四十一挺目 病床
「失礼しまーす」
扉を潜った先の、広い室内に置かれたベッドの上には布団が山の様に盛り上がったものがあった。俺はその『山』に声を掛ける。
「鈴木の奴はー? 偶に来たりしてんのか?」
「・・・・」
「いや、そういえば、最近、アイツとあんまり会ってないんだよなあ」
「・・・・」
「あ、コレ静岡土産。お茶」
「・・・・」
「音楽掛けていい?」
「......面会拒否してなかったっけ私」
『山』がウゾウゾと動きながらそんな声を発した。低く、如何にも家族向け、といった感じの気怠げな声だった。
「してたね。割と苦労するんだぜ? 何回も病院通い続けて部屋を割り出すの。この時間ならナースさん達は休憩中ということも特定済み」
「キッショ。死ねば良いのに」
「望奈も同じこと言うだろなあ。流石、姉妹」
「貴方って神経とか無いんですか」
「無神経を俺から取ったら何が残るんだ」
「無いことをアイデンティティにすんのやめてください。くだばってください」
「お前ら、やっぱり似てるなあ......」
「何ですか。振られましたか。それで、お姉ちゃんと似てる私に鞍替えですか。最悪ですね。良いですよ。付き合いましょうか」
「意味分からん言葉の展開やめろ。後、鈴木はどうした」
「その質問、サイアク。私があの人に会える訳ないのに。ホント、サイアク。何でそんなに酷いこと言えるんですか?」
「死ねば良いのにとか言われたの忘れてないからな」
「さっさと、忘れろや」
「こっわ。本性現したね」
「......でもまあ、良かったです。正直、貴方、今、来て欲しくない人ランキングでは結構、下位なので」
「それ喜んで良い?」
「大して思い入れも強くないし、どんな風に思われようと気にならない且つある程度、私に気を遣ってくれそうな人間ってのを褒め言葉と思うなら」
「確実に暴言だなそれ。他のは誰だよ」
「三位が梓、二位が秋也さん、一位は言わずもがなです」
「さいですか......。ああ、そういえば、静岡なんだけどな?」
「どうせ、ウチの父の墓参りとかでしょ」
「・・・・」
「図星ですか」
「あ、えあー、その、不知火のお母さんのことなんだけど、弁護士......」
「弁護士の筈なのに、ホームページに載ってない件ですよね。知ってますよ。アレ、その弁護士が死んだ場合にも抹消されるんですよね」
「......え?」
「あ、私、直接は何もやってないですよ。死んだの知ってるだけで。お姉ちゃんは知らないんだ、へぇー。確かに教えられてないもんね」
少し、声の調子がいつもと同じ感じに戻ってきた気がする。
「何で、亡くなられたのかとか聞いても......?」
「え、知りたいです? 別に話しても良いですけど、結構な爆弾ですよ? 本当に知りたいです?」
「あ、いや、その......」
「自殺だったらしいですよ。人生行き詰まっちゃったんでしょうねー。遺書は見つかってなかったみたいです。可哀想です。折角、再婚してある程度、幸せに暮らしてたみたいなのに」
そう話す、彼女の声は妙に活き活きしていた。不思議と其処に不気味さはない。
「......あのさあ、ツインテちゃんよ」
「久しぶりですね、そう呼ばれるの」
「......あー、いや、やっぱり、何でもない」
「そうですか。私も貴方とあんまり言葉を交わしたくないので助かります」
「とか何とか言っちゃって、結構、対話に応じてくれてるよね。寂しかったのか?」
「......死ね」
「あんまり脳死でキツめの暴言吐かない方が良いよ。姉と重なるから」
「......そろそろ、帰って下さい。今日はもうこれくらいが精一杯です。また、会ってあげますから」
「え〜、折角、頑張って不法侵入したのに〜」
「ナースコールしますよ」
「あ、帰ります。今すぐ帰ります」




