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四十七挺目 似た物


「んー、何というか、事実は小説よりも奇というか......これまたえげつないメンバーが揃ってしまったな」


 蜂須賀の提案で水族館の中にあるカフェへと移動した俺、叶向、蜂須賀、そして、幻中玲奈。その四人の中には何とも微妙な空気が流れていた。

 身体の至る所に包帯を巻いて車椅子に座っている状態の叶向と蜂須賀が相対したというだけでも、かなり大事件なのにその上で、幻中玲奈と叶向が出会ってしまったのだから大変である。

 幻中玲奈は在りし日の望奈に叶向を陥れるよう囁いた張本人なのだから。


「えーっと、幻中さんとはこの前ぶりだよな。改めて初めまして。現在、不知火周りのゴタゴタに巻き込まれております霊群蒼です」


「・・・幻中玲奈、です。先日は申し訳ありませんでした。貴方の探し人が私であることに気付いていたのに、逃げてしまい」


 真面目そうというか、誠実そうな女の子だった。それ故にやはり、此方も敬語になってしまう。


「いやいや、俺もただの野次馬根性から幻中さんを探してただけだから......それで、蜂須賀と水族館に居たのはどういう?」


「・・・...... 数年ぶりに蜂須賀さんと会って話したからだと思うのですが、中学生の頃の記憶が戻りまして。それで、本当に厚かましいというか、我ながら面の皮が......」


「ああもう、玲奈ちゃんそういうの良いって。私と玲奈ちゃん、仲直りしました。別に喧嘩してた訳でもないんですけどね。今日は仲直り記念に二人で水族館に来てたんです」


 蜂須賀は自分で色々やってみる、と言っていたが、もうそこまでいったのか。何があったかは知らないが、やはり、蜂須賀は強い。


「仲直り記念、邪魔しちゃって悪かったですね」


 ツーンとした様子でそう言うと、紙ストローを皿に放り出し、直飲みでアイスコーヒーを啜る叶向。明らかに不貞腐れているというか、態度が悪かった。


「・・・不知火、叶向さん」


「何でしょうか」


「・・・私が貴方にしたことを、貴方は......」


「何と無く知ってますよ。詳しいことは分からないですけど。アイツを唆して私と梓に冤罪吹っかけたんですよね」


 アイツ、というのは望奈のことだろう。さっきまではお姉ちゃん、と呼んでいたのに彼女らを前にすると、呼び方を変えるとは、徹底している。


「・・・っ......申し訳ありませんでした」


「幻中さん」


「・・・はい」


「正直に言って、私もウチの姉を陥れるために色々、やってるので貴方を責める気にはなれません。......関係ない人を巻き込んでいないかと言えば、嘘になるでしょうしね」


「・・・そう、ですか」


「ええ。だから、もうお互い、過去のことをズルズル引き摺るのはやめましょう。......私のこの有様は、過去に縛られ続けたが故の結末なんです。過去に縛られても、良いことなんて何もないんですよ。ふふっ」


 自嘲気味に苦笑する叶向の言葉には何とも言い難い重みがあった。


「......叶向、その身体」


「ああ、気遣いとか要らないよ。私が馬鹿なことした結果だから。本当は梓ともちゃんとした機会に再会したかったんだけどね......」


 静かに溜息を吐く叶向に蜂須賀は俯きながら口を開く。


「......決して良かったとか、言っちゃいけないんだろうけど、ちょっと、安心した。叶向が生きてて。事故に巻き込まれたって聞いて以来、姿、見てなかったから。入院したのは知ってたけど」


 ボロボロと涙を流す蜂須賀に俺も思わず涙腺が緩んだ。


「......安心っていうのは予想外の反応」


「え?」


「いや、もっと憐れまれたり同情されるのかなって」


「あ、ごめん! 勿論、その......」


「いや、良いの。憐れまれると何だか惨めになるから。安心したって言って貰えてちょっと嬉しかった」


「......そ、そう?」


「この怪我、ウチの姉を車から庇って作った怪我なんですよね」


 不意に叶向が幻中へそんなことを言い出した。


「・・・お姉さんを庇われて、ですか」


「正直、何であんなことやったのか分かんない。というか、庇ったって表現も違うかも。私は車が迫ってきていたことに気が付いていた。だから、頑張れば二人で無傷でいることも出来たかもしれない。......でも、何ででしょうかね。それをするべきかを思案しているうちに車がもうそこまで迫ってきてて、私は姉を突き飛ばして私だけが車に轢かれたんです」


 『こんなこと、貴方に話しても仕方ないのに。すみません』とまたも自嘲気味な苦笑と共に付け加える叶向。俺も事故の現場には居なかったので何があったのかはよく知らなかったが、そういうことだったのか。


「・・・こんなことを言うと、気を悪くされるかもしれませんが」


「何でしょう。別に気を悪くしたりしないので言ってください」


「・・・貴方には、親近感を覚えます」


「......私もたまたま、同じようなことを思ってました。折角、同年代なんですし似た者同士、友達になりましょうよ、玲奈ちゃん」


 ニヤリと笑いながら叶向が幻中の方に手を伸ばす。


「・・・ええ、是非」


 その手を幻中は遠慮がちに握った。


「よく分からんが、取り敢えず、全て上手く行ったってことでオケ?」


「大体、その理解であってますが......そもそも、何でレイグン様と叶向ちゃんが一緒に水族館にいるんですか。おかしいでしょ」


「俺はツインテちゃん、改め、ロングちゃんのリハビリの手伝い。車椅子押す奴が必要だろ」


「霊群先輩には何思われても何とも思わないので気が楽なのよ」


「めっちゃ利用されてるけど大丈夫ですかレイグン様」


「いずれ俺の義妹になる子だから」


「もしかしなくてもぬい先輩と結婚する前提で話してます? キッツ」


「んだとコラ」


「まあまあ、霊群先輩の女の趣味が悪いのは置いておいて、折角ですしこの後、四人で水族館回りましょうよ。私達まだ、イルカショーとか見てないんですよね」


「・・・私もまだ、クラゲをちゃんと見れていないので見たいです」


「あ、梓たん、ペンギンが見たい! ペンギン!」


「......お、おー!」


 その後、女子三人のペースについていけず、俺が悲惨なことになったのはこのときから薄々想像出来ていた。

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