十五挺目 話
「どうぞ〜! 梓たん特製のカルボナーラパスタです!」
「半分くらい俺が手伝ったけどな」
「細かいことは気にしなくて良いんですよ! ささ、ぬい先輩! 食べて下さい!」
「......ありがとう」
か細い声で不知火は礼を言うと、弱々しい手付きでフォークを持ち、パスタを食べ始めた。
「どうです? どうです? 美味しいですか? ヤミーですか? イズイットデリシャス?」
食い気味に感想を聞く蜂須賀。彼女の問いに不知火はコクリと頷いた。
「ええ、とても。......あ、ごめんなさい。見苦しい物を見せたわね」
不知火は顔にある痣を手で隠しながらそう謝った。何時も、高飛車で、毒舌で、鋭い目つきをしている不知火だが、今の彼女からはそのどれもが欠けている。俺はその事実に胸が何と無く、痛んだ。
しかし、励まそうにも俺は彼女について何も知らない。知らなさ過ぎる。頓珍漢な励まし方をすれば彼女を更に傷付けることになってしまうだろう。そう考えると、俺には何もすることが出来なかった。
「へ? ああ、別に梓たんは気にしてませんよ。私も足に結構、大きな傷跡ありますし。見ます?」
「......いえ、大丈夫」
「アズアズ、粉チーズある?」
「あ、はい。ありますよ。取ってきますね。暫しお待ちを!」
そんな風に俺達は微妙な空気感の中、決して和やかとは言えない食事を終え、アズアズに紅茶を淹れてもらった。
「霊群先輩とぬい先輩、この後、予定とかあります?」
「んにゃ、俺は別に」
「......私も」
「だったら、もうちょい、三人でブレイクタイムを満喫しましょ。あ、そだ。美味しいクッキー有るんですよね、取ってきます」
そう言って蜂須賀は席を立った。
「なあ、不知火。これはあくまで俺の独り言だから聞き流してくれて良いんだが」
「・・・・」
「蜂須賀、良い奴だよな」
「......そうね」
「でも、お前、意図的に蜂須賀と関係を持たないようにしているよな?」
「......ええ」
「アイツに何か後ろめたいことでもあるのか?」
「......うん」
「そっか」
「......お前に言われなくても、分かっているわよ。私の取っている彼女への態度は不誠実なものだってことくらい」
「俺何も言ってないけどな? てか、独り言に一々、相槌打ってくれてありがとう。でも、そうだな。お前、俺への態度も不誠実そのものだけどそれに関してはどう思ってる?」
「別に何も」
「だよな。知ってた。でも、蜂須賀に対しての自分の態度には思うことがあるんだろ? だったら、俺は自分に嘘は吐かない方が良いと思うがね」
不知火は無言で紅茶を啜り、溜息を吐いた。不知火が蜂須賀に抱いている後ろめたさの正体は何なのか、不知火と叶向は何故あれほど仲が悪いのか、俺は本当に何も知らない。
だから、何も知らない俺に出来るのはこんなアドバイスを送ることだけだった。
「あった、あった! クッキー有りましたよ! お待たせしました! どうぞ、お納めください!」
それから2、3分後、蜂須賀がクッキーの箱を持って帰ってきた。
「お、サンキュー。頂くわ。......美味。バターの風味が効いてるな」
「でしょ、でしょ!? ほらほら、ぬい先輩も食べて下さい!」
「......ねえ」
クッキーを食べることを催促する蜂須賀に不知火は真剣な表情で話しかけた。
「へ? あ、ど、どうかしました?」
「座ってくれるかしら」
蜂須賀は頷くと無言で椅子に座った。蜂須賀が何も言わないとは、相当、不知火の表情と声が緊張を煽ったらしい。
「話したいことがあるの。貴方とお前に」
「ぬいもち、二人称の格差エグくないですか」
「話したいこと、ですか?」
「......妹と私の関係、そして、私が貴方を露骨に避けていた理由、について。話したい」
手と声色を震えさせながら不知火はそう言った。今にも泣いてしまいそうな程に彼女はビクビクとしている。
「あはは〜。やっぱ、私、ぬい先輩に避けられてたんですね。全然、心当たりないですけど」
「......先に言っておくわ。ごめんなさい。本当に」
「え、何。めっちゃ怖いんですけど。まだ何も言ってないのに謝らないで下さいよ! 梓たん凄い心配なんだが!? え、もしかして、知らないうちに何かされてた!? ぬい先輩、もしかして梓たんのことが好き過ぎて盗撮とかしてました!?」
「この空気でよくボケられるなお前」
「えへへー」
褒めてない。
「てか、不知火、蜂須賀は分かるとして何で俺にも話そうとしてるんだよ。あ、その場に居たから仕方なく、ってことなら俺、此処らでお暇するぞ?」
不知火は俺の言葉に首を振った。
「駄目。帰るな。お前も話、聞きなさい。......お前にも聞いておいて貰いたいの。妹と知り合いみたいだし」
「そか。なら、聞くよ。ゆっくりで良いからな」
不知火はゆっくりと頷いた。




