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十一挺目 ワンピ


 翌日、俺は目覚ましが鳴るよりも早く目覚めた。時計の針は7時ピッタリを指している。不知火との約束の時間は9時半。7時半に起きれば充分だろうとアラームを設定していたのだが、どうやら、余程俺は彼女とのデートが楽しみだったらしい。

 俺はルンルンと顔を洗い、歯を磨くと、キッチンに行き、昨日の手作りコロッケの残りを温め、ソースと一緒に食パンに挟んだ。コロッケパンの完成である。


「不知火、喜んでくれてたのかな、これ」


 俺はそんな独り言を呟く。我ながらかなりの自信作であるこのコロッケだが、不知火は特に何の反応も見せてくれなかった。

 ......まあ、文句は言われなかったので彼女の口にも最低限合う味だったのだろう。きっと、あれで不味かったら今日のデートも無かったことにされていた筈だ。

 腹ごしらえを済ませた俺は何と無く、スマホを開いた。すると、あの鈴木から連絡が来ていた。


『今日もまた叶向と出掛けるんだが、何処が良いと思う?』


 また、ということはこの『叶向』というのはツインテちゃんのことなのだろう。あの子、そんな名前だったんだ。読み方分からないけど。


『無難にショッピングモールとかで良いんじゃね。てか、俺に聞くな』


『オケ、ありがとう』


 俺がショッピングモールを薦めた理由は簡単、俺も不知火とショッピングモールに行くつもりだからである。もしかしたら、ダブルデートみたいなことが出来るかも......いや、無理だな。不知火の性格上、鈴木も叶向(読み方は知らん)ちゃんのことも拒絶するだろう。

 彼女が拒絶しているのは何も俺だけではないのだから。

 それから俺は服を着替え、フォスフォレちゃんの歌を聴いて時間を潰した後、不知火の家のインターフォンを押した。時刻は9時40分、約束の時間は9時半なので10分オーバーだ。


「ぬいもち、まだー?」

 

「少しくらい待て。バックレるつもりは無いわ」


 すると、直ぐにそんな返事が返ってきた。どうやら、準備の最中らしい。てっきり、彼女のことだし約束を忘れて寝ているのだろうと思っていたので拍子抜けだ。

 ちゃんと約束を覚えてくれていてちょっと嬉しい。


「ごめん」


 そう謝罪したものの、インターフォン越しにはもう返事は返ってこず、次に彼女の声を聞いたのは彼女が扉を開けて実際に姿を現してからだった。


「あ、ぬいもち、おは......」


 家から出てきた不知火に挨拶をしようとした俺は絶句した。


「人の顔を見て固まらないで。そんなに酷い? この服。個人的にはお前の顔の方が数百倍酷いと思うけど」


 確かに彼女の服は酷かった。何やかんや言って不知火とデートをすることに対してかなり緊張していた俺にして良い仕打ちではなかった。


「ワンピ......だと?」


 鎖骨より上の部分には白を、それより下の部分には紺色を基調としたそのワンピースは不知火の容姿と歪な程にマッチしている。フリルの量は少ないが、それでも普段のグサっとした不知火と可愛らしいワンピースのギャップはえげつなく、俺は危うく卒倒しかけた。

 まだ、5月ではあるが、確かに最近は暑い。彼女の着ているワンピースは肩を出すタイプでも無いので5月に着ていても違和感無しだ。


「......そんなに可笑しいなら着替えてくる」


 目をグルグルと回しながらポツリと譫言のようにそう言う不知火。彼女は回れ右をして家へと帰ろうとする。俺はそんか彼女に全力で待ったを掛けた。


「待って! 本当に待って! ぬいちゃんのワンピース、死ぬ程似合ってるから! 単純に似合ってるのと、ワンピ自身が何かエロいのと、ギャップ萌え効果で沈黙の状態異常を付与されてただけだから! 頼む! 着替えないでくれ!」


 俺はどうかこの通りだと、頭を下げた。そもそも、目に光が無いのと、陰気なオーラを放っている点さえ除けば不知火は絶世の美少女なのだ。そんな彼女が俺の為にお洒落をしてくれる日が来るなんて......生きてて良かった。


「気持ち悪い。下卑た目で私を見ないで」


 そう言いながらも彼女は別の服に着替えるのは止めたようで


「早く行くわよ」


と、言ってきた。俺は頷き、彼女と共に最寄りの駅を目指す。


「不知火、目的地が何処か分かってんの?」


「どうせ、ショッピングモールでしょう。買い物したいとか言ってたし。というか、お前が休日、出掛ける場所の候補なんて其処くらいしか無い筈」


 図星である。


「ご明察。てか、何でぬいたん、さっきから俺と目を合わせてくれないの?」


「別に。お前の気色の悪い顔を見たくないだけ」


「顔めっちゃ赤いぞお前。風邪じゃないのか?」


 俺の風邪が移ったのではと心配し、彼女の顔を見ると、彼女は茹で蛸......ほどではないにしても、かなり上気した様子で息を荒くし、目をグルグルとさせ、顔を真っ赤にしていた。


「風邪は引いてない。引いてたら喜んでお前との約束をキャンセルしていたところよ」


 顔を逸らしながら彼女はそう答える。風邪ではないとしたら彼女の顔が赤い理由は、彼女が俺と目を合わせてくれない理由は、何なのだろうか。


「......もしかしてお前、自分のワンピース姿を恥ずかしがってる?」


「違う。お前にこの姿を見られるのが嫌で恥辱に震えているだけ」


「恥辱て、恥ずかしいを言い換えただけだろそれ。てか、だったら何でそんな可愛い服着てきたんだよ。それ不知火が選んだのか?」


 不知火はファッションとかに興味無いイメージだったのだが。


「貰い物なのよ。使わないと損でしょ。......私には絶対に似合っていないと思うけど」 


「似合ってるぞ。いや、似合ってるとかの次元超えてる」


「.......黙れ」


 そう言って彼女はそっぽを向いてしまった。因みにツンデレの『ツン』の部分に相当するであろうこの行動はグサデレにおいては『デレ』の部分に相当する。

 少しでも可愛らしさが垣間見える行動はグザデレの場合、全て『デレ』とみなす。これが鉄則だ。


「言っておくけれど、私はお前を繁殖期の猿の如く発情させるためにこの服を着てきた訳ではないから」


 前言撤回。やっぱり、『グサ』だわこれ。


「結果として俺を発情させることに繋がってるから同じことだぞ」


「消えろ。くたばれ」


「残念ながら今日一日は消えられない。デートしなきゃだから」


「精々、女を横に侍らせて満足感と征服感を得なさい」


「お前は俺を何だと思っているんだ」


「そうだったわ......お前は私に何を言われても全く堪えない、マゾヒストだったわね。そんなお前に女を征服しようなんて気概がある訳ないか」


「待て待て待て待て。暴言を受け流してるだけでM認定はどう考えてもおかしい」


 そう抗議する俺に不知火は溜息を吐き、『さっさと行くわよ』と言うと、歩くスピードを速めた。どう転んでも楽しいデートになりそうな予感しかしない。

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