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システムE ver.2  作者: 八澤
最終話 好きなページを開いて自由に弄る女子高生 こんなにも頭下げているのにヤられない
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ver.043

「あぅぅッ」

 金槌の釘打ちの部分が、ちょうど男の米神にぶち当たる。紙の塊を潰すかのように、頭蓋骨が軋んだ。男は、頭を押さえて立ち上がろうとした。それを追うように、私は、指の中で、その金槌をくるりと回すと、今度は、釘抜きの尖った部分を、男の頭へ打ちつける。

 サクっと、綺麗に刺さった。

「ぎゃああ」

 悲鳴を上げて、男は私から離れた。

 私はケータイを拾って、口の布をもぎ取る。「【ト・リ・パ】」を発動した。途端に、私を中心とした世界に、薄い緑色の膜がかかる。半径五メートルほどまでそれが広がる。【ト・リ・パ】は一定の範囲に、全ての速度を半減させる空間を生み出す。

「で、私に【守る→加速】そして、最後に、【ビルドレ】」

 【守る→加速】はその名の通り、自身を高速化させ、この【ト・リ・パ】の中でもいつも通りに動けるようになる。【ビルドレ】は言わずもがな。うん、一般的かつ実用的なコンボだね。

 男の動きは、超スローモーションになる。テレビでたまに見るような、ハイスピードカメラで撮影した映像のように、全てがノロい。頭をゆっくりと押さえながら、男は倒れるように私から離れようとしている。だけど、【ト・リ・パ】のおかげで、もの凄くノロマ。幼稚園児にでも捕まってしまうほどに、だ。

 私は、金槌で男の顎を吹き飛ばす。かっこーん! と、顎の骨と皮と歯の塊が、横にあった壁に当たって音を立てる。次に、釘抜きの部分で、男の両目を潰す。ほとんど動きが無いので、楽に命中出来た。最後に、ズボンからはみ出ている股間へ金槌を叩きつけた。ボッキリと、折れた。

「あ……あ……ああ」

 と声を出して、男は倒れた。口から泡を吹いている。初めて、口から泡を吹いている人間を見たと、少し得した気分になった。

 それよりも、この金槌は一体どこから湧いてきたんだ? まじまじと、自分の手に張り付くような金槌を眺める。釘抜きと釘打ちがついている、ホームセンターの工具コーナーに売っているような、一般的な金槌だ。――ただ、異様に使い込んだ後がある。傷や、染みが先端によくついていた。

 それに、私がこの部屋に入った時、足元には何も落ちてはいなかった。記憶に無い。誰かが、置いたのか?

 わざわざ、私が手に入れられるように?

 しかも、私が、犯されそうになっている時に気づかれずに?

 ……あー、辞めよう、時間の無駄だ。私は、深呼吸をして、シャツの残ったボタンを閉めて、ズラされたパンツを戻す。奥では、いまだに乱交が繰り広げられていた。飽きないのかなぁ、と思いつつ、この部屋を観察すると、広間の壁に、数人の人間が、寄りかかっていることに気づいた。死んだように動かない人や、ピクピク痙攣している人も居る。ほとんどが、女だけど、中には、男性も混じっていた。このシェルターは、色々な場所から通じ、命からがら逃げ込んだものの、レイプされるか、もしくは到達したところで、息絶えてしまったのかも。

 その中で、ひときわ、真っ赤に汚れている人がいた。血……じゃない。違った、真っ赤な服を着ているんだ。血のように真っ赤な上着を着ているおかげで、異様に目立った。

 しかも、何だか、さっき見た、赤色に似ている。

 見覚えがあった。そう思いながら近づくと、その人間は男性だった。ヒビの入ったメガネをかけている、四十歳を超えていた男性だった。頬が、刃物でそぎ落とされたかのように細い。だけど、不健康というわけじゃない。そういう印象が強いだけだった。

 近づいてわかったけど、この男性は、左腕を失っていた。気絶しているのか倒れていて、左腕が、肘の部分から無くなっていた。右目からは血を流している。ここで乱交を繰り広げている奴らにやられた傷とは思えない。腕が無くなっている傷口が、あまりに綺麗だから、だ。鋭利な刃物で、一瞬で切断されたかのような、美しさすら、あった。

「……うぅ」

 と、私の足音に反応して、男性は声を上げた。体の節々を痛そうに震わせると、そっと目を開ける。

 そこでやっと私は思い出した。この男性、どこかで見たことのあると思っていたけど、あのカラスのゲームの三階の世界で、会ったんだ。横須賀、という街の電車に乗った時に、車内に居た人だ。そういえば、あの時と同じような怪我をしている。「……お前は?」

 その男性は、目をパチクリとさせながら、問うてきた。

「あの、私のこと、覚えていますか?」

「……はぁ?」

「あの世界で、電車に居ましたよね?」

「電車?」

「はい。しかも、突然消えちゃうし……」

 だけど、男性は意味がわからないようだった。メガネをくいっと持ち上げて、マジマジと私のことを眺める。

「ブラジャーが見えているよ」

「襲われて……。いや、でも大丈夫です。撃退したんで……。それよりも、私の言っている意味、わかりますか?」

 そう言って、腕を持ち上げると、その男性は、目を見開いた。

「おい」と、声を出す。びくっと、私の体が震えた。

「なんですか?」

「返せって、それ」

「それ……?」

「その、金槌だよ。なんで、お前みたいな女子高生が俺の持っているんだよ」

 男性は声色を変えながら、腕を伸ばして、私の金槌をふんだくる。そして、上着の下に隠した。

「あ、すいません。さっき、ここに落ちていたのを、借りたんです」落ちていたのは本当だった。

「あぁ、そうなの? 途中で落としたのかな。ん? もしかして、これを使ってお前は暴漢を撃退したの?」

「はい」

 その男性は、満足げに息を吐く。

「あ、それはよかった。女子高生を守ることが出来たのなら、コイツも俺も本望だよ。やれやれ」

 そう言って、男性は立ち上がろうとして、無意識のうちに左腕を壁へ伸ばす。だけど、肘から下が無いので、途中でバランスを崩して、倒れてしまった。

「いってー」

「大丈夫ですか?」棒読み。「その怪我だと、あまり動かないほうが」

「変な奴にやられたんだよ。あの、地上で、でっかい怪獣がいただろ? あれに襲われてさ、黒い紐で俺を追いかけてきたんだよ。で、必死に逃げてたら、途中で黒い紐は止まってさ、あれ? 俺は逃げ切れたのか? と喜んでいたら、突然変なコスプレをした馬鹿が、目の前に現れた。そいつに襲われて……あぁ、最悪だ、クソが……」

「襲われて、逃げ切れたんですか? どうやって」多分、そのコスプレをした馬鹿は、地球を襲っているエイリアンだろう。

「笑いながら、銃で俺の腕を撃ってさ、肘から下が吹き飛んだんだよ。しかも、逃げてる途中に、コケて右目を潰すし、もうさんざん。だから、イラついた俺は、金槌で拷問をした」

「え? ご、拷問って?」

「とっつ構えて、ボコボコにしてやったんだ。」

「う、嘘だッ」

「本当だ。俺は嘘をつくのは嫌いだから。マジに本当だからね。ちなみに、俺は拷問するのが趣味なんだよ。相手は余裕コいてたから、この上にあった家に逃げ込んだ時に、変な奴がいたから、そいつを囮に使って、コスプレ野郎がそいつの頭を吹き飛ばした瞬間に、背後から金槌でぶっ叩いてやったんだよ」

 満足げに、男性は言う。

 上に居た男は、……もしかしたら、見汐さんか。まさかエイリアンに殺されていたとは。

「え、で、でも、そのコスプレ野郎、あなたの攻撃を喰らいました?」確か、エイリアン達は個々にリンクしているから、全てを無効にするはずなんだけど。

「なんで?」

「あ、その、私が聞いた話だと、そのコスプレ野郎には、打撃はおろか、銃とか炎とか、何しても絶対にダメージを負わないって言っていたんです」

「いや、普通に効いたけど? めっちゃ悶えていたから、調子にのって殴りまくっていたら、動かなくなった。俺は満足したから、トイレに入って、ボタンを押していたら、扉が開いて、ここに来たんだよ。でも、血を流し過ぎたから、ここで休んでいた。で、気が付いたら眠っていて、今、カワイイ女子高生の尋問に会っている」

 リンクが外れているのか、あるいは、故障か不備があったのか? エイリアンには、リンクがあるから、攻撃は無意味のはずなのに。それに、あのトイレに入って、適当にボタンを押して、ここまで来るだなんて……。

「運が、良いんですね」

「そうだな。……そういや、昔とある仕事を終えてからさ、異様に運が良くなったんだよ。どんなピンチが起こっても、俺の日頃の行いが良いのか、全部上手い具合に話が流れていって、切り抜けられる」

 あはは、と笑う。

 とある仕事を終えてから、運が良い。

 それに、話から察するに、拷問が好き。

 ――もしかして、この人は……、「あの、あなたのお名前は、なんて言うんですか?」

「ん? 俺? そうだね、普通は自分から名乗るべきだと言いたいところだけど、そうは言ってられないみたい」

「どうして?」

 そこまで言いかけて、私はこの男性の瞳に映る、他の影に気づいた。慌てて振り返ると、先ほどまで乱交に勤しんでいた奴らが、私の背後で荒い息を立てていた。皆、狂った猿のような目で、私のことを見つめている。

「いつの間に……」

 そう言いながら、ケータイを開く。さっきのスキル消費と自動回復を合わせて、【SP】は残り八しかない。ここは、【ビルドアップ】をして全員なぎ倒すか、【加速移動】で全員をなぎ倒すか、迷う。相手の数が多いので、途中でスキルが切れた場合、立て直すせるかが、恐いな。

 その時、さっきの男性は立ち上がると、私の前に立った。

「どいてろ。俺が少しだけでも時間を稼ぐから、君は逃げなさい」

 右手で金槌を持つと、男性は構える。少し震えていた。恐怖……ではなくて、武者震いのように。

「大丈夫です、私、これくらいなら、倒せると思いますから」

「え、何言ってるんだよ。女子高生を闘わせるわけにはいかないよ。多分、一人くらいは、これで頭かち割れると思う。いや、絶対、二人くらいはやってみよう」

「そうですか、じゃあ、頑張ってください」なんか、有野間強と同じ匂いがする……。この人も、女子高生とか好きなのかなー。うわ、嫌だな。でも、このまま任せて、私は逃げよう。【加速移動】を自分にかければ、捕まることが無く、一気に駆け抜けることが可能だ。

 そっと男性の背中から離れようとした。

 が、その瞬間に、男性は何故か私に向かって倒れてきた。私にしがみ付き、突然のことで、二人の足がからまって倒れてしまう。「ちょっとッ!」

「ごめ……やっぱり、駄目だ……。体が寒い。眠い……」

 しかも、気絶してしまった。

 ……さらに、倒れた衝撃で、ケータイが私から離れてしまう。もう最悪! 腕を伸ばしても、届かない。このアホが、私の体にしがみ付いているから、そこから動けない。

「へへへ」

 と、嫌な声がする。見上げると、私の目の前で、血走った眼つきの方々が、私に狙いを定めていた。ありえない、マジで、このアホに私が声をかけたから、犯されてしまう……。

 必死に腕を伸ばす。

 その手を暴漢達が、押さえつけようとした。瞬間、ガンッと音がした。悲鳴が続く。なんと、私の体にしがみ付く男性が、寝返りをして無意識のうちに、金槌を振り下ろしたのだ。それが、暴漢に当たった。いや、それなら、私の体から離れたほうが嬉しいんだけど……。

 その隙を狙って、ケータイに指が触れる。

「【ビルドアップ】」

 私の体に赤い光がまとわりつき、これで物理攻撃力、防御力がアップして……あれ? ケータイに指が触れているはずなのに、何故かスキルが発動しない。「加速移動」「ルームトリック」「万魔の光」どれも発動しない。

 私はケータイをむしると、画面を見る。

 真っ黒の画面の中で、文字が浮かび上がっている。


 運命グラフ


 と。

 落とした時に、この画面になったのか? 偶然? ……いや、と私は嫌な想いを感じながら、この男性を覗き込む。この人が、この画面にしたのかもしれない。

 “運が良い”

 と、この男性は言っていた。

 ――カラスが言っていた話を思い出す。

 会川奈々を追い詰めた人間が居ると。

 それは、拷問が好きな人間だったと。

 この人が言っていた話と、妙に重なっている。

 多分、私は、この人に会うために、ここまで来たんだろう。

 ……もしかして、会川奈々の力は、この男に乗り移ったのか? 会川奈々を追い詰めた時に、リンクが、繋がってしまったのかもしれない。この人の力が、私のケータイを勝手に弄り、それを催促していた。

 使えってことか。

「【運命グラフ】」

 呟く。途端に、画面が真っ黒に輝いた。黒色に光るって、なんか矛盾している気がしたけど、その通りなので、仕方がない。黒い光が、画面から浮き上がってくる。


【場所を指定してください】


 と表示された。その瞬間、暴漢達が私におそいかかってくる。咄嗟に、私の頭に浮かんだ、あの平行世界にあった「横須賀」という言葉を放つ。正確には、言わされたと言ったほうが、正しいのかもしれない。

 もちろん、この人に、

 ――鬼十(きとう)という、卑猥な名前の人間に、だ。

 ケータイは真っ黒に光る。

 ガガガと、不穏な音が、私達の廻りで起こった。次に、ぐちゃぐちゃと、私の廻りに映る世界が、水につかったかのように、崩れていく。

 そして、何も、見えなくなる。ケータイの画面だけが、私の視界に映る。ステータス画面が表示されていて、【SP】がもの凄いスピードで減っていく。

 ゼロになったところで、視界が戻った。そして、私と、鬼十は、車内にいた。

 横須賀の汐入駅から、浦賀駅までの電車の中に。

 未来予知だったはずの運命グラフは、なんと私達をワープさせていた。


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