こえてくる。
「あの方がセレナ・リンジー様?」
「噂では醜くて、教養もなくて、性格も悪くて外に出せないから、侯爵邸に引きこもっているって……」
「ペネロペ様も美人だけれど、セレナ様もとても美人だわ」
「教養がないようには見えないけどな……」
「俺、めっちゃ好みなんだけど」
「私もお近づきになりたいわ」
なんだなんだ。噂は本当にひどいけれど実際の評判は上々じゃない?
これなら学園生活もどうにかなりそう。
友達たくさんできるといいな……あと恋人も!
そんなことを考えていると私の新入生挨拶はすぐに終わり、壇上から降りて自分の席に戻った。
クロードが小声で
「とても良いスピーチだったよ」
と言ってくれるものだからますます上機嫌になって入学式を終えたのだった。
◇◇◇
「セレナ嬢はもうこのまま家に帰りますか?」
「えぇ、特に用事もないしもう帰ろうかなと思っていたけれど」
無事に入学式も終わり、私は初日にしてクロードというお友達ができた。
もう今日のミッションは達成と言ってもよいだろう。
「それならさ……あの、僕と一緒に」
「セリー久しぶり! 入学おめでとう!」
「セレナ! 新入生挨拶素敵だったわ!!」
どこからともなくサイとペネロペお姉様がやってきて、二人して私に抱き着く。
「さすがセリーだね。壇上にたつ君はとっても素敵だったよ」
「会場のみんなもセレナのことほめていたわよ、さすが私の妹ね」
「そもそも関係者以外は、入学式の間立ち入り禁止だったよね? どこから見てたの?」
「ちょっと前日に小型カメラを仕掛けておいたのよ。あ、もちろん誰にもばれないように透過魔法をかけておいたから心配する必要はないわ」
「なんだか恥ずかしいじゃん……二人とも、もう私だって16歳だよ?」
あまりにも私を妹として可愛がる二人から距離を取る。
お姉様はここ数年で一段とかわいらしさに磨きがかかった。
原作の乙女ゲームでも姿は公開されていたが、それよりももっとかわいくなっている。
何かきっかけがあるのかと前に聞いてみた時は、頬を赤らめて教えてくれなかった。
多分恋愛対象のサイが、原作よりも長い期間近くにいたことで、より一層自分磨きに力を入れるきっかけがあったということだろう。
そしてサイだ。
私は思わず見惚れてしまった。
原作の乙女ゲームそのままの姿に成長していたからだ。
違う点といえば、原作ではしていなかった剣の鍛錬を積んでいるため、スラっとしているなかでもがっしりとしたところが見えること。
どちらのサイも好みだけれど、現実のサイの方がもっと好きだ。
手紙ではやり取りしていたけれど、ここ五年くらいは直接会っていなかったので、最後に見た時から格段に成長している。
しばらくボケっとしていると、サイは困ったように首を傾げた。
「どうしたのセリー……もしかして僕のこと忘れちゃった?」
この世の終わりのような顔で聞いてくるので、慌てて訂正する。
「違う違う、忘れるわけないじゃない。ただ、サイも大人になったなぁって思って」
「よかった。セリーこそ大人になって……その、とてもきれいになったね」
「ありがとう!」
まさかサイにまでほめられるとは思っていなかったので単純にうれしい。
「で、ところでなんでセリーはスミス令息と一緒にいるの?」
「今日入学式の前に仲良くなったの! ね、クロード様!」
「あ、あぁ」
「ふーん……」
なんだかよくない雰囲気になった? なぜ?
「じゃあ、明日からセレナたち新入生も学園生活が始まるし、今日はこの辺で帰りましょうか」
何かを察したのかお姉様がその場を取りなすように私の手を取ると、そのままリンジー家の馬車へ連れていく。
「またね! サイ、クロード様!!」
ぶんぶんと手を振ると、二人とも振りかえしてくれた。
なんだかよくわからないけれど、明日からの学園生活が楽しみだなあ。
のんびり書いていこうと思います。
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