二十三挺目 ぬいかな
「叶向ちゃんの調子は?」
「最悪」
「そっかあ......」
鈴木の返答に溜息を吐く俺。分かってはいたが、やはり、ぬいもちとツインテちゃんの和解は容易では無さそうだ。
「不知火さんは?」
「ちょっとだけもちっとなった」
「は?」
「何でもない。お前は聞いたのか? 叶向ちゃんからあの姉妹に何があったのかを」
「......一応はな。叶向視点ではあるけど。お前もか?」
「ぬいもち視点だけどな」
どうやら、俺も鈴木も彼女らに信頼されてはいるらしい。問題は叶向の不知火に対する感情だが。俺は彼に叶向があの後、不知火について何と言っていたかを聞いた。
「あんま、俺の口からは言いたくない。直接、聞いてくれ。叶向、お前のことは結構、信頼してるっぽいから話してくれる筈だ」
「いつ俺は彼女の信頼ポイントを上げたんだ」
「さあな......割と気に入ってるみたいだぞ、お前のこと」
「それ自分で言ってて、焦ったりしないのか」
「......お前には不知火さんが居るから大丈夫だと思ってる」
「不知火が聞いたら黙ってないぞ、その台詞」
ということで、放課後、俺は部活に行く前に生徒会室を訪れた。
「ツインテちゃん、居る?」
コンコンと扉を叩く。
「あ、はいはい、居ますよ。......って、うわ、霊群先輩」
うわ、って言うな。ジャガイモに芽が出てた時の反応じゃないか。
「ツインテちゃん呼びの時点で気付けよ」
「それもそうでしたね......。あ、秋也さんなら、今、職員室ですよ?」
「ツインテちゃんに用が有って来た」
俺の言葉が彼女の耳に届いた正にその瞬間、彼女の表情は途端に厳しいものになった。
「先日は申し訳ありませんでした。ですが、不知火望奈の件についてであるならば、お引き取りを」
「......ツインテちゃん」
「聞かされたのでしょう。あの女から、私について。どうせ、自分を悲劇のヒロインに仕立て上げたフィクション要素満載の物語でしょうが」
こんなことを言ったら二人に怒られるかもしれないが、叶向と望奈、二人の声質が似ているのは勿論、声色まで似ていた。やはり、仲が悪くても姉妹は姉妹ということか。氷柱のように冷たく、鋭い叶向の声は不知火のそれにそっくりだ。
「バイアスが掛かってたのは間違いないだろうが、どっちかと言うとアイツは自分のことを『悲劇のヒロイン』というよりも『滑稽な悪役』みたいに言ってたぞ」
「え? マジですか、それ?」
「うん。かなり自虐的だった」
俺がそう言うと、叶向はクスクス笑い始めた。
「はっはっはっはっ、何ですかそれ! 遂にイカれやがったかあのクソ女! 良いですよ、霊群先輩。話しましょう。あの女について」
......まあ、そうなるよなあ。
「参考程度に言っとくと、アイツの話を聞いたのは俺だけじゃなくて、蜂須賀もだからな」
「は? 何それ」
先程まで爆笑していた叶向が急に真顔になった。
「え......?」
「梓に知られたってこと? 私が中学生時代にしてたこととか、家庭事情とか」
「まあ、そうだな」
「終わった」
叶向は頭を壁に打ち付ける。
「更に言えば、蜂須賀は望奈とかなり仲良くなった」
「何でっ!? え、あの女、ちゃんと言ったんですか!? あの女が梓を道連れに私を嵌めたこと」
「言ってたな。正直に。事細かに」
「梓あっ!? 聖人すぎない!? おかしいでしょっ!? あずあずうううああああああ!」
またしても頭を壁に打ち付ける叶向。大丈夫かこれ。
「あのさ」
「え、あ、はい。何ですか」
「望奈のこと、正直に言ってどう思ってる?」
「イカれ女」
「......そっかあ」
「逆にどうして霊群先輩はアイツと仲良く出来るんですか? 教えて下さいよ。聞いたんでしょ? アイツが何をやったのか」
まるで俺を責めるかのように叶向は聞く。その目は俺に何かを訴えかけているようであった。
「仲良く出来ているのかは謎だけど。......そうだな。鈴木に話したんだろ? 過去にあったこと」
「ええ」
「はっきり言って、ツインテちゃんも結構なことやってるじゃん? でも、鈴木はツインテちゃんと仲良くしてる。それと同じだよ」
「......つまり、先輩はアイツのことが好きってことですか?」
あ、鈴木がツインテちゃんを盲愛してるのちゃんと分かっているのね。
「多分」
「多分?」
「よく分からないんだよ。はっきり言って、あのグサデレに好きになる要素なんて見つからない。口は悪いし、生活は不健康だし、そもそも、人嫌い。......なのに、何か気になるんだよな。アイツを笑顔にしたいなって思う自分が気付いたら居る」
そんなことを言い放つ俺を叶向はイライラとした様子で睨んだ。怖い。めっちゃ怖い。やっぱり、ぬいかな、ぬいもちの妹だわ。
「ムカつきますね、何か。完全に恋してるじゃないですか。あの女に。もっと、良い女居るでしょ」
「付き合って下さい」
「殴りますよ」
怖い。
「そもそも、俺に女子の知り合いなんて殆ど居ないからなあ。消しゴム拾って貰っただけで恋しちゃうような童貞男子だから、ぬいもちにも恋しちゃってる可能性はかなりある」
「ええ......。まあ、悔しいですけど、アイツ、顔は良いですから。胸も有りますし。体だけ使い捨ててやるのなら大賛成ですよ」
ぬいもちよりもブラックかもしれない、この娘。後、ぬいもちが巨乳って何その情報。初耳なんだけど。脱いだら凄いの? もちもちなの?
「あのな、簡単に言うが、ぬいもちはそんなガード甘くないからな。全身剣山だぞ、剣山。近寄ったらグサッだぞ」
「男含めて沢山の友達が居る私とは正反対の、陰険なぼっち女ですから、確かに難しいかもしれませんね。......てか、居るじゃないですか。霊群先輩の彼女候補、優良物件が」
「誰だよ」
「蜂須賀梓」
「それは無い」
「ええ〜良い娘ですよ、梓」
「それは知ってる」
蜂須賀が単純に優しくて面白くて良い奴なのは知っているが、どう足掻いても異性としては見ることが出来ない。どっちかというと、悪友って感じだ。
「あ、もうこんな時間か。そろそろ、行きますね、私。別の部屋で会議があるので」
「おう。あ、最後に一つだけ聞かせてくれ」
「......何ですか」
「ぶっちゃけ、フォスフォレッスセンス姫だったりする?」
俺の言葉に叶向は驚いた様子で目を見開くと、意味あり気に笑って去っていった。




