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十八挺目 嫌悪同盟


 結局、あれから私と叶向が言葉を交わすことは無かった。が、家には何時にも増してドロドロとした異様な空気が漂っていたのを覚えている。

 私はあの日のことを発端に同学年のあらゆる人間から嫌がらせを受けるようになった。中でも最も心に来たのは以前、撮られた動画をネットに上げられたことである。


『ネットに上げられたくなければ、変なことはするな』


 と、言っていたというのに何故、と苛立ちを覚えた。通常の人間よりもかなり感情の振れ幅が狭く、半分諦観の境地にいた私だったが、それでも流石に恥ずかしく感じたのを覚えている。そして、それと同時に本格的に身の危険を感じた。

 あんなことを平気でする連中だ。何をされるか分からない。そう思い、何時も同じように体育館の用具置き場に隠れていた昼休み。突如、彼女は私の前に現れた。


『不知火望奈先輩、ですよね』


 涼しげで綺麗な少女の声がした。


『......!?』


『どうか警戒しないで下さい。私は貴方の味方です。いえ、利害の一致する関係、と言った方が良いでしょうか』


『何を、言っているの? 貴方、誰?』


『初めまして。二年生の幻中玲奈(まもなかれいな)と、申します。不知火先輩のおかれている状況は大方把握しています。妹さん......不知火叶向さんの差金で虐めに遭っているのですよね?』


 静かに、落ち着いた口調でそう私に問う彼女の目からは何処か狂気が感じられた。目の前に居るのは私なのに、彼女の目は私を見ていない。その先にある、何かを見つめている。


『ええ。それで?』


『復讐、しませんか? いえ、そんなことを聞くのは野暮ですね。貴方は既にその心算なのでしょうし』


『一体、何を言って......』


 ただただ私は恐ろしかった。彼女が、彼女の声色が、彼女の目が。とてつもない嫌悪を感じた。


『叶向さんは幅広い人脈と強い影響力を持っています。三年生の女子のリーダー格とも繋がりを持っており、その力はご存知の通り、他学年にまで影響しています』


『......ええ』


『しかし、皆が従いたくて従っている訳ではない。それは貴方も感じたことがあるのでは?』


 幻中玲奈の言葉を聞いて、脳裏に過ぎったのはこの前、私を空き教室まで連れて行った少女の姿。彼女は私をあのような目に遭わせることは本意で無かったようだった。


『そう、ね』


『影響力により、人を従わせる人間関係は大きな力を持ちますが、同時に脆弱なものです。特に、中学生のそれは。少しでも叶向さんが周りからの信頼を失うようなことをすれば、たちまち彼女に従っていたものは彼女の前から去り、逆に彼女が虐められることになるでしょう』


『......まさか、私にそれをさせる気?』


『叶向さんのお姉様であれば、さほど難しいことではないかと。何か問題を起こして、彼女にその罪を着せれば良いのです』


 幻中玲奈は私に諭すかのように冷たい声でそう言った。あの子の心の支えである人間関係、それを破壊したらあの子はどうなってしまうだろうか。

 そう考えただけで胸の高鳴りを感じてしまった。


『何故、貴方は私にそんなことを?』


『貴方が叶向さんの地位を失墜させてくれれば、私にもそれなりの利がある、というだけです。言ったでしょう。私と貴方は利害が一致している、と』


『......貴方も、あの子に何かを?』


『間接的に、ではありますが。叶向さんは私のことなど知らないでしょうし。ただ、現在、彼女を頂点として構築されている『スクールカースト』とでも言いましょうか。それの被害を受けたことは確かです』


『成る程。それで、貴方には何か具体的な策があるの?』


 私の問いに彼女はニコリとも笑わずに頷いた。

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