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二十一挺目 あずあず


「その後、私達は母に引き取りを断られて親戚を頼ることになった。その親戚は何と言うか......融通の効く人でね。私が頼んだら此処で一人暮らしをさせてくれたのよ。あの子と同居とか、無理そうだったし。長くなって悪いわね。これだけよ」


 不知火はそう締めくくり、長い昔話を終わらせた。当然のことながら蜂須賀は筆舌に尽くし難い、何とも微妙な表情をしながら俯いている。

 あまりにも壮絶な彼女の昔話に対しての感想が思い付かない。


「あの、不知火の過去に何か言うつもりはないんだけどさ、一つだけ言って良い?」

 

「好きにしなさい」


「不知火の自殺止めた通行人の男、多分、俺だわ」


「......は?」


 不知火は何言ってんだコイツ、と言いたげな表情で俺を睨む。


「中学生の時にこの近所の歩道橋で自殺しようとしてる女の子を助けたことがある。確か、幻中? さんらしき女の子も一緒に居た気がする」


「......あの時、自殺に失敗してから私は再度自殺をする勇気も出ず、今日に至るまで私は惰性で息をしてきた。お前が私をこんな人間として生かしたのよ。お前がこんな隣人を持ってしまったのも、全部自己責任」


 苛立った様子で歯をガタガタと言わせ、明確な憎悪を持って不知火は俺を睨む。そんな彼女に俺は笑った。


「そっか。あの時、お前を助けたお陰で俺はぬいもちに看病して貰えたり、デートして貰えた訳だな。今日のデートはアレだったから、また行こうな」


「頭沸いてるんじゃないのお前? それとも、蛆虫か何かに脳味噌食い荒らされた? ああ、蛆もお前の脳なんて食わないか」


「俺は不知火が隣人で良かったと思う」


 俺は真剣な表情で彼女の手を両手で握り、目を見て、そう断言した。


「何時も罵倒されて、ぞんざいに扱われているのにどうして......妹やその友達の人生を平気で狂わせようとする屑だと知ったのにどうして......どうしてお前はそんなことを言えるの」


「それ以上に、ぬい先輩の魅力を知っているからじゃないですか?」


 すると、今まで沈黙を貫いていた蜂須賀が突然、不知火にそう言った。


「魅力なんて私にある訳......」


「ぬいもちは優しい。俺が風邪をひいた時、看病してくれただろ」


「あれは私の自己満足の為にやったこと。お前の為じゃない」


「だとしてもだよ。俺は不知火と居ると楽しい。デートの時に言っただろ。俺はお前と出会ってから、不知火のことばっか考えてるんだよ。だから、俺は不知火が生きてくれてて嬉しい」


 決して不知火への慰めではない。それは俺の本心から出た言葉だった。彼女と出会ってからまだ数日しか経っていないが、彼女は俺の生活の中に完全に溶け込んでいた。まるで、元から居たかのように。


「お前の気持ちなんてどうでもいい。......ただ、その、蜂須賀さん」


「梓で良いですよ」


「梓、本当にごめんなさい」


 不知火に大きく頭を下げられた蜂須賀は少し、悲しそうな笑みを浮かべる。


「まあ、ちょっと、ビックリしましたけど、大丈夫です。はい。その、ぬい先輩に対しての怒りとかは一切無いので。ただ、その......やっぱり、キツイなあ。玲奈ちゃん、そんなことしてたんだ......」


 プルプルと震えながら蜂須賀は悲しそうにそう言った。


「幻中玲奈の、知り合い、なのよね。貴方」


「......玲奈ちゃんは親友です。今は何処に居るか分からないけど。ある日を境に不登校になっちゃったから」


 ある日、というのはきっと、不知火が自殺を試みたあの日のことなのだろう。


「本当に、ごめんなさい。あの時の私は貴方のことを妹を追い詰めるための駒としか見ていなかった」


「だから、良いですって。ただ、お願いです。これからは、仲良くしましょう。私、ぬい先輩に無視されるの辛かったので」


 そう言うと蜂須賀は席を立ち、不知火に抱き付いた。充足感に包まれた様子の蜂須賀は不知火から聞いた話がまるで無かったかのように嬉しそうに笑っている。

 一方、抱き付かれた側のグサデレは困り顔だ。


「仲良く、ね。悪いけどそれは」


「ぬい先輩? 梓たんの頼みでもダメですか?」


「......善処するわ」


 弱い。あの不知火が蜂須賀に負けている。


「なあ、不知火、じゃあ、俺とも仲良く......」


「黙れ」


 何でやねん。


「そもそも、霊群先輩、ぬい先輩とデートするレベルで仲良いじゃないですか。それ以上を望むのは強欲ですよ」


「そっかあ。確かにそうだよな。幾ら、飯を人質に取られているとは言え、不知火ってそんな簡単に人と遊びに出掛けるような奴じゃないもんな。お前、意外と俺に心開いてくれてたのか」


「いえ、普通に今日、お前に付き合ってやったのは飯を人質に取られていたからよ。思い上がるな」


 真顔。


「......レイグン様泣きそう」


「レイグン様、ファイト。てか、霊群先輩、もしかしなくても、フォスフォレ姫の配信見てる?」


「ああ。その感じだと、俺のこと知ってるな?」


「知ってますとも! アレですよね。『レイグン様』でお馴染みのSNSのリプ欄だろうと、動画配信サイトだろうと、グッズサイトのレビュー欄だろうと、フォスフォレ姫関係であれば何処にでもいる人ですよね。SNS、フォローしてますよ」


「其処まで認知されてたのか...... 最早、お前、レイグン様のファンだろ」


 いかんいかん。特定のファンが目立ち過ぎるのはあまり良くないぞ。もう少し、控えめにしなくては。


「お前、その配信者のこと好き過ぎでしょ」


「恋は盲目だからな。フォスフォレちゃんの歌に一目惚れした」


「目使ってないですやん」


「確かに。一耳惚れ?」


「信じられないくらい語感悪いわね。まるでこの男の要領みたい」


「要領悪いのはぬいもちもだと思うけどな......?」


「二人とも4GBくらいですよねー。あ、梓たんは128GB」


 まあ、何やかんや不知火と蜂須賀は仲直り出来たみたいなので良かった良かった。後は、ツインテちゃん......とは難しいだろうな。

 しかし、不可能ではない筈だ。不知火は過去に自分が叶向にしたことを反省しているらしいし、叶向次第なところはあるが、きっと。

 別に彼女らが絶対に仲を修復しないといけない訳ではないが。不知火姉妹が仲良くしているところを見てみたい、俺はそう思わずにはいられなかった。

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