悪魔の薬
「南も悪魔になったのかもしれない……」
「悪魔?? ……それはどういうこと?」
「あの血の戦争で俺がなんと呼ばれてたか知ってるか。外国からは『悪魔』って恐れられた。
よく考えてみろ、人間が二人で、しかも刀と銃だけで100万人なんて殺せるわけないだろ」
そう、父、つまり刀術の王と銃撃の王はまとめてではなく、一人一人を殺した。しかも100万人も。
そんなの人間じゃない。精神的にも体力的にも無理なことだ。
「確かに、やってることは人間じゃないな」
「そうなんだ、あのとき俺とあいつは人間じゃなかった」
「ん~~、どういうこと?まだよく分からない……」
「薬を飲まされて悪魔にされたんだ。『悪魔の薬』って呼んでるんだが、それはそれは恐ろしい薬だ。全ての精神と神経を殺気に変えて集中させる力があって、正気ではいられなくなる。敵を見ると何が何でも殺そうと勝手に体が動くんだ。確かに普通の軍人の数十倍は強くなる。でも、相当なストレスが脳と体にかかるから下手すると自分自身が死ぬ」
「そんな恐ろしい薬が存在したのか……。じゃあ、南もそれを飲まされたってことか……」
「そうだろう。敵を見つけるとあんな風に目が赤くなる。きっと、鮫坂研究所のリーダーに俺とお前が敵だとプログラミングされたんだろう」
「じゃあ、起きたらまだ僕たちを殺そうとするの?」
「そういうことだ。だから今は、腕の銃弾を抜いて手足を縛っておかないと危ない」
「今は?」
「薬の効き目は24時間だけだから明日は大丈夫なはず」
「そーゆーことか。
……あ、あと南の手が震えてたのは何だったんだ?」
「たぶん『悪魔の薬』の力はロボットの体じゃコントロールし切れないのだろう。それに、あの薬は戦争の後法律で禁止されて全て廃棄処分されたから、奴らは作り直したんだろうけど完璧ではないのかもしれない。」
「ふーーん。
でも明日にはいつもの南に戻るのか……。久しぶりだなぁ〜」
そう言いながら、母の研究室のベッドに横になっている南を眺める。ツヤツヤな白い肌にメイド服で寝ていて、小さく呼吸の音が聞こえる。安心しきってるような顔と潤ってる唇を見てると、無性に指でツンとしたくなる。
なのに、手足を縛られているので少し笑えた。
「あの、翔介。まだ言ってないことがあるんだけど……」
「ん? 何?」
「……1ヶ月くらい前に脅迫状がお前の机に置いてあったの覚えてるか? ……実はあれ、俺が書いて置いたんだ。お手伝いさんも知ってたけど、黙ってもらってた」
「えぇ!? そうなの? なぁんだ」
「うん、本当にごめん。危ないことに翔介を巻き込みたくなくて、もう関わらないようにさせようとしたんだ。でも、余計不安な思いさせちゃったよな……」
「いいや、大丈夫だよ! お父さんは僕の安全を考えてくれたんじゃないか! 僕の方こそ、そんなことも知らずにひどいこと言っちゃってごめんなさい。」
「あぁ……、全然いいよ。
でも、結果的に南を連れ返せたし、良かったな!」
「うん!」
「よし! 今日はここで泊まるぞ! じゃあ食べ物探してくるな」
「あざっす」
この母のいたロボット工場の研究所には食堂もあるから、何か買ってきてくれるのだろう。
*
振り返れば、母と妹が死んでからこんなに心を開いて父と話すことなんて出来なかった。ある意味これも南のお陰なのだ。
父とも仲良くできるようになり、南も連れて帰ることができた。
これから、また明るい日々が続くことを願っていた。
まだ連載中ですがよければ評価もお願いします。




