二十八挺目 爆発
「ハッピーバースデイ叶向ちゃん!」
「おめでとう、叶向」
「ツインテちゃん、おめでとう」
テンションマックスの蜂須賀がクラッカーを鳴らして祝福の言葉を述べたのに続く俺たち。此処は、蜂須賀の家。彼女の誕生日を祝うために俺達は此処に集まったのだ。
「ア、アリガトウゴザイマス......何か恐縮しますね」
「はい、叶向ちゃん、私からプレゼント。携帯扇風機だよ、叶向ちゃん欲しがってたから」
「あ、ありがとう梓! わあ、可愛い......。あ、その、梓、話してなかったけど私の過去のこと......」
「ああ、良いの良いの。別に何も思ってないし。それより、今日は叶向ちゃんの誕生日なんだから楽しんでよ。あ、ケーキ持ってくるね!」
「......う、うん」
若干、気まずそうにする叶向に鈴木が包装紙に包まれた箱を差し出した。
「俺からのプレゼントだ」
「中は?」
「リボン。叶向に似合うかなと思って」
「......うわー、何か絶妙にキモい」
「グフウッ」
俺と不知火の関係とまんま同じなの面白いな。
「まあ、秋也さんがどうしても自分のリボンを付けた私を見て征服欲を満たしたいって言うなら付けてやらないこともないですけどね」
「......まあ、ありがとう?」
しかし、ツンツンとはしながらもデレてくれるところがぬいもちとの大きな違いだ。アイツのデレって何時もが酷すぎて相対的にデレに見えるのものばかりだし。
「俺からは無難にお菓子だ。何か、持て余すようなもの送っても仕方ないと思って。ゼリー、好物なんだろ?」
「おお、はい、好きですよゼリー。シンプルに嬉しいです」
「ああ、後......もう一つ有るんだが......」
俺がそう言ってプレゼントを取り出すためバッグに手を入れたとき、不意に叶向の表情が厳しいものになった。
「二つもあるんですか?」
「いや、これは俺からのじゃないんだが......はい」
と、俺が差し出した小包は叶向の手によって地面に叩き付けられた。
「......っえ」
思わず変な声が出てしまう俺。その様子を見ていた鈴木、ケーキを丁度取ってきて帰ってきた蜂須賀も言葉を失ったように呆然と立ち尽くしていた。
「ああ、すみません、つい、衝動的に。センパイに失礼でしたね。......でもこれ、アイツからの奴でしょ?」
少し苛立った様子で一応の謝罪をする叶向に俺は無言で頷く。
「何でこんなことするのかなー? 私を馬鹿にしたいのかしら。本っ当に不愉快。あ、ごめんなさい。皆さんは悪くないんですよ? いや、ただ、あのクソ女......何考えてんだか。はあ、ムカつく。本当に気が触れたんじゃないの」
そう言って、地面に叩きつけられ、少しクシャッとなった小包を彼女は踏むか蹴るかしようとしたらしく、足を近付け、そして、突如、それを止めた。
「霊群センパイ、これ、中身何か知ってます? 液体とかなら此処で踏んだら梓に悪いと思いまして」
「液体ではないが、絶対に踏みつけたらいけないものだと思うぞ、ツインテちゃんにとっては。ぬいもちとか関係無く」
「どういうことですか」
「まあまあ、開けてみ」
物凄く嫌そうな表情をしながらも床に落ちた小包を拾い、開ける叶向。その中から出てきたものに彼女は首を傾げた。
「何ですかこれ。色紙......? ......まさか」
小包から出てきたのは正方形の小さなサイン色紙だった。それを見て叶向の顔は一気に真っ青になった。
「フォスフォレちゃんのサイン色紙。ほら、この前、イベントでフォスフォレちゃんのサインが当たる奴あっただろ。ぬいもち、お前のためにアレに応募して当てたんだよ。しかも、メッセージ付き」
「『Happy birthday Kanata』って、ええっ!? どういうことですかこれ!?」
「応募当選を知らせるDMが彼女からぬいもちの所に来たとき、そう書いてくれるようにモッチーが交渉した」
「フォスフォレちゃん、地面に叩きつけてゴメンナサイ......」
勿論、全て嘘である。叶向が手にしているサイン色紙は不知火が、フォフォレッスセンスとして書いたもの。サインの抽選企画も話に説得力を持たせるために自作自演の一環で不知火がやったものだ。因みに入れ知恵したのは俺。
「てか、ツインテちゃん、フォスフォレ姫の呟き見てないのか? ほら」
と、俺が見せたのはぬいもち、もとい、フォスフォレちゃんのSNSの公式アカウント。直近の呟きには
『私のサインを妹さんへの誕生日プレゼントにしてくれた方が居ました。妹さん、誕生日おめでとう。高校生ということで大変なこともあるだろうけど、頑張ってね』
というものがあった。
勿論、自作自演ではある。が、これは叶向に会うことの出来ない望奈が何とか自らの想いを伝えるために取った方法なのだろう。
「ねえ、霊群センパイ」
「ん?」
「流石にフォスフォレちゃんから頂いたものを捨てる訳にはいかないので貰っておきますが、あの女は本当に何をしたいのかしら。......気が違ったとしか思えないわ。もし、仮に、あの女が私との和解を考えているなら、断固として拒否するから。だって、そうじゃない。私達、殺し合ったのよ? お互いに相手を自殺に追い込もうとしていた。あの女が自殺をしようとしていたところを通行人に止められ、警察に行ったと聞いた時にはどれだけ悔しかったか......」
興奮した様子でヒステリーな声を出しながら、叶向は突然、泣き始めた。声もいつもより低いものになり、口調からも敬語が消えている。
「望奈は......」
「許さない。許せない。許してはいけないわ。そして、アイツも私を憎むべき。私達、姉妹はそういう存在なのよ。お互いを憎み合って、死ぬまで腹に黒いものを抱えていくべきなの。......私達、姉妹が狂ったのは確かに父のせいよ。あの女も、私も、あの男が居なければこんなにも醜い存在に身を堕とすことは無かった。だから、始末してやったのよ! 私もそれで、『普通』になれると思った! でもね、無理だった......無理だったのよ」
部屋中に響く音で過呼吸気味に哭く叶向。彼女は力無く、よろよろと歩き、鈴木に抱きついた。彼はそんな叶向の背中を優しく叩く。
「幾ら父が元凶でも、『じゃあ、仲直り』なんて出来る訳がない! 父を殺しても全く、スッキリしなかった! それよりも、何で私は親を手に掛けてるんだろうって涙が出てきて......そんな自分が嫌でえ......嫌い。私も、あの女も、皆、嫌い......あの女に肩入れしてるアナタのことも嫌い......」
我儘を言う子供のように、鈴木の胸を叩きながら叶向は泣き叫ぶ。もう、俺はどうしたら良いか分からなくなっていた。
「お前に望奈と和解するつもりが無いことは分かった。というか、知ってた。ごめんな。前提としてお前ら姉妹の関係についてどちらが悪いとか口出すつもりも、権利も、俺には無い。でも、お前の言う通り確かに俺は全面的に望奈の味方だ。それを踏まえた上でありがとう、アイツのプレゼントを受け取ってくれて」
「......貰ったからには大切にすると伝えて下さい。卑怯ですよ、本当に」
「ありがとう、本当に」
「後、もう一つ、『ありがとう』ともお伝え下さい。どれだけ嫌いな相手からのプレゼントでも、受け取りながら礼を言わない、なんて真似はしたくありませんから。アイツと違って私は恥知らずになりたい訳ではないんです」
そして、軽く溜息を吐いた後、叶向は窓の外を一瞥し、俺達に頭を下げた。
『折角、私のために開いてくれたパーティをぐちゃぐちゃにしてしまってごめんなさい』と。




