ver.034
「インフォメーションッ」
そう呟いた途端、カラスは銃を放った。だけど、弾丸は私の頬をまたかすめ、背後の壁に当たった。
二度、
三度とカラスは連続して放つけど、一発も私には当たらない。
ケータイを見る。【インフォメーション】と書かれた文字に、タイプの項目が、目に入る。
会川奈々
と書かれていた。
……もしかして、これが、会川奈々の、能力なの? それを、私が、使える。嘘、凄い……。
「リンクが繋がったのか? この状況で?」
カラスは信じられないと言わんばかりに目を開かせていた。私から目を離さずに、背後へ下がると、奥の実験室に消えてしまった。すると、部屋の左右から、細い管がいくつも伸びてきて、そこから真っ青な煙がモクモクと湧き出てきた。
「その煙は、私が特別に作り出した強い毒性を秘めた煙となっている。呼吸するのはもちろん、皮膚にわずかに触れた瞬間、あらゆる生物は死に絶えるだろう。これなら、君はどうなるのかな?」部屋の上部から、声が響いてきた。
いや、そんなことって言われても、それは流石にヤバいでしょ。
私は咄嗟に背後へ逃げようとしたけど、壁があって進めない。その場所で立ちすくんでしまう。煙が、私の後を追うように、ゆっくりと空間を侵食していく。あっという間に、部屋は青色に包まれた。
だけど、いや、果たせるかな、私は死ななかった。【インフォメーション】のおかげで、煙は私には絶対に近寄らず、私を避けるように漂っていた。
全て、偶然だ。
偶然、カラスの放った弾丸は私を避け、偶然、毒の煙は私には降りかからない。
その状態で、一分ほど経過すると、煙は止まり、私の背後にあった壁が消えた。覗くと、通路が伸びている。
「どうやら、君は死ぬことが不可能な運命を、掴んでしまったらしいな」
「あははは、うん、おかげさまで。あんたに追い詰められて、意識が少し飛んでね、会川奈々から貰えたの。まだ、自分でも信じられないけど、そうみたい。よかったこれが相手に自分の思っていることを喋らせるみたいな儚い能力だったら、どうしようと思っていた」
通路の奥が、やんわりと光り始めた。
「その先に、小型のポットが置いてある。それに乗るんだ。そうすれば、君を地球へ送る」
「ありゃ、いいの? 返しても? さっきまであんなに必死に文句を言っていたのに……」
「会川のおかげで、もう君を不幸に陥れることは不可能と察したのでな、私は無駄なことが嫌いなんだ。行きたいのなら、勝手に行けばいいよ」カラスは狼狽することも無く、淡々と事務的に言った。
「少し、地球人を舐め過ぎたね」
「そうだな、それは認めよう。君を見くびっていた。すまない」
「土下座してもらいたいところだけど、時間が無いので仕方ない。その心の全く籠っていない言葉で、勘弁してあげるよ」
私は通路を抜けた。奥には、カラスの言う通り、小さな宇宙船が設置されていた。入る。すると、画面が光はじめ、周りの機器も動き出した。私は、少し考えた後、適当にボタンを押しまくった。
【インフォメーション】の力によって、偶然、私に操作ミスは無かった。ポットは浮遊感を持たせずに浮き上がると、次の瞬間には、外へ放り出されていた。
宇宙。
それが、目の前に広がっていた。
真っ黒な世界に、ところどころに明るい光が灯っていた。その中で、私は地球に向かって落ちていく。眩しい光が、頬をなでる。太陽が、猛烈な光を放っていた。
遥か彼方できらめく星が、とても綺麗だ。
あと一日も無い……か。
私はその事実を噛みしめる。
カラスから放たれた言葉が、今になってやっと理解出来た。
自らの、死。
という、今まで向き合ったことのない現象に、私は戸惑っている。
それを、今は考えたくないからか、私はずっと宇宙を眺めていた。
この煌めきを、目に焼き付けていた。




