ver.044
がたん、ごとん
と、音がする。
鬼十は、まだ目を覚まさない。走行音に乗せられて、頭を上下していた。腕と右目からは、もう血は流れていない。軽く頬を叩いても、起きない。死んでしまったのか? と不安になったけど、胸を触ると、一応は脈を打っている。もう、歳なのかもしれない。
私は、鬼十から目を離すと、外を眺めた。あの時と同じ、真っ暗な世界が広がっている。夜、のような色合いで、街は染まっていた。見たことの無い街だ。人間が居ない。カラスが他の平行世界を模範して作ったから、モンスター以外は、居ないんだ。
ふぅ、とため息をついて私は椅子に座った。ケータイの画面を見る。【SP】はゼロと表示されている。
さっき、【運命グラフ】を使用中に画面を見た限り、このスキルは、【SP】を全て消費するのではなくて、【SP】のある量だけ、私達をワープさせていた。でも、どうしてこんな力になっているんだろう。中二病的な名前をつけて喜んでいたケイは、【運命グラフ】を、未来予知という能力として扱っていた。だけど、私に移った途端に、ワープするという能力に変化してしまった。確かに、ケイは、私に能力が移ると、会川奈々の力の作用で、変化してしまうと言っていたけど、これは流石に変わり過ぎではないだろうか。ってか、これからどうしよう。この世界に迷い込んでしまったということは、条件を満たさないと、元の世界には戻れないじゃん。最終的にはカラスに、また会うしかないんだろうか。でも、カラスは、私が今この世界に居ると気づくはずもないし……。ケイの依頼以前に、抜け出す方法を考えないと……。そうしないと、時間が無くなる。
電車はゆっくりと速度を落とした。次の駅に泊まるのかと、外を眺めると……『汐入駅』の文字が目に移る。
汐入?
私がこの世界に入り、変な敵と闘って、その後に入った駅と同じ名前だ。
妙に胸が高鳴ってきた瞬間、私の目は飛び出そうになった。
「え!?」
だって、駅のホームに、わ、私、が立っているんだもん……。
しかも、位置的に、私が乗っている車両が、ホームに立っている私のそっくりさんの付近で止まりそうだ。もしかしたら、アイツは、この世界の敵なのかもしれない。二階で出てきたような、モドキ……よりも、更に精巧な奴。今、鉢合わせになるのは、あまり好ましくないな。
私はそっと腰を折りながら、隣の車両に逃げ込んだ。うわ、凄い心臓が高鳴っている。椅子の端から顔だけを出して、そっと様子を伺う。
私(以下セセラギ)が、そわそわしながら、車内に入り込むと、座らずにじっとしている。扉は閉まり、電車は走り出す。セセラギは、ぼーっと窓から街を眺めていた。まるで、人間のような動きをしている。一通り眺めて、座ると……背後に座っていた、私と一緒にワープしてきた鬼十に気づいた。あ、鬼十のこと、完全に忘れていた。ここで鉢合わせになって、攻撃されたら、どうしよう。まだ寝ているし、簡単に殺されてしまうかもしれない。
セセラギは、カッターとケータイを、まるで私のように取り出すと、構えた。
そこで、急に電車は揺れた。電車は緩やかにスピードを落とした。
「うわッ」鬼十は、やっと起きる。「やば、寝過ぎた、やべーやべー」
寝ぼけているのか、セセラギを無視すると、そのままホームへ出て行ってしまう。それを、セセラギはポカンと見つめ ていた。
この光景、どこかで見たことが、あるような……。
えっと、
――ちょっと、待って。
私は、この光景に、妙な既視感を、気持ち悪いほど受けた。
思い出せ、思い出すんだ私ッ。私が、この世界に初めて入った時、私は商店街を這いずりまわり、駅にたどり着くと、変な敵と戦った。簡単に倒すと、今度は、光が駅の中に移って、私は、駅に入っていったんだ。
問題は、その後だ。
私は、ホームに立っていた。
さっき、セセラギが立っていたように。
次に、電車が止まり、中に入った。
さっき、セセラギが入ったように。
そして、私は車内で変なおっさんを見かけた。敵だと思って、ケータイとカッターを取り出したて、構えていた。
さっき、セセラギが構えたように……。
【運命グラフ】
――は、ただ、私を、ワープして、別の平行世界へ運んだんじゃ、無いのかも。
これは、時間と次元を超えている、のかもしれない?
もしかして、ここは、……過去なの?
ホームに降り立った鬼十は、キョロキョロとしている。あの時、私は車内から、鬼十のことを眺めていた。そこへ、黒い影のような物体が、ゆっくりと近づいて行ったはずだ。
あの黒い影、もしかして、私、だったのか。
そっと足音を立てないように、車内から出た。『横須賀中央駅』に出る。鬼十は、車内に残っているセセラギを見つめて、驚いた表情をしていた。電車は去っていく。最後に、私は、セセラギと目が会ったような気がした。
「うわっ、お前、え? 今……中に残っていただろう? 分裂? 分身? それとも、双子なの?」
鬼十は、私に気づくと、驚きながら金槌を取り出した。それを、私の眉間に突き出してきた。
「それに、ここはどこだ? こんな駅、見たことねぇし、何より人が居ない。説明してくれッ。いいか、嘘はつくなよ。俺は嘘は嫌いなんだ。嘘ついたら、即金槌で殴るから。いいか、俺は、男にこれ」金槌を振る。「を叩きつけるより、か弱い女の子に叩きつけるほうが、好きなんだよ、慎重に言葉を選べッ」
鬼十は混乱しているみたくて、わなわなとふるえながら、そう言っていた。ちなみに、今の言葉は全て本当らしい。ってか、この人、金槌で殴る口実を作るために、嘘を他人に禁止しているらしい。そう、読み取れた。
やれやれと心の中で腕を振るって、言葉を選んだ。
「さっきのは、……私、です」
「お前は俺の目の前に居るだろ? 何、分身の術でも使えるの? あのな、いいか、全て話せッ。俺もな、そう優しく会話出来るほど、安定してないって自覚しているんだよ」
私は、この世界のこと、宇宙人が地球を侵略していること、そして、私が超能力を使えて、もしかして時間を操ってこの世界に飛んできたことを、全て話した。「かくかくじかじか」




