五十一挺目 映画
「ワンピース姿のぬいもちとショッピングモールでデート......これ、前にもあったよな」
忘れもしないあの日、望奈と叶向は数年ぶりにこのショッピングモールで出会ってしまった。あの日から、俺は『ツインテちゃん』としか認識していなかったあの少女を『不知火叶向』と認識するようになったのだ。
俺と不知火の出会いはただのプロローグ、あの日から全てが始まったような気がする。
「それで? 何処か行きたい店でもあるの?」
「んー、別に。ぬいもちと、どっか行きたいだけだったし」
「......そう。なら、一階から三階まで適当に歩いてみましょう」
彼女は意外にもあっさりとした態度でそう言った。『意味もなく私を連れ出したの? 無意義なことに私を付き合わさないで』くらい、言われることを覚悟していたのだが。
「不知火、何か......前回、来た時よりも優しいな。これは不知火から俺への好感度が上がっていると捉えても良いのか」
「勝手に言っときなさい」
そう言う彼女はあまり俺と目を合わせようとしたがらない。朝のことをまだ、気にしているのだろうか。
「そういえば此処、映画館もあるよな」
俺は不意にそう呟いた。一階の服屋が集まっているエリアをプラプラと歩いていたときのことだ。
「観たい映画でもあるの?」
「いんや、別に。ぬいもちは無い? 観たい映画」
「特には無いけど......そうね、ただ、ショッピングモールを歩いていても暇だし......特にお前と居ても暇だし......何か観ても良いかもしれないわ。行ってみましょうか」
「今、結構、えげつない罵倒が飛んできた気がするんだけど」
今日のぬいもちは優しい、と油断していた俺の体に彼女の『グサッ』が直撃した。
「今、やっているのだと......ラブロマンスみたいなのと、ホラーと、アニメ系が幾つか......」
「俺、ぬいもちがホラー映画で震え上がっているところ見たい」
「別に良いわよ。それにしましょうか」
妙に素直な彼女に首を傾げながら俺達は映画館に向かい、チケットを購入した。二人とも学生証を忘れたので大人料金を払わされたのが結構、痛い。
「ひっ......!? あっ......」
それから数十分後、他の客の迷惑にならないよう、必死に声を押し殺しているのは不知火ではなく俺であった。自分が結構、ホラーが苦手なのを忘れていた。
「......雑魚」
我慢しようとしながらも度々漏れてしまっている俺の悲鳴、それよりも更に小さい声で不知火はそう呟いた。
俺は無言で彼女の方に手を伸ばし、ダメ元で手を握ってくれるように乞うたが、案の定、その手をペチンと叩かれてしまった。そして、それから一時間以上、地獄の時間が続いたのであった。
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「不知火の震え上がる様子が見られると思ったのに、自分が震え上がっているところを不知火に冷笑されて終わった」
「私は幽霊よりも、殺人鬼よりも恐ろしい『現実』を味わってきたの。ホラーなんてものを怖がる筈がないでしょう」
吐き捨てるようにそう話す不知火。何とも彼女らしい発言である。
「いやもう、マジで、背中が汗でビショビショだよ」
「気持ち悪い。そんな汚いのと一緒に居たくないわ。帰れ」
「不知火のツッコミにキレが戻ってきて安心したよ......。でもそうか、ごめんな。あんまり興味のない映画見せちまって」
「ホラー映画の楽しみ方は何もお前のようにやかましく叫ぶだけじゃない。例えば横の席の男の滑稽さを楽しむ、とかね」
「あ、あはっ......ぬいもちを楽しませられたのなら、良かったよ......ははっ」
何とも言えない乾いた笑い声を出しながら、俺はスマホのロック画面に目をやる。既に時刻は12時を回っていた。
「そろそろ、飯にするか。もう此処でやることもなさそうだし、帰って食べても良いが、どうする?」
「午後から行きたいところがある」
不知火は少し迷ったような表情を見せつつも、即答、と言える速さでそう答えた。
「じゃ、此処で食べるか。因みに午後から行きたいところって?」
「......秘密」
そう言って彼女はほんの少しだけ笑って見せた。




