第21話 一緒にお肉食べようよ♪
ナボン太守の館に戻ると、俺たちは早速、中庭へ直行した。
姫さんがサンドレオ帝国の使者たちと和平について話し合ってる間、神々を見張る。連中が話し合いに余計なちょっかい出そうとするようなら、どうにかして止める。
それが俺とデュラム、サーラの役割だ。問題は、いざってとき、どうやって神々を止めるかだが……。
昨日顔を合わせた天上の権力者たちは、全員中庭にいた。連中が今、何をしてるかと言えば――。
「回れよ回れ、ぐるぐると♪ 牛の丸焼き、姿焼き!
激しく踊る炎の上で、焼けろよ焼けろ、じゅうじゅうと♪ 盛んに音立て、香ばしく!
燃え立つ炎、焼ける肉。脂が滴り、薪が爆ぜる。
唾を呑み込み、よだれをぬぐい、ほどよく、こんがり焼けたなら、
小刀と突き匙、手に手に取って、麦酒と一緒にいただこう!」
……ちょっと待て。連中、楽しげに歌なんざ歌って、焼肉大宴会してるんだが。
なんだよ、この緊張感皆無の雰囲気は。
「ちょっ……! あんたら、一体何やってるんだよ?」
「見てわからぬか、人間の小僧。牛を丸焼きにしておるのだ」
稲妻を脇に置き、焼き串をぐるんぐるんと回しながら、大真面目に答えを返してくる雷神。その傍らで、諸刃の戦斧を振り上げては振り下ろし、ぱかり、ぱかりと薪を割ってた軍神が、斧振る手を止め、にんまりと笑う。
「昨夜の宴で供された牛の焼き肉! あれはまっこと美味じゃったからのう。今一度、わしら自らの手でこしらえて、皆でたらふく食おうというわけじゃ」
「ああなるほど、そういうことか……って、そうじゃなくてだな!」
納得しかけた後で、激しく突っ込んだ。
この連中のことだから、いきなり姫さんのところへ押しかけて、和平の話し合いを台無しにしようとするんじゃねえか――って思ってたんだが、今のところ奴らにそんな気はなさそうだ。
なんだか、調子を狂わされるぜ。連中をここに留まらせておくのに、これを使うことになるかと思って、覚悟を決めてたのに。
腰に下げた剣をちらりと見やり、俺は二人の仲間に目を向けた。デュラムもサーラも、拍子抜けした様子で、肩をすくめてみせる。
「あ~、人間さん♪ 見つけたよ~!」
と、そこへ元気一杯に駆けてきたのは、水の女神チャパシャだ。両手で抱えた水瓶の中身をたっぷん、たぷんと鳴らしながら、俺たちの前まで跳ねてくる。
「ねえねえ、人間さん♪ お昼まだでしょ? せっかく来たんだから~、チャパシャと一緒にお肉食べようよ♪」
河と泉、雨を司る女神様は、無邪気な笑顔をちょいと傾け、「ねえねえ♪」って誘ってくる。
「ほら人間さん、チャパシャと一緒にお肉、お肉♪」
「いや、俺たちは……あ、おい! そんなに強く引っ張られちゃ、おわわわっと!」
答える間もなく、小さな手で腕をつかまれ、ぐいぐい引っ張られちまう俺。
「お、おい、待ってくれよ! 俺たちゃ別に、腹は減ってねえんだが……」
「そう遠慮するでない、人間の小僧! そこな妖精と魔女めもじゃ。地上の種族が我ら神々と共に飯を食うなど、今時そうあるわけではないじゃろう?」
戦斧を一振りし、ぱかりと薪を打ち割りながら、破顔一笑する軍神ウォーロ。
「しかり! 貴様ら地上の種族にとってはまたとない機会ぞ。昨日はいらぬ遠慮などしおって、ろくに飲み食いせなんだであろう? さあ、今日こそ我らと共に食卓を囲み、大いに飲みかつ食らおうぞ!」
海神ザバダが豪快に呵々大笑し、
「そうじゃ、もっと近う寄れ――ほれ、何を躊躇しておる、近う近う♪」
と、ウォーロが楽しげに手招きする。
昼飯を一緒にどうかって誘ってくる、神々の気さくな態度にも驚かされたが、もっと驚いたのはそれに対するデュラムの答えだった。
「その招待、喜んで受けよう――偉大なる天空の都の神々よ」
「お、おい、デュラム……!」
神々からの誘いを、そんな気軽に受けていいのかよ? 俺はそう思ったが、
「何を慌てている、メリック」
神前でも普段のすまし顔を崩さず、平然とした様子で、妖精の美青年はこっちを見やる。
「これくらいのことで、いちいち動揺するな。うろたえる姿を見せても、神々に侮られるだけだ」
「力を貸すって決めたんでしょ、ウルフェイナ王女に。だったら、今さらおたおたしないの。男の子なら、どーんと構えてなさいよ!」
サーラが俺の傍らに来て、俺の手にそっと触れてきた。
「あなた、昨日この庭の手前まで来たとき、緊張してたあたしを気遣ってくれたじゃない。こんなふうに、手を重ねて」
「サーラ……」
魔女っ子のひんやりした手。綿みたいに柔らかく、絹みてえに滑らかな感触が、神々を前に気おくれしてた俺の心を、魔法のようにすうっと落ち着かせる。
「あのときみたいに、見せてみなさいよ――あなたの意外に男らしくて、頼りになるところ」
「意外にってなんだよ、意外にって。けど……そうだな」
サーラの言葉に背中を押され、俺は腹をくくることにした。
こんなことでいちいち尻込みしてちゃ、デュラムやサーラに笑われちまうし、姫さんの力になるなんてできっこねえ。ここは冒険者らしく、堂々といくぜ。
覚悟を決めた俺は、その場にどっかり腰を下ろした。胡座をかいて膝に手を置き、胸を反らして、神々と真っ向から向き合う。
「わかった――一緒に昼飯いただくぜ、神様方」
それを聞いて、チャパシャが「やった~♪」って万歳し、久方ぶりの雨を喜ぶ蛙みてえに、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
「ふん……そうこなくてはのう」
ぐるぐる回してた焼き串をぴたりと止めて、ゴドロムが口の端をつり上げた。
「おうおう、上手い具合に焼けたわい! 皆の者、人間の小僧どもも、さあ食らうがよい――我らをこの場に押し留めておくには、まずは腹ごしらえが必要であろう?」
「……!」
白熱の撥を振るう雷神は、俺たちがなんのためにここへ来たのか、もうお見通しみてえだ。
一方、そばにいる水の女神は、そんなことにゃまったく気づいてねえようで、
「いっぱい食べてね、人間さん♪」
とか言って、無邪気にはしゃいでるが。
というわけで、神々と一緒に昼飯の時間を過ごすことになった俺たちだが……果たしてこの先、上手く連中を抑えておけるかどうか。
姫さんはもう、サンドレオ帝国の使者たちを出迎えて、この館へ向かってきてるだろうか?
早いところ、和平の話し合いを始めてくれるといいんだがな……。




