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十ニ挺目 疑問


 電車に乗ること十数分、駅直結型のショッピングモールへと俺達は到着した。


「ぬいもち、行きたい店とかある?」


「無い。お前が来たくて来たんでしょう。お前が行きたい店に着いて行く」


「あ、そう。じゃあ、本屋行って良い?」 


「好きにしろ」


 デートってこんなピリピリしたものなのか。霊群さん、初めてだから分かんない。


「ぬ、ぬいもち?」


 本屋に着いても尚、むすっとした様子の不知火に俺は話しかけた。


「何」


「欲しい本とかあったら俺が買ってやるからな? 折角、付き合ってもらってるんだし」


 こんなこともあろうかと、資金は多めに持ってきている。


「要らないし、買うとしても自分の金で買うわ。お前に借りを作りたくない」


「・・・・」


 沈黙する俺を見て、不知火は鼻を鳴らした。


「私と出掛けたところで、楽しいことなんて何も無いと分かったでしょう? これに懲りたら二度と私と何処かに行く、なんて馬鹿げたことをしないことね」


「いや、確かにさっきから気まずいのは確かだけど、ワンピース姿の不知火を拝謁出来ただけで充分、満足してる」


 そう話す俺を不知火は暫し睨むと、割り切ったように溜息を吐いた。


「......あっそ」


 グサッ、ではなくツンッ、とした反応を示す不知火にキュンッ、としながら本を買い終えると、突然、彼女は俺の肩を軽くつついてきた。


「私、電気屋に用がある。ちょっと、行ってくるからお前は別の店でも見ていなさい。暇でしょうから」


「いやいやいやいや、行くって! 俺も! 置いてかないで!?」


「......好きにしなさい」


 不知火はクールにそう言うと、3階の電気屋に行くためのエスカレーターを目指して歩き始めた。


「電気屋で何買うんだ?」


「お前には関係ないでしょ」


「いや、そうだけど。気になるじゃん。教えてくれよ」


「......パソコンを見たいだけ。今の奴、古いから」


「ぬいもちって、パソコン使うんだな」


 俺もパソコンは持っているが、基本的にゲーム以外の用途には使わないので宝の持ち腐れと言えないこともない。


「一応。別に大したことはしないけど。アニメ見るとか」


 普段、自分のことを一切話そうとしない不知火が、俺の質問に答えてくれたことに俺は感激してしまった。俺の感激のハードル低いな。

 いや、不知火に質問に答えて貰うことのハードルが高すぎるのか。


「これ良い......高いけど、手が出せないこともない、か。これは......」

 

 電気屋に着き、パソコン売り場に行くなり何だか真剣に悩み始めた不知火。パソコン初心者の俺からしたらさっぱり何のことか分からない。

 ただ、一つ思うことがあるとするならば


「俺、一つのことに対してそんなに熱中してる不知火初めて見た」


何に対しても興味が無さそうで、冷め切った態度を取っていた不知火がパソコンやその周辺機器を吟味している様子はとても珍しく、興味深かった。


「......今日は何かを買うのは止めておくわ。もう、私が用のある店は無いから、お前が好きなところに行って頂戴」


 不知火は溜息を吐くと、怠そうにそう言った。


「んー、そうだな。じゃあ、何か美味いスイーツでも食べるか。ぬいもち、何か食べたい物ある?」


「無い」


「そっかあ。無いかあ」


 つまらなそうな不知火を少しでも楽しませようと言ってみたのだが、どうやら彼女はスイーツ類には興味が無いらしい。

 それでも何か食べれば会話の種にはなるだろうと、辺りを見回しているとクレープの店があるのを見つけたり。


「もちもち、クレープは嫌い?」


「その呼び方止めろ。別に嫌いでも好きでも無いわ。食べたことないけど」


 おっと、食べたことないということはまだワンチャンあるのでは? もしかしたら不知火が、初めて食べるクレープのあまりの美味しさに笑顔を見せてくれる、なんてことがあるかもしれない。

 ぬいの笑顔の為なら霊群蒼、なんだってやります。


「すみません。チョコレートストロベリークレープ二つお願いします」


 善は急げ。俺は二人分のクレープを注文した代金を支払う。そして、慣れた手つきでクレープの皮を焼き、素早くソースとイチゴを皮で包む店員の技術に圧倒されながらも、渡されたクレープの一つを不知火に渡した。


「......代金は?」


「俺の奢りで良いよ。大した額じゃないし」


 俺の財布はそこそこダメージを受けているが、それで不知火に喜んで貰えるのなら利潤の方が大きい。

 少ない資源でより多くの利潤を得ることを目指すのが、資本主義社会に生きる人間の本懐だからな。


「お前に借りを作りたくないんだけど」


「不知火が受け取ってくれただけで、借りは返されてるよ。不知火はクレープを食べれてハッピー、俺は不知火に貢げてハッピー、win・winだ」


「......理解し難い価値観だわ」


 と言いつつも、クレープを受け取ってくれた不知火はマスクを取り、出来るだけ痣が見えないようにしながらクレープを一口食べた。思えば、彼女が何かを食べているところを見るのは初めてだ。

 彼女の一口はビックリする程小さく、可愛い。また、一つ彼女について知ることが出来た。


「美味いな」


 俺は豪快にクレープにかぶり付いた。とても美味い。一体、どうすればこんなにもモチモチ感が出るのだろう。


「・・・・」


 不知火は一切、言葉を発さずにはむはむとクレープを食べている。口に合わないということはなかったらしく、俺は少し安堵する。


「如何ですか」


「不味くはないわ」


「ぬいもちが不味くはない、って言うことはそこそこ美味いってことだな。良かった。良かった」


 彼女の笑顔を見ることは叶わなかったが、不知火に少しでも喜んでもらえたなら幸いである。他に不知火に楽しんで貰えそうな店は何だろう。

 ペットショップはどうだろうか。不知火が動物を好きなのかどうかは分からないが、行ってみる価値はあるかもしれない。

 昼ご飯はどうしよう。不知火の好きな物......知らないな。嫌いな物なら料理を作るときに教えてもらっているのである程度分かるのだが。

 どうせなら、『嫌いじゃない物』ではなく『好きな物』を食べて欲しいしなあ。


「......俺、何でこんなに不知火のことで躍起になってんだろ」


 色々考えた末にそんな言葉がポツリと口から出た。


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