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二十六挺目 作戦会議


「え? 霊群先輩、まだ、言ってるんですかそれ。確かに声とか似てる自覚ありますけど、私はフォスフォレちゃんの中の人じゃありませんって。私は姫の大ファンなだけです!」


 エヘンと話す不知火叶向、通称ツインテちゃん。あの身バレ事件から数日後の放課後、俺は彼女の部室を訪ねてフォスフォレちゃんと叶向の関係について聞いてみた。そして、返ってきた答えはやはり、予想通りのもの。

 これで、実は叶向もぬいもちと交代制でフォスフォレちゃんしてましたとかだったら面白かったのに。


「蜂須賀もだし、フォスフォレちゃん好きの人が周りに沢山いる事実に俺は感動しているよ」


「フォスフォレちゃんの声めっちゃ良いですよね。こう、耳障りじゃないというか。こう、耳に馴染む感じ?」


 ......激しく同感はするが、ぬいかなの耳にフォスフォレちゃんの声が馴染むのは実姉の声だからなのでは。


「あー分かる分かる。口悪くて、たまに見せる鋭い優しさが可愛いよな」


「ぶん殴りますよ。あのクソ女の話なんてしてません。それに、アイツの優しさは全部、見返りありきの偽善です。騙されないで下さいね。アイツ、ああ見えて承認欲求の塊のメンヘラ女なので」


 そのクソ女を『姫』と呼んでいた事実を知ったとき、叶向はどんな顔をするだろうか。


「でも、高校生になってからのぬいもちについては何も知らないだろ? ぬいかなは」


「......人はそう簡単に変わりませんよ。こうやって、第二の人生を歩もうとしても何処かで歪みが出るものです。それについては私がよく知っている」


 自嘲気味にそう言うと叶向は顔を手で覆い、俯いた。


「変わってないんですよ。私も、アイツも。今に見てて下さい。アイツの本性が、いつか必ず現れることになります。貴方はそれを受け止め切れますか?」


「......ぬいかなの本性も鈴木が受け止めてくれると良いな」


「言いますね先輩」


⭐︎


「グーテンターク、と。レイグン様、わざわざ、梓たんを喫茶店なんかに呼び出して何の用です?」


「......アズアズも分かってるだろ」


「......成る程。あのことですか」


「ああ、あのことだ」


「......フォスフォレちゃんがこないだ、急に配信をストップしたことですね」


「いや違えわ。別に良いだろそれは」


 俺がそうツッコんだ瞬間、蜂須賀はドンッと机を叩き、立ち上がった。


「良い訳無いやろ! アンタ、アンタあっ......! それでも、フォスナーか! フォスフォレちゃんが今まで急に配信ブッチすることなんか無かったやろ! もっと、心配せえや!」


 捲し立てるようにそう叫ぶ蜂須賀。何なんそのキャラ。


「フォスナーて......リスナーとフォスフォレをかけた、造語なんだろうが、ファスナーと語感似すぎだろ」


「こんフォレとかいう、コンソメみたいな語感の造語作るアンタに言われたくないです」


 この返しは上手い。


「あ、アズアズ。フォスフォレちゃんのグッズ余ってんだけど、要らないか? ほれ」


 と言って俺はカバンの中からフォスフォレちゃんのキーホルダー、シール、サイン色紙なんかを出して机の上に置く。


「は? え? へ? いや、余るってなんですか。推しのグッズが余ることなんてない筈でしょ。てか、何でこんなに持ってるんですか。全部、CDの特典じゃないですか」


「......何というか、フォスフォレちゃんから貰った。初期からずっと、応援してるから」


 実際はフォスフォレちゃんではなく、ぬいもちから口止め料として大量に貰ったものだが。


「何それ羨ま死刑」


「フォスフォレちゃんもきっと、他のフォスナーの手に渡った方が嬉しいだろうからさ。受け取ってくれよ」


「......成る程お。分かりました。有り難く頂きます。良いなあ、フォスフォレちゃんからのプレゼント」


 正直、俺の中はフォスフォレちゃんとぬいもちの関係について言いたい気持ちでいっぱいだ。が、其処は義理堅い俺。ぬいもちを裏切るようなことはしない。


「遅れて悪かった」


 そんなやり取りを俺と蜂須賀がしていると、遅れてこの話し合いのもう一人の主役が到着した。


「あ、貴方は確か、叶向ちゃんの......」


「『遊び担当の男』鈴木秋也です」


「アッキー先輩ですね。私、叶向ちゃんの友達の蜂須賀梓です。アズアズでも、梓たんでも、アズちゃんでも、アズリエルでも、どんな呼び方でも良いですよ! あ、梓たん、後輩なので敬語じゃなくてオーケーですよ!」


 蜂須賀の距離の詰め方えぐいな。お前ら、この前、ショッピングモールで一瞬、会っただけでほぼ初対面だろ。


「あ、ああ、宜しくな......。蜂須賀さん」


 鈴木、引いてるじゃねえか。


「アッキー先輩とアズが呼ばれたってことは、もしかしなくても、今日のテーマって『あの姉妹』ですか?」


「......ああ。望奈と叶向の仲のことだ」


「うーん。梓たんもあの二人には仲良くして欲しいですし、あんまりこういうこと言いたくないんですけど。それって外野が口を出して良い問題なんですかね。あの二人が現状に満足してるなら......」


「望奈は和解を望んでる」


「あ......そうなんですか」


 蜂須賀の顔が強張る。ぬいもちが和解を望んでいる以上、俺と蜂須賀はそれを手助けしてやらなくてはならない。が、この問題がそう単純な問題ではないのも事実。

 その辺が蜂須賀が顔を硬くした理由なのだろう。


「叶向ちゃんの方はどうなんだ?」


「お前と不知火さんと違って、俺は叶向と家が近い訳でもなければ、アイツの数少ない友達って訳でもない。だから、それほど叶向のことを分かってる訳じゃないが......」


と、鈴木は前置きをした上で難しい顔をしながら


「あっちはあんまり、不知火さんと関わりたい感じゃなさそうだ」


と、言った。

 分かってはいたが、キツい言葉だな。『関わりたくない』って。


「ぬい先輩が『叶向には悪いことをした』という姿勢なのに対して、叶向ちゃんは『私は確かにやることをやったが、悪いとは思っていない』って感じの立場なので難しいですよねー」


「中学生のときの二人が起こした、一連の争い、そのトラウマの乗り越え方が違ったんだろうな」


 『トラウマの乗り越え方』という抽象的な事柄を二人の態度の違いの理由として指摘する鈴木。俺は彼に首を傾げた。


「というと?」


「叶向はあの一件に苛まれながらも『自分は悪くない。悪いのは全部、姉のせいだ』と自分を正当化することで自らをトラウマから守った。それに対して不知火さんは......」


「『何もかも、自分が悪い。全て自分が招いたことだ』と自分を悪に仕立て上げ、自分を責め続けることで逆にトラウマから脱した、と?」


 鈴木の言いたいことが分かった俺は彼の言葉にそう続けた。確かに不知火は毒舌家だが、自分のことも良く言わない。自分がどれだけ酷い目に遭っても......虐めに遭っても、彼女はそれに対抗しようとはしない。

 それどころか、彼女は『自分が虐められている状況』を受け入れてしまっている。それは、一種の自傷行為なのではないだろうか。


「当事者じゃない私が言って良いことではないと思いますけど、どっちも厄介な『自己解決』をしちゃった感じですね」


「アズアズは割と当事者だと思うけどな」


「......どっちにしろ、叶向に和解の意思が無い限り、俺達がどうこうするのも違う気がする」


「ぐぬぬ。でも、ぬいもちの頼みだし」


「不知火さんの肩持ちまくるの止めろ。中立であれ、中立で。俺も叶向に肩入れしてないんだから」


 だって俺、ぬいもちの味方でありたいし。


「......そういや、叶向ちゃんの誕生日って、もう少しじゃなかったっけ」


 不意に蜂須賀がそう言った。


「7月8日だ。七夕にギリ間に合わなかったとか言ってたな」


「流石、彼氏。ちゃんと、覚えてて偉いな」


「いや、アイツの中で俺はそんなじゃないと思うけどな......。蜂須賀さん、それがどうかしたのか?」


「んや、ほら、いきなり、『仲直り』ってのは難しいし、叶向ちゃんもそれを望んでない訳だからさ。誕生日プレゼントをそれとなくあげる、くらいから始めても良いんじゃないかな、って」


「ああ......」


 悪くはない。そう思った俺はコクコクと頷く。そして、次の瞬間にはある疑問が湧いてきた。


「アズアズ! ぬいもちの誕生日って、何時か知ってる!?」


「え? あ、いやあ......知らないですね」


「うわ、もう過ぎてるかもしれないじゃねえか。特にアイツと出会ってから今日に至るまでの間に実は有ったとかだったら最悪なんだが。うわあ、めっちゃ心配になってきた......」


「何処までも不知火さんファーストだな」


 呆れる様にそう言う鈴木。確かに俺、生活の軸にぬいもちを置いてるよな......。


「梓たんもぬい先輩の誕生日、知りたいなあ。分かったら教えて下さいね」


「いや、お前も来い」


「......へ?」


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