二十七挺目 絶交危機
「てことで誕生日教えて」
「何でお前に......」
「そう言うと思って、助っ人連れてきた」
「ぬい先輩、誕生日教えてくらさい!」
「......12月5日」
チョロ過ぎる。
「な? アズアズの頼みならコイツ、何でも聞くんだよ」
中学校時代の負い目からなのだろうが、兎に角、ぬいぬいには蜂須賀をぶつけておけば大体、効く。
「違う。お前の頼みを聞くのが癪なだけ」
「そっか、俺、もちもちにとって特別な存在なんだ。な、何か照れるな」
「死ね」
「ぬい先輩、死ねはアカンやろ......」
蜂須賀が若干、引き気味に言う。あー、蜂須賀はあまり、毒舌な不知火を知らないんだよな。
「それにしても、12月か。まだまだ、先だな。早くお祝いしたかったのに」
「祝わなくて良いし、お前と末永く付き合うつもりは一切無い。きっと、その頃には引っ越しているわ」
「......泣くぞ」
「まあまあ、ぬい先輩、地方の大学に入学しさえすれば、後一年で絶対に引っ越せるんですからもう少し我慢しましょ?」
「おい止めろ。ぬいたんは俺と一緒にキャンパスライフ送るんだよ」
「予め志望校教えておきなさい。絶対に其処には入学しないから」
「俺がぬいたんに合わせにいくから大丈夫」
「女子大行くわ」
「ぬい先輩、ぬいたん呼びについてはツッコまないんすね......」
「諦めた」
「ああ......」
察した様子で頷く蜂須賀。最初の方こそ、あだ名で呼ぶと怒られたが、最近はどんな呼び方をしても怒られない。
許容されているのか、無視されているのかは分からないが。
「そ、そんなことよりぬい先輩、梓達、叶向ちゃんに近付くための作戦、考えたんですよ!」
「あちょ、アズアズそれは......!」
「......は?」
空気が凍り付いた。俺は分かる。これは不知火が割とガチでキレた奴だと。
「アズアズ、ちょっと、ぬいちゃんの相手してて......俺トイレ......」
そう言って俺がそそくさとその場から退避しようとすると、不知火が素早く俺に近づき、首根っこを引っ掴んできた。
「人間未満のお前にトイレなんて不相応だわ。糞尿なら此処で垂れ流しなさい」
そう言って彼女は俺の首根っこを掴む手を離したかと思うと、そのまま俺を地面に押し付けてきた。
「ごめん! ......ほら、その、やっぱり、俺、叶向ちゃんのこと知らないしさ。叶向ちゃんのことを知ってる奴を頼った方が良いかな、と思って」
「言いたいことはそれだけ?」
心底軽蔑したような、冷めた目で俺を文字通り見下す不知火。ヤバい。これは本当にヤバい。
「待って、悪かった! 不知火が叶向ちゃんと仲直りしたがってるのをアズアズと鈴木にバラしたのは! でも、それは全部不知火の為で......いや、本当にごめんなさい」
「何お前。バラしたの、梓だけじゃないの?」
しまった。余罪を自らバラしてしまった。
「......ごめんなさい。本当にごめんなさい」
「お前はそれしか言えないの?」
ボスボスと不知火は俺のことを軽く蹴ってくる。痛くはない。
「あ、あの、ぬい先輩、レイグン様も悪気があった訳ではないでしょうし......」
「悪気が無いならこの場から逃げ出そうとしたりしないわ」
「確かに......梓たん、納得。ぬいたん、やっちゃって良いすよ!」
おい、テメエふざけんな。
「・・・・」
「ああ、いだいいだいっ! ぬいもち、無言で髪引っ張るの止めて! 抜けちゃうから!」
「お前が私の為に行動してたのは分かる。だから、お前のその無神経さも許してやらないこともないわ。......でも、何かムカつくから殴らせなさい」
「そ、そうか......ゴホッ。許して貰えて......ゴホッ......良かったよ......ゴフウッ......ぬいたんに絶交されたら......ヒグウッ......マジで悲しいから......ッグウウ」
「よく、腹パンされながら笑顔で喜べますね。ドMにしか見えませんよ同志レイグン」
「コイツがマゾなのは証明するまでもない公理よ」
「あそっかあ......」
「アズアズ、マジでどっちの味方なんだよ」
「オモロイ方の味方やで」
「終わった......」
気が収まるまで俺を殴り続けたステラは『はあ......』と溜息を吐き、手を止めた。
「で、何? 一応、話してみなさい、叶向に近づくための策という奴を。......つまらない策なら完全に縁を断つから」
こっわ。
「いや、その、ぬいかなの方はぬいもちと違ってまだ態度が硬いからさ。少しずつ距離を詰めていったら良いんじゃないかと思ってさ。具体的には7月8日の叶向の誕生日にプレゼントをそれとなくあげるとかさ」
「プレゼント、って、私が渡すの?」
意外にも不知火はノリ気な様子でそう聞いてきた。『愚策も愚策ね。くたばれ』とか言われると思ってたんだが。
「それでも良いけど、流石にそれはハードル高いだろうから俺とか蜂須賀が代わりに渡しても良い」
「成る程......」
「私どもの作戦はお気に召して頂けましたでしょうか」
「一応、考えておくわ。お前も相談に乗りなさい」
「勿論」
「梓もいつでも相談乗りますよ!」
という風に何とか不知火との絶縁を回避した俺であった。




